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スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣 / 対話・要約

悩める男『なんかダルいの〜。』

男は健康に気遣っていた。適度な運動にバランスの良い食事。体調管理の為にできる事は習慣化しており、意識的にこなすべき健康管理の為のタスクは、ない様に思われた...が唯一、気がかりな事があった。それは『睡眠』である。

彼の場合、定時に出社し定時に帰るといった『決められた時間』を働くスタイルではなく、時期によっては残業が続く事があったり、早朝出社を強いられる事も少なくなかった。

悩める男『しっかし、体が重たいの〜。』(熟睡を習慣化できたら...疲れからも解放されると思うんやけどな...。)

井上 直樹(32歳)
1986年生まれ / 大阪府東大阪市在住 / 『健康』への関心が高く、食事には特に気を遣っている。風邪や病気にかかる事は滅多にないが、多忙である事に起因する寝不足のせいか、最近は体調が優れない...。
クラック・ジャック(天才無免許精心科医)
東洋医学史上の神医『華佗(かだ)』の末裔 / パーパート大学物理学科、ワシソトソ大学医学部、メニンガー精心医学校卒 / 人々の悩みやストレスなどの "心理不調" を薬や診療ではなく "悟り" を授け解消する事を目標としている。


睡眠について分かっている事は10%に過ぎません。


体調が優れないんですよ...。体が重たいと言うか...。
感覚的にですけど、疲れがね...とれてへんのちゃうかなと...。

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なるほど。

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睡眠...やと思うんです。僕のライフスタイルでは『睡眠』以外に見直すべき習慣はないと思われますわ。

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栄養バランスや運動量、メンタル面の管理についても万全であると?

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えぇ...。
僕はある種、健康オタクでしてね。食事、運動には特に気を遣っているんですよ。
メンタルに関しても、まぁ...そうですねぇ...。とりわけ気がかりな事はないですねぇ。

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素晴らしいな。そこまで言い切れる人は少ないモノよ。
俺もお前さんを見習わねばならんなぁ。

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へっへへへ...。食事についてやったら、アドバイスしましょか??
最近、話題の鯖缶...って違うか。

で、睡眠なんですけどね。僕が思うのは、ベタですけど、量より質なんやろなと。要は浅い睡眠を長くするぐらいやったら、短時間の熟睡の方が効果的に疲れが取れるんちゃうかなと。

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うむ。まず、これだけははっきりさせておかねばなるまい。この事実はお前さんをがっかりさせてしまうかもしれない...が、事実として『睡眠』については今の段階で、人類の叡智をもってしても "よく分からない" んだ。

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よく分からない?

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そう。

睡眠が研究対象として注目されるようになったのは、1953年のレム睡眠の発見によるものだが、それまで睡眠は受動的な意識消失状態と考えられていた。

レム睡眠の発見を契機に、覚醒と睡眠、ノンレム睡眠とレム睡眠の調整機能を解明するための研究が進められるようになった。また睡眠障害の診断法や治療も考案され、『睡眠医学』という学問が形成されるまでになっている。

しかしながら、睡眠の深さも睡眠の質も、いまなおその本質はわかっていない。

個人の適正な睡眠時間もわかっていないし、睡眠不足とは具体的にどの程度をいうのかも明らかになっていない。睡眠中の現象としてはわかっていても、そのメカニズムが不明のものもある。

睡眠について明らかになっていることは、まだ全体の10%にも満たない。

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な、なんですてぇ〜〜〜ッ!!??

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睡眠の5つの役割


今から話す事は、睡眠の本質における10%以下の知恵という前提で聞いて欲しい。

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は、はぁ...。

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お前さんが言う様に、睡眠には『身体に休息を与える』と言う役割がある。どんな疲労も、寝ればある程度は回復する。

加えて、睡眠には

❶ 脳に休息を与える
❷ ホルモンバランスや自律神経を整える
❸ 記憶を整理して定着させる
❹ 免疫力を上げて病気を遠ざける
❺ 脳の老廃物を除去する

などの役割がある。

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ほぅ。

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❷の『ホルモンバランスや自律神経を整える』に関して言うと『黄金の90分(睡眠後、最初の90分間に訪れる深い眠り)』に分泌される成長ホルモンによって、骨や筋肉で新しい細胞が生まれる。また深い睡眠時には交感神経活動(血管・心臓などの不随意の臓器を支配する自律神経の活動)が低下し、副交感神経(副交感神経の活動により,瞳孔は縮小し,心臓は抑制され,消化器系,泌尿器系は促進される)が優位になり休息がとれる。

