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ビビアン・スー曰く「誰もみんな、君のようならいい」

 私がいわゆる〝多感な時期〟を過ごしていた1990年代のJポップ。なかでも街で、コンビニで、テレビで、ラジオでひっきりなしに流れるものだから覚えてしまったけれども、そう熱心に聴いていたわけではないからちゃんとは覚えていない曲たち。時を経てそういうのを聴くのは、なんかいい。といっても、そこで歌われている劇的な恋とか苦境とか運命とかにはちっとも感情を移せない。ただ当時は気づけず聞き流していた妙なフレーズとか、予想外に素晴らしい言葉とかを探し歩くのが楽しいのである(見つかるのはたいてい前者)。

 普段は音楽を聴きながら書き仕事ができないたちなのだが、月に一回くらいほぼ単純作業に徹する数時間があって、そんなときはパソコンに向かいながら上記のような無益な耳の散歩を楽しむ。せっかくなので、先日 YOUTUBE で「90年代」と検索してランダムに流し続けた曲のなかから、様々な理由で耳にひっかかったフレーズを以下列挙してみる(一部、80年代と00年代の曲を含む)。同世代の人でも、いざこうして文字として示されると、ものによってはすぐには何の曲のフレーズかわからないのでは。

①「Boy meets Girl. あのころはいくつものドアをノックした」
②「様々な角度から物事を見ていたら自分を見失ってた」
③「誰もみんな君のようならいい」
④「いつもより眺めのいい左に少しとまどってるよ」
⑤「あなたのいない右側に少しは慣れたつもりでいたのに」
⑥「永遠ていう言葉なんて知らなかったよね」
⑦「勇気と愛が世界を救う」
⑧「週休2日しかもフレックス」
⑨「今夜期待している友達の友達に」
⑩「かたづいてゆく仲間たちにため息」
⑪「人生とは心の持ち方でどうにもなる」
⑫「あなたの小さなミステイクいつか思い出に変わる」
⑬「トリコロールの海辺の服を二度と着ることはない」
⑭「今僕を嗤う奴はきっとケガをする」
⑮「瞳を閉じて」
⑯「タイトなジーンズにねじ込む私という闘うボディ」
⑰「都会がくれたポーカーフェイス海に捨ててしまおう」

 さて、いくつかについてコメントを記しておきたい。②はミスチルの『イノセントワールド』の一節。久しぶりにこの曲聞くまで、こんなこといってるなんてまったく知らなかった。完全に通り過ぎてた。この曲のこれ以外の歌詞は割と気合入ってる感じなのに、このフレーズだけなぜかとてつもなく間抜けでバカっぽい。③はブラックビスケッツの『タイミング』の一節で、書いてみるとなんてことないが、これをあらためてビビアン・スーの口から聞くとなんかすごく胸に迫って泣けてくるので、試してみてほしい。奥田民生バージョンもいい。④のマッキー(『もう恋なんてしない』)と⑤のプリプリ(『M』)が YOUTUBE で偶然出会ったのが無駄に感動的だった。⑦~⑨は、おもわず全フレーズをメモりたくなってびびった広瀬香美『ロマンスの神様』。とくに曲の冒頭の⑦がいきなりすごい。⑩~⑬、竹内まりあの曲にはなぜかいつもひっかかる。⑮平井堅。これが流行った当時、聴くたびに心の中で「閉じんのは『まぶた』だバーカ」といってた。⑯はリアルタイムで初めて聞いた瞬間に驚き立ち止まってしまった BoA の『VALENTI』のフレーズ。こんな過剰な物言いはその後も岡村靖幸以外ではそう聞かない。ていうかこれが『VALENTI』という曲名だと最近知った。⑰はZARDの『あの微笑を忘れないで』より。「タイトなジーンズに~」とほぼ同じ音数であるところに、過剰な歌詞どうしに共通する謎めいた法則の存在を感じないでもない。

 と、いったところで私は無益な耳の散歩に飽き始め、ちょうどその頃には作業が煮詰まり出しており、気分を変えるためにBGMの趣向をガラッと変える。そしてあらためて、ボブ・ディランの偉大さとか井上陽水の凄まじさとかに打ちのめされ、大滝詠一に心の底から安堵するのだった。

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