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The 1975 "Part of The Band"(BFIAFL) 和訳〜わが思索のあと〜


イギリスのバンドThe1975の5枚目のアルバム、”Being Funny In A Foreign Language"の4曲目、” Part of The Band"の和訳です。前作から約2年ぶりのリリースとなった本作ですが、随分とオトナな曲・MVになりました。おなじみJohn Waughのサックスも、いつものパワフルな演奏というよりは、静謐で美しい演奏になっています。この曲が本アルバムの中で一番最初に発表されたので、当初はこの路線でいくのかな(ちょっと前作の続きっぽい)とおもっていましたが、蓋を開けてみたら、この曲だけアルバムのなかから浮いているような印象を受けました(笑)歌詞も他と比べると大分難解ですし、、、
とりあえず、Mattyがこの曲に関してApple Musicのインタビューで「聴き手に解釈の余地を与えている」と発言していましたから、自分なりの解釈で(無理のない程度に)以下のように和訳してみました。ご覧ください!なお、注釈は後ろにつけてます。

[Verse 1]


She was part of the Air Force, I was part of the band (*1)
彼女は空軍の一員で、僕はバンドの一員だった。
I always used to bust into her hand 
僕はいつも彼女の手でイってしまっていたんだ。
In my, my, my imagination (*2)
僕の想像の中でのことなんだけどね。
I was living my best life, living with my parents
両親との暮らしは最高だったよ。
Way before the paying penance and verbal propellants (*3)
僕が悔い改めたり、しゃべり方がいかれるようなクスリをやったり、
And my, my, my cancellations (*4), hm, yeah
Twitterのアカウントを削除したりするよりもずっと前のことさ。

[Verse 2]


And I fell in love with a boy, it was kinda lame (*5)
そして僕はある少年にダサい恋をした。
I was Rimbaud and he was Paul Verlaine(*6)
僕がランボーで、彼がポール・ヴェルレーヌ。
In my, my, my imagination
僕の想像の中ではね。
So many cringes in the heroin binges
ヘロイン中毒でとんでもないことになって
I was coming off the hinges, living on the fringes (*7)
調子が狂いかけてきて、
Of my, my, my imagination, oh, yeah
想像の淵で生きていた。

[Pre-Chorus]


Enough about me now
僕についての話はこんなもんで十分だろう。
"You gotta talk about the people, baby" (*8)
「世の中のことについて話さなきゃいけないだろ、君は」
(But that's kind of the idea)
(まあ、そういうことさ)

[Chorus]


Now I'm home, somewhere I don't like (*9)
今は家にいるんだけど、あんまり落ち着かない。
Eating stuff off of motorbikes
デリバリーで注文した食べ物を食べて、
Cumming to her lookalikes (*10)
あの娘に似ている子でヌいている
I can't get the language right
ちょうどいい表現が見つからない。
Just tell me what's unladylike 
女らしくないっていうのがなんなのか教えてくれよ。

[Verse 3]


I know some Vaccinista tote bag chic baristas
僕の知り合いのトートバッグを手にした上品なバリスタは、ワクチンを広めてる。
Sitting in east on their communista keisters 
共産主義者のお尻で東に座り、
Writing about their ejaculations (*11)
自分の射精について書きながらね。
"I like my men like I like my coffee
Full of soy milk and so sweet, it won't offend anybody" (*12)
「僕は親友のことが大好きさ。ソイミルクたっぷりの甘ったるいコーヒーが好きなのと同じように。だってそれは誰も傷つけたりはしないから。」
Whilst staining the pages of The Nation, oh, yeah (*13)
おっと、”The Nation”のページ汚しちゃったよ。

[Pre-Chorus]


A Xanax and a Newport (*14)
xanaxにNewport、
"Well I take care of my kids", she said (*15)
「いやあ、私は子供たちの世話をしてるのよ」と彼女は言った。

[Chorus]


The worst inside of us begets
僕たちの内面の闇が
That feeling on the internet
ネット上でのあの感情を生み出している。
It's like someone intended it
まるで誰がが意図してやってるみたいだ。
(Like advertising cigarettes)
タバコの広告みたいに。
A diamond in the rough begets
ダイアモンドの原石から
The diamond with a scruff you get (*16)
美しいダイアモンドと無精ひげの男が生まれる。

