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ショートショート『音符運び』

絶賛男ブラ沼ハマ中。クララリネットです。
今回は、男性ブランコさんの漫才『音符運び』を
ショートショートの形にしてみました。

見たことない方も大丈夫(多分)
見たことある人は
客を浦井さん、
店員を平井さんに置き換えると
より楽しめると思います。

それでは はじまり〜♪



「お電話ありがとうございます……
  ……でお馴染み…です。
  ご要件は……はい、……承知しました。
  ……はい、ありがとうございます」

店の中から声が聞こえる。
近所に最近できた店。
何屋さんかは分からないが、
毎日忙しそうな声は聞こえてくる。

外観はコンビニより広く、ドラッグストアより狭い。
何の店か気になって近づいたら、
うっかり自動ドアが反応して開いてしまった。

「いらっしゃいませ〜」

メガネの店主らしき人が出てきた。
店の中は白と黒で統一されていた。
正確には、白い壁に白い天井、白い床。
ショーケースには黒い何かが置いてある。
あれは…音符?

「ようこそメロディーデリバリーへ!」

「わっ!」

いつの間にか店員が
私と顔面スレスレに立っていた。

「あぁ!びっくりした!」

「おっと失礼。
  久しぶりのお客様だったので、
  距離感が掴めませんでした。
  申し訳ない申し訳ない。」

言葉では謝っているが店員の目は笑っている。

「ここって、何屋さんなんですか?」

「あら!ご新規の方でしたか。それはそれは…」

店員の目がさらに笑った。

「こちらは、『音符運び』の店でございます。」

「『音符運び』?ちょっと存じ上げないです。」

「あ、『音符運搬』か。」

「いや丁寧に言われても分からないです。」

「音楽家の元に音符を運ぶ仕事なんです。」

「そんな仕事あるんですか?」

「よく芸術家や音楽家の人が作品を作っている時に
 『降りてきた!』とか言いません?」

「ああ、アイデアが天からふっ、とこう
  降ってきたとかそういうアレですかね?」

「あれ、僕なんです。」

「はい?」

「音楽家の人のところに
  音符を運んでるんですよ。実際。」

「ホントに?」

「じゃあちょっと見てみます?」

店員は8分音符が入っている
ショーケースの鍵を開けた。

「さあさあ、こちらに。」

自分の背丈ほどある8分音符。

「音符ってだいぶ大きいんですね。」

「そうなんです。だから気をつけて運ばないと。
  このニョロリンとした所、刃物なんです。」

「そうなんですか!?」

「肩とかにかけたら危ない危ない。」

「じゃあどうやって運ぶんですか?」

「この棒の部分をこうやって……持ち上げて、
  下の玉をこう……おっと、」

店員がよろけている。
相当重たいみたいだ。

「そんなに重たいの!?」

「玉の部分が……ちょっと……」

「ゆっくり落ち着いて!」

「はいっ………………あっ」

にょろりんが客の頭に突き刺さった。

「アアアァァァァァ!!!」

「ああー!お客様ー!すみませんすみません!
  えーとあーと、そのどうしよどうしようあわあわ…」

薄れゆく意識の中、
「あわあわ」と言いながらあわあわする
店員が見えた。
私は、自分の残機が5から4になったことを確認し、
すっと立ち上がって店員の元へ近づいた。

「周り気をつけないと!危ない。」

「すみませんすみません。
  これはちょっと危ないですね。
  違うのにしましょう。」

隣のショーケースへ案内された。
8分音符が2つ繋がった、
いわゆる連符と呼ばれる音符があった。

「これなら運びやすそう。
   縦のここがロープになってて、
   横の部分が棒になってるんです。
   だから昔の豆腐屋さんみたいにこう……」

「あ、肩にかけて……って、そりゃ重たいですよ!」

店員は先程よりも大きくふらついた。
玉の部分が2つになっているのだから、
さっきよりも重たいに決まっている。

「ちょっと……方向転換……」

「方向転換!?ゆっくりでいいですからね!」

「はいっ…………ふんっ!」


ボゴッ!