❸の『記憶を整理して定着させる』に関して言うと、睡眠中の脳は長期的な記憶の形成に大きな役割を果たしていることがわかっている。脳の中では、その日に学んだ情報が睡眠中に短期記憶から長期記憶に移動される。人は毎日、多くの情報を取り入れるが、どの情報を覚えておくべきかを脳が選択するのは睡眠中なんだ。

❹の『免疫力を上げて病気を遠ざける』に関しては、睡眠不足の人は感染症になりやすいことがわかっている。睡眠不足は異型細胞(癌のもとになる細胞)除去しにくくする事に繋がり、がんを引き起こす一因となる。

❺の『脳の老廃物を除去する』に関しては、最近明らかになったのが、睡眠中に脳が活発に老廃物を除去する脳内リンパ流(グリンパティック・システム)だ。脳内の老廃物は、脳の外側にある脳脊髄液に排出され、そこから静脈に吸収される。すなわち、脳のリンパ様組織「グリンパティック・システム」は睡眠中にこの排出作業を活性化させる。

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なるほど。睡眠不足が肥満の原因になるとも聞いた事がありますが、これは❷のホルモンバランスを整えるに起因する事ですか?

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流石に詳しいな。

睡眠不足は、食べることを抑制するホルモン『レプチン』が分泌されにくくする。一方で、食欲を増進するホルモン『グレリン』は、睡眠不足のときによく分泌される。

実際、アメリカでの100万人規模の調査では、睡眠時間が短いと太りやすいことが明らかになっている。この傾向は、特に女性において顕著なんだ。

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眠りの借金は眠りでしか返せません。


先生、僕は仕事柄、決まった時間の睡眠時間を確保する事ができへんのですよ。最近よく聞く『睡眠負債』が溜まっているんちゃうかなと...。どうしたらエエんですかね?

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うむ。人間は一定の睡眠時間を必要としていて、それよりも睡眠時間が短ければ、足りない分が蓄積されていく。分かりやすく言えば、眠りの借金とでも言おうか。

これが睡眠負債(借金)がたまると、脳や身体にさまざまな機能劣化が起こり得ることが分かっている。
この借金をどう返済していくのかだが...はっきり言って、『寝る』事でしか返せない。

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えぇ...。疲労回復の為の...とかよく聞くじゃないですか?
あの手の施策は、対処にならないんですか?

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一時的な疲労緩和策にはなるだろうが、本質的な対策にはなり得ない...。つまり、寝ないで心体の機能の劣化は避ける事ができない。

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で、でもショートスリーパーとか存在するって言うじゃないですか??ナポレオン、エジソン、明石家さんま...彼らが実施する睡眠不足への対策があるんとちゃいますか?

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睡眠時間の長短は、遺伝的資質に規定されることが大きい。つまり、才能だな。『訓練すれば誰でもショートスリーパーになれる』という人もいるが、短時間睡眠の因子をもっていない人がそれをやろうとしても、睡眠負債がたまっていくだけだ。ショートスリーパーは、実際は全体の1%未満にすぎないんだ

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自身の眠りの傾向を知り、睡眠時間を適正値に近づけましょう。


寝るしかないって...。
僕は忙しいし、寝る時間を確保する事自体が難しいんですよ。
休日に寝る言うたかて、1日、2日とずっと寝とる訳にもいきまへん。どないせぇ言うんですか?

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睡眠時間の長短は、人によってマチマチだ。
つまり、個別性が強すぎる...。睡眠について分かっている事が10%に過ぎないと言うのも、人の数だけ答えがあるモノなんだ。

その上でお前さんがやるべき事、それは己の『適正値』を知ると言う事だな。

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適正値を知る?

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そう。

1994年に行われた4週間におよぶ睡眠時間計測の実験がある。

若く健康な被験者(彼の平均睡眠時間は7.5時間)に、毎日同じ時間にベッドに入り、好きなだけ眠ってもらう。ルールとして、眠れても眠れなくても、必ず毎日14時間ベッドで横になっていることを課した。そして4週間にわたっての睡眠時間の変移を調べたんだ。

実験初日は、ベッドにいなければいけないと決められた14時間のうち、13時間眠れた。2日目も、13時間近く眠れた。ところが、日を追うごとに睡眠時間は減少し、1週間ぐらいすると、ベッドに入っても4〜5時間は眠れないようになった。

これを続けたところ、3週間後に、睡眠時間が8.2時間になり、それ以上睡眠時間が減ることはなくなった。

このことから、この被験者が生理的に必要とする睡眠時間は、8.2時間であろうと判定されたんだ。

引用:スタンフォード式 最高の睡眠


当然ながら、全ての人に共通して8.2時間の睡眠時間が必要と言う話ではない。この結果は人によってマチマチだろう。

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いや、興味深いですな〜。しかし、僕が4週間もこんな実験をする事はできませんよ?