[Outro]


Am I ironically woke? (*17) The butt of my joke? 
皮肉にも僕は意識高い系の奴なのか?嘲笑の的?
Or am I just some post-coke, average, skinny bloke calling his ego imagination? 
それともただの元薬物中毒者で、平凡な、自分のエゴを想像だと呼んでいるやせこけた男?
I've not picked up that in a thousand four hundred days
And nine hours and sixteen minutes, babe (*18)
もう僕は1400日と9時間16分もクスリはやってない
It's kind of my daily iteration
毎日こんなことを繰り返してるんだ。

(*1)

彼女は空軍で、自分はバンドマン。この対比は何を意味するのだろう、とずっと考えていたのですが、一つ思ったのは、これはMattyが今作のインタビューでたびたび語っている「男らしさの解体」ではないかということです。女性を屈強な空軍、男性である自分を(不安定な)バンドマンと表現することによって、暴力的な「男らしさ」から男性を解放しているのではないでしょうか。

(*2)


bust というのは動詞で使う場合、~を打ち砕く、とか爆発させる、という意味になります。ここでは前の部分で彼女を空軍としていますので、「爆発」という表現を使って彼女にイかされることを比喩的に表しています。
また、あくまでも彼女の手でイかされることは、「自分の想像のなかでの話」で、実際は「自分の手でイかされる」つまり、自慰でしょう。近年、自慰というものは極右の人々によって、男らしさを損なうものとみなされているようです。このアルバムの一曲目で、Mattyは自身をリベラルだと公言していますから、極右への反抗として、そして「男らしさ」の解体として、自慰について言及しているのだという捉え方もできるのではないのでしょうか。ちょっと考えすぎですかね、、、(笑)
とりあえず、極右のこの思想についての記事を貼っておきます。
また、この歌詞は(*10)の部分ともかかわってくるのでそちらもご覧ください。

(*3)


"verbal propellants"は比喩で、"verbal"は言葉、言語に関わる形容詞、"propellants"は「推進させるもの、(弾丸の)発射火薬」などの意味を持つ名詞です。では「しゃべること(言葉)を推進させるもの」が何を指すのかという問いに対する答えを求めるのに、The 1975 の2ndアルバムに収録されている"UGH!"という曲がヒントになります。

[Verse 2]
This conversation's not about reciprocation no more
もはや会話のキャッチボールなんて成り立っていない
But I'm gon' wait until you finish so I can talk some more
でも俺は君が話終わるまで待つつもり。で、俺はまた
About me and my things, my car, my living
自分のこととか、自分の車とか、生活、
And how I'm giving it up, giving it up again
あとはどうやったらこれをやめられるのかってことについて話すことができるのさ。

この部分では、クスリの影響でとにかくいろいろ話していたい、という薬物依存症時代のMattyの様子が描かれています。つまり、"verbal propellants"とはドラッグのことだと思われます。

(*4)

Mattyは2020年にある投稿を巡ってTwitterで炎上し、アカウントを削除していました。一連の流れについては以下の記事にまとまっています。

(*5)


Mattyのセクシュアリティーに関してはたびたび話題になっていますが、4th アルバムに収録されている"Me and You Together Song"でもこんな歌詞が出てきます。もしかしたら、少年期に同性に対して恋をしたことがあったのかもしれません。

I'm sorry that I'm kinda queer
クィアでごめんよ
It's not as weird as it appears
見た目ほど変わったやつじゃないんだ。
It's 'cause my body doesn't stop me (Stop me)
身体が言うこと聞かないからなんだよ。
Oh, it's okay, lots of people think I'm gay
いいさ、みんな僕のことをゲイだと思ってる。
But we're friends, so it's cool, why would it not be? (Not be)
でも僕らは友達だろ、それでいいじゃないか

(*6)


ランボーとヴェルレーヌは19世紀のフランスを代表する詩人です。彼らは同性愛関係にあったとされています。(「ヴェルレーヌとベルギー、ロンドン放浪」を参照)

(*7)

cringes「恥ずかしい物事、感心しない内容」 binges「どんちゃん騒ぎ、熱中」 hinges「蝶番(ちょうつがい)」 fringes「へり、縁、フリンジ」です。よくこんなきれいに韻をふめるなあと感心してしまいました。

