道に咲く花と雑草 EP. 野口.佐久間

 「キーンコーンカーンコーン」金曜日の6時間目終了の鐘が鳴る。
 「はぁーいじゃあ教科書しまって〜授業終わりまーす」メガネをかけた50代後半の男教師が言う。

 「やっと6時間目終わったよ。今日どうする?飯行く?」「今日バイトやねん、ごめん」「はぁ?バイトなんか休めよ。小銭欲しいがために働くの怠くないの?」「そういう問題じゃないから、お前も働くことの大切さを学んだ方がいいな。」
 「何が働くことの大切さだよバーカ」
彼の名は野口 永遠(のぐち とわ)名前は恰好良いもののまったくモテないダメダメ男子である。髪は癖っ毛で、細マッチョ体型。小さい頃から空手をやっていて全日本王者、世界大会2位という実力はそこそこある方だ。

 「俺はお金なんかもらわなくても働く自信はあるよ」
彼の名は佐久間 勇人(さくま はやと)センター分けの普通体型の男だ。この男は優しく誠実ではあるが比喩が通じなくネタで言ったことも本気で捉える男だ。つまりモテない。
佐久間はローソンでバイトをしている。

「なぁー飯いこーぜぇーいこーいこー」どうしても飯に行きたいのか、おもちゃを欲しがり駄々をこねる子供のようだ。
「じゃあ今日バイト20時に終わるからその後でなら行けるけどそれでいい?」
「まじか、それで良いよじゃあ20時頃ローソン向かうわ」「御意」

帰りのホームルームが終わり、帰りの支度をする。

 野口は卓球部に所属している。格闘技は高校生になるまではやっていた。格闘技が好きでやっていたわけではなく、親がやれと言ったからやっていた。それにしては空手の成績は最高クラスである。
 野口の頭の中では、部活を休んで佐久間と飯に行く予定だったが、バイトがあるため渋々部活に出ることにした。週に4回ある部活のうち、野口が部活に出る回数は1回。月、火、木、金の中の木だけでている。
 卓球部の顧問はほぼ部活に参加しておらず、たまに顔出すくらい。なので休んでも何も言われない。
卓球部の生徒もモチベーションが無く。大会に出てもいつも1回戦負け。良くても2回戦だ。練習中も皆喋りながらやっている。ほぼ同好会に近い。

 佐久間と飯に行くまで暇だった野口は部活仲間の佐井 郷(さい ごう)壺阪 凌太(つぼさか りょうた)と一緒に体育館へ向かった。
「あれ?今日金曜だけど、野口いんの珍しくね?笑」野口を真ん中に左側を歩く壺阪が言う。
「たしかにどしたん。いつも木曜だけなのに」右側を歩く佐井が言う。
「まぁきょ、今日は暇なんでねぇ〜」野口が舐めた口調で喋る。
「いつも暇だろ!」佐井と壷坂の声が重なる。

佐井も壷坂ももうすぐ1年記念になる彼女がいる。
「お前らもうすぐ1yearだろ?いいなぁ〜」「そうそうもうすぐ1yearだぜぇ笑」「まぁ1年行くからって何も変わったことはないけどな」壺阪が言う。
「お前は彼女というか、女の気配が一切しないな!好きな人とかいないの?」
「そりゃいるよ、ただどうアタックしていいかわからんのじゃ」
「笑笑」また佐井と壷坂の声が重なる。
 野口の好きな人は三留 愛楽(みとめ あいら)
野口と同じ空手道上に所属していた。成績もそこそこ残しており、色んな地方大会に行っては優勝をし続けている。
 現在も空手を続けており、おそらく野口より強くなっているだろう。

外見はとても華やかで、いつもポニーテールをしている。愛楽の半径1メートルは必ずいい匂いがする。
 学校も野口と同じであり、同じクラス。好きなタイプは大人っぽくて自分よりも強い男が好きらしい。生粋の高嶺の花。

 そんな高嶺の花をゲットするには1番程遠いのが野口なのである。

「俺実は愛楽が好きなんよー」。野口が口を尖らせて言う。
「はぁぁ?笑、おま、何言ってんの。」また佐井と壷坂の声が重なる。
「でももう愛楽、彼氏いるよ。」
「...」
喉が一瞬で砂漠かと思うくらいに乾いた野口。
「ん何?え?か、かれし?」ととぼけたようにもう一度聞く。
「だからぁ」と佐井と壷坂の声がまるで、孫悟空とベジータが合体した時のように言う。
「愛楽はもう彼氏いるっての」