遠心力を味方につけ、
大きな黒い玉は2つとも客に命中した。
もはやダブルあさま山荘である。

「ああああ!すみませんすみません!
  あわあわあわあわ……」

「もう2機失ったんですけど。」

「申し訳ない申し訳ない!」

「私が残機あるタイプの人間だから
   何とかなりましたけど……」

「普通は残機無いですから!回復力がエグいですな。    
   あ、ちょっとすみません。」

店の奥で電話が鳴った。
店員は小走りで電話の元へ急いだ。
8分音符も連符も床に転がしたまま。


「お電話ありがとうございます。
『音符のことならおまかせあれ!
   誰しも1度は持ってみたい!』
  でお馴染みのメロディーデリバリーでございます。」

(それ要るか?)

「はい……あぁ!ジョンさん!
  いつもありがとうございます。
  ご要件は……はい、あ、五線譜を……
  はい、それともう1つ……はい、承知しました。
  ……はい、ありがとうございますー」

電話の相手はお得意様。
どうやら五線譜の注文が入ったらしい。
店員は店の奥から
ホワイトボードのようなものを出てきた。

「それ運ぶんですか?」

「はい。この五線譜、キャスターがついてるので
  このまま押して、このまま…………あっ!」

つまずいた拍子に、
五線譜がシャーッと加速してこちらにやってきた。

スパパパパパーン!

私の身体は綺麗に分割された。
ゆで卵を割る100均の便利グッズみたいにされた私。
あわあわ言いながらあわあわしてる店員。
店の外までシャーッと飛び出して行った五線譜。
そして、
また減る残機。

「あなた気をつけなさいよ!」

「いやいやいやごめんなさいごめんなさい!
   あぶなすぎますね!」

「何してるんすか!」

「ちょっと投げて運びましょう。投げて。」

「もう1つの注文のやつですか?」

「そうですそうです。
  ちっちゃい音楽記号。フォルテシモ。」

店員は棚からフォルテシモを取った。
小文字のfが2つ並んだ記号だ。

「この片方のfを横にして、くっつけると…」

「ああ、fの十字ですね」

「飛びそうでしょ?
  これを音楽家さんが住んでる辺りに向かって…
  …それ!」

フォルフォルフォルフォルフォルフォル…

十字のフォルテシモは
フォルフォルと音をたてながら飛んで行った。
が、しばらくすると
ブーメランのようにこちらに返ってきた。

「危ない!」

「大丈夫大丈夫。キャッチしますから!」

「頼みますよ!」

「……それっ!」

店員はジャンプをしながらキャッチしようとした。
けれども、フォルテシモはその手をすり抜け、
私の方へと真っ直ぐ飛んできた。

「あぁっ!ミスった!ごめんなさい!」

「お前っ……」

私の首から噴水のように血が吹き出している。
「あわあわ」という声がうっすら聞こえてきた。






数日後、
「もしもし?音符運び屋さん?
  先日電話で注文した者だけど。
  フォルテシモ、まだですか?
  ……あぁ、五線譜?五線譜は来ましたよ。
  びっくりしましたよ。
  家の壁を突き破って来たんだから。
  ……ああ、はい。後日……フォルテシモの方は……
  はい、はーい、お願いしますね。」

彼は電話を切った。

「これだけ届いてもなぁ……。
  このままだと締切に間に合わないし、
  うーん……。あ、そうだ。」


彼の名前はジョン・ケージ。
この日、彼は『4分33秒』を作曲した。

作曲:ジョン・ケージ『4分33秒』

(了)


お話の内容はもちろんフィクションですが、
『4分33秒』いう曲は実際にあります。
気になる方は調べてみてください♪

ショートショートの長さか?笑
ちょっと強引なオチでしたが、
わちゃわちゃするお2人が表現できたかなと思います。

私も残機が欲しい……。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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