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おっしゃる通り。誰もが適正な睡眠時間を割り出す事ができる方法について説明しよう。

まず、いつ起きてもいい休日に、自然に目が覚めるまで寝てみる。これを何度か繰り返す。このとき普段とっている睡眠時間よりも2時間以上長く眠ってしまう人は、睡眠負債が相当たまっていると考えられる。

そこで、普段の睡眠時間を30分増やし、それを3カ月つづける。そしてまた休日に好きなだけ寝る。そうすれば、少しずつ適正値との時間差を縮めていくことができるはずだ。

睡眠時間が適正値に近づけば近づくほど、目覚めがよくなったり、日中のパフォーマンスが向上したりする!!

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なるほど〜、30分なら捻出できます。
しかし時間がかかりますねぇ〜。

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習慣の話だから、すぐに正解を導くというわけにはいかない。
けど、毎日コツコツ試してみる。健康オタクのお前さんが得意とする所じゃないか?

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確かに...。いや、これやってみますよ。

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質の高い眠りの為の黄金の90分


最後に『黄金の90分』について伝えておこう。

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お、黄金の...90分?

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うむ。これは今日からでも意識できる事だから、是非とも知っておいて欲しい。

人は眠りにつくと、まず深い睡眠(ノンレム睡眠)に入り、脳も身体も休息する。そしてその後に浅い睡眠(レム睡眠)に移行する。この時に脳は活動しているが身体は休息しているという状態になる。このサイクルを「睡眠周期」といい、目覚めるまでにこの周期が4 ~ 5回くり返されるんだ。

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あぁ、なんか...聞いた事がありますね。

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質の高い眠りを得るための最大のポイントは、「最初のノンレム睡眠を深くしっかりと眠れるようにする」ことだ。これを「黄金の90分」と呼ぶ。睡眠周期には個人差があるが、とにかく約90分の最初の深いノンレム睡眠を「最高の眠り」にしてほしい。

と言うのも、黄金の眠りが大切なのは、細胞の増殖や正常な代謝の促進などの役割を果たす「成長ホルモン」の8割がここで分泌されるからだ。

さらに、最初に深く眠れると、その後の睡眠リズムが整いやすい。そうすると、睡眠の重要な機能である、自律神経のバランスを整える、脳の老廃物を排出する、免疫機能を活性化などが効率よく行われるんだ。

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けど、どうやって!!??

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人間にはすぐに眠る為の、2つのスイッチがある。これらのスイッチを押せば、頭は寝るモードに切り替わり、睡眠の質が飛躍的に改善する。

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す、スイッチ!?ってな、なんですの?

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ひとつは体温だ。人間の体温は睡眠時より覚醒時のほうが高い。ただしこれはあくまで、体の内部の体温(深部体温)の話だ。普通、入眠前には手足が温かくなる。これは皮膚の温度が上がって熱を発散し、深部体温を下げる為だ。スムーズな入眠をする為には、いかに深部体温と皮膚体温の差を縮めるかが鍵となる。

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ほ、ほぅ。

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そのための有効な手段はずばり、寝る90分前の入浴だ。入浴は体の内部の体温を動かす。深部体温が一時的に上がれば、深部体温は上がった分だけ大きく下がろうとするので、入眠時に必要な「深部体温の下降」がより大きくなり熟眠につながる。上がった体温が元に戻るまでに要する時間は約90分と言われている。つまり、寝る90分前に入浴をすませるようにすればよい。

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なるほどぉ〜!!

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すぐに眠りにつくための、もうひとつのスイッチが『脳』だ。どんなに体温を上げ下げした所で、頭が働いていたら眠ることはできない。

そこで、何も考えない、言わば退屈な時間を設ける事を習慣づけることが大事になる。「退屈」である事は睡眠にとっては効果的だ。

学生の頃に、退屈で眠たくなる様な授業があったろう?
意識的にあの『退屈』なる時間を設けるのだよ。この事に方法は問わない。

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本当に勉強になります。

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オーケーだ。睡眠について、これ以上は長く話をするつもりはない。
今日、話した内容を実践してみてくれ。

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