 操り人形のように、無理やり頬を吊り上げられたような笑顔をみせ、「ま、まじかー彼氏いるんだー」と言う野口。

「知らなかったかー笑。お前もっと早く言えよ〜ゆーてあいつら付き合ったの1ヶ月くらい前だぜ」野口を気遣うことなく言う壺阪。

 愛楽と付き合ったのは同じ空手をやっていて、同じ道場、そして同じクラスにいる國島 瑛人(くにしま えいと)女子からも男子からも人気であり、ダメなところが一つもないと言っても過言ではないほど完璧な男だ。顔はもちろんのことイケメン、高身長、スポーツ万能、テストではクラス1位。リアル出来杉くんなのである。
 そして瑛人は、空手世界大会で、野口を下し1位になっている。つまり世界一。

 野口は昔から同じ道場で練習している瑛人には、世界大会決勝で負けて以来毛嫌いしている。

「あいつと付き合いやがったか、くそったれが」愛楽に対してなのか瑛人に対してなのか汚い言葉を吐く。

「なんか1ヶ月前にあった空手の世界大会で優勝して、表彰台のとこで愛楽に告白したらしいよ。」佐井がそういうと、野口は素で「いやカッコよ」と漏れてしまう。

体育館に着くとすぐに、上履きから体育館用の靴に履き替え。卓球台、ネット、玉を全員で準備する。部長の森下(もりした)が詰め寄る。
 「あれ、いつも木曜しかでない野口が何のようですかぁ?」ネタで言ってはいるものの顔がふざけていない真顔で言ってくる。野口は内心「いや俺一応卓球部なんだけど。」と思う。
 「いや今日は暇だったんで」冗談まじりに言う。
 「いやお前いつも暇やろぉ!」
エセ関西弁で突っ込む森下。

 いつものようにペアを組み、ラリーを開始して。スマッシュの練習をする。最後に軽く試合をしてその日の部活は終了した。時刻は18時20分。

 角砂糖に群がるアリのように円形の形を取って、「はい今日の部活はここまでです。みんなお疲れ〜。」と部長の森下が若干息を切らしながら言う。

 佐久間との夜飯は新大久保にある韓国料理を食べに行く予定。なぜ新大久保かと言うと、佐久間のバイト先が新大久保駅付近にあるローソンだからである。韓国料理店は佐久間も野口も行ったことがない。流行りの店に行くのは恥ずかしいと思いながらも、流れに置いてかれてはいけないと言う理由で韓国料理店にした。

 まだ20時まで時間がある。とりあえずチャリ(自転車)で大宮駅付近まで向かい、サークルポートという自転車置き場にチャリを置き、大宮駅に向かう。

 大宮に着くとすぐさま、スマホに登録してあるPASMOをチャージし改札を通る。埼京線に乗り池袋で乗り換え、山手線で新大久保に向かう。
 彼女ができたことのない野口は、すれ違う女性たち全員が可愛く思えてしまう。電車に乗っている際も吊り革を掴んでいる腕が軽く隣の女性に当たっただけで、緊張が走る。

 なんだかんだいい時刻は19時35分。割とちょうどいい時間だ。新大久保に着いた野口は、佐久間がバイトしているローソンに向かう。

 歩くとTikTokを撮っているJKがちらほらいる。コンクリートの端を1人寂しそうに歩く野口。JKのTikTokに少しでも映らないように素早く通り過ぎる。ダンスとも言えないような胸の前で少し手を動かし、ハートを手に作ったりするだけのことをカメラの前でしている。
 TikTokはお金を稼げるわけではなく、ただの本人の承認欲求からきている。

 そんな中、道の真ん中に咲く一輪の花と雑草が目に入った。雑草はなんの草なのかはわからないが、花は蒲公英ということはわかる。
 蒲公英は、車に轢かれながらも力強く、咲いている。まるで、ボクサーがよくやっているパンチングボールのようだ。
 雑草は轢かれれば、そのまま地面に沿うようになる。
 力強く咲く蒲公英に対し、轢かれればそのまま倒れる雑草をみて自分のことのように思う。


つづく

この記事が参加している募集

今こんな気分

この経験に学べ

創作大賞感想

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?