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aki先生インドネシアで踊る

ヌサンタラダンスとは、一曲のエスニック音楽の中にインドネシアの各地の伝統舞踊やモダンダンスを組み合わせたものだ。

インドネシアは300もの民族が合体してできた国で、世界最大の群島国家だ。そのインドネシア語での国名は、Negara Kesatuan Republik Indonesia, Abb: NKRI 。Negaraは英語のCountry、KesatuanはUnifyだ。それら300の各々の民族はインドネシア全体で800以上の多くの島に分かれていた。生活圏を海が隔てていたし、かつてはそれぞれに王がいて行政しており、蘭領東インドとなって国域が現在のようになった。お互いに外国だから、日本語の方言とは違って言葉は通じ合わない。だから語彙どころか文法さえ違う言葉を話す民族同士を一つに連合し、独立した国家として運営するのは並大抵のことではないと思われる。一つになってまだ100年も経たない若い国だ。多くのインドネシア人にとってはインドネシア語はだから母語ではなく第二言語だ。ちなみにインドネシア語の母体となったマライユ語はマレーシア語とほぼ同じだから、インドネシア語を学ぶとマレーシアでもかなり通じると聞いた。ここJawa中部地方では、家庭ではジャワ語を話し、公の場ではインドネシア語を話す。小学校からインドネシア語を正式に学ぶが、同時に地方語の授業もある。だからインドネシア人はほとんどみんな、子どもでもバイリンガルということだ。学校へほとんど行っていないAndiでさえ私とはインドネシア語で話す。公用語も母語も日本語であるだいたいの日本人には文法の違う異言語を小学生以下で習得する感覚がどんなものか分かりにくいと思うが、自己研鑽ではなく、政治的な背景で別な言語を習得しなければならないことが、小さいうちから政治的関心を引き出すこともあるだろう。ジャワ語のフレーズを10個くらいしか知らない私と話す時は、みなさんはインドネシア語でしかもフォリナートークで手加減してくれているが、大人でもお互いで話す時はジャワ語とインドネシア語のチャンポンで早口だから、何を言っているかほとんどわからない。彼らが私にジャワ語やそのスラングを教えたがることから、ジャワ語は普段着の母語として生活に根付いているのだと思う。それを大事にしつつ社会的事情で公用語を人々は学んでいる。しかしそれも、世代が下がるに従って使い方も変わっていくだろう。多くの若者はすでにジャワ語の敬語が話せないという。私のインドネシア語の先生はボゴールの出身でスンダ語が母語だ。きっと先生は地元ではスンダ語とインドネシア語をチャンポンで話しているだろう。さらにそのインドネシア語も地方訛りがあり、スマトラではeをエと発音するし、ソロではhで終わる言葉の語尾が強い。事前に語学研修がみっちりあったものの、来てみれば、何が私の任地で学ぶべき言葉か、絶対コレというのがない。隊員は各地で地方語と格闘していると思う。

しかし今日の主題は言語学ではなく、文化のことだから話を戻そう。言葉が違う、生活圏が違う、だから文化も当然それぞれ地方独特なものがあるわけで、例えば、ジャワとバリではバティックに使われる色やモチーフも異なり、ソロのバティックは茶が多く、お隣ジョグジャカルタでは紺が多い。バリは水色など色味が明るい。


民族ごとに多様な衣裳

伝統的な民族舞踊も同様、民族によって異なる。この、地方によってさまざまな舞踊を一つに組み合わせるのが、Tari Nusantaraだ。音楽も伝統音楽と現代音楽を組み合わせて編曲、再演奏されたものだ。1曲の中にストーリー性があり、途中で曲相が変わり、踊りも変わる。Tari Nusantaraの踊りや音楽の組み合わせ方はいくつもある。観光資源にもなっており、動物の羽を使った冠や艶やかなアクセサリー、フェイスペイントそして美しい伝統衣裳を纏ったプロのグループの踊りは観光地やイベントで披露されているから、インドネシアを旅行されてすでにご覧になった方もいるかもしれない。

タリ・ヌサンタラは子どもでも踊れるように検討されたコレオグラフィーもある。午後の授業が終わった3時ごろから30分ほど、私たち手工芸のクラスに先生が来てくれて希望者10名程度が週3回練習している。所作は全体に優美で、指先の仕草は優雅でフェミニン、一方で逞しくダイナミックなパートもある。踊りに集中すると眼前にインドネシアの豊かな自然が見えるような気さえしてくる。少女を含む若い女性中心のグループでこれをやっているとエレガントに見えるようで男性たちが見学に集まってくる。私も手芸の細かいことの指導をした後は、気分転換にみんなと一緒に毎回踊っている。気温30℃では一曲踊ると少し汗ばむが、歌詞を覚えて歌いながらみんなと一緒に振りを合わせて踊るのは楽しい。日本の盆踊りで踊る炭坑節は少し単調なイメージだが、タリヌサンタラはもっと原色の、可愛らしいが同時に大地に根付いたインドネシア人女性の逞しい何かを感じさせる。いろいろな地域から集まっている私の生徒たちもこうやって一つになる。

https://youtu.be/cNJ1AZ8kWnI?si=iRyxb5bAG_Wj_Ul-

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