(*8)

The 1975は、3作目のアルバム" A Brief Inqury Into Online Relationships"以降、"Love It If We Made It"に代表されるような、社会・政治に関するトピックを扱うことが増えてきました。そんな中で、ボーカルのMatty自身、世の中の代弁者たることを期待されるようになっています(ロックスターの宿命?)。この歌詞はそうした世間の期待を背景としたものでしょうか。

(*9)

verse1での最高だった両親との暮らしと比べて、今の暮らしがそれほどいいものではないということが現在形で示されています。

(*10)

cummingは、下系の意味です。「あの娘に似た子でヌく」わけですから、ここでの主体はポルノサイトなどを使って、好きな(あるいは好きだった)人のそっくりさんを探して自慰をしているものと推測できます。そうすると、「想像の中で、彼女にイかされていた」つまり、ポルノは見ず、自分の妄想で自慰をしていた(*2)の少年時代と対比されているということにも気づきます。そこで、一つ考えたのですが、Mattyが現状の暮らしにそれほど満足していないのは、インターネットのせいなのではないでしょうか。昔は必要とされていた想像力は、今や必要なくなり、インターネットですべて済ますことができるようになりました。ネットを使えば便利で楽だし、それはそれでいいのかもしれませんが、ネット上にあるものというのは他人によって「作られ」ていますから、自分の頭で自由に想像するのとは違って、ある種制約があります。そのため、自らの欲望を完全には満たすことができていないのではないか、ということです。(ひとつ前のデリバリーの部分の歌詞もそうです)

(*11)

個人的にこの曲の中で一番解釈が難しい部分ですが、「トートバッグ」「バリスタ」というおしゃれなものと「ワクチン推進派」「共産主義」という政治的なものを並置することで、おしゃれな若者もネットやメディアの影響でやや急進的ともいえるような政治思想に染まるようになってきているという状況を表わしている、という解釈をしてみるのはどうでしょうか。また、「彼らの射精について書いている」というのは、日常のどうでもよいことへの発言と政治的な発言がインターネットにおいて併存するようになり、混沌とした言論空間が誕生してしまっていることを表わしている、と僕は捉えてみました。

(*12)

"I like my men like I like my coffee"は、ネットミームをもじったものです。また、soy milkたっぷりのコーヒーと、自分の男の親友が同列に扱われていますが、soy boy というスラングがあり、これが「草食系男子」のことを指す、と考えると、非家父長的な男性の友達をMattyが好んでいる、ということがわかります。

(*13)

"The Nation"はアメリカの左翼的な週刊誌です。soy boy がリベラリストの「草食系男子」を表わしていると考えると、前の歌詞とつながりますね。

(*14)

ザナックスとは、抗不安薬として出回っているドラッグです。ビリー・アイリッシュがこれをテーマにした曲を出しています。

また、Newportはたばこのメーカーです。

(*15)

ここでの「彼女」とはMattyの母親のデニース・ウェルチノことでしょうか。MattyにはLouisという弟がいるので、kidsとなっていても辻褄が合います。母親が子供たちの精神状態などを不安に思っているのでしょう。

https://www.instagram.com/healytymd/  (LouisのInstagramです)

(*16)

scruffは「無精ひげの汚らしい人」を指すスラングとして用いられる。ここでは、ダイヤの原石から、美しいダイヤと、それとは対照的な汚らしい男が生まれる、という解釈をしてみました。レオナルドダヴィンチはかつて、「美しいものと醜いものはともにあると互いに引き立て合う。」と言ったとされていますが、美しいものは、それ自体として美しいのではなく、醜いものと比較して相対的に美しいとされるのだ、と言いたいのかもしれません。

(*17)

"woke"は社会で起きていることに対して認識があることを意味するスラングです。


(*18)

「1400日と9時間16分」というのは4年弱ですから、2018~2022くらいの期間を指すでしょうか。もう少し正確に言うと、2018年の9月中旬です。なので、ちょうど3rdアルバムが出る2カ月前くらいです。そこからMattyはクスリをやっていないようです。
もう一つ気になるのは、9時間16分というところですが、これは、最後にクスリをやったのが2018/09/18だ、ということでしょうか。




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