ケッショウーその災いに打ち勝つー#4後編

ビサイド・ビーチ 中華街

青龍「フハハハ!どうした、そんなものかトルバァ!」
白虎「そうだぞトルバ!お前ほどの男が、何故反撃してこない!?」
トルバ「くっ…………くそ……!」

青龍ら四神獣の本気の猛攻。
トルバは攻撃を耐え凌ぎ、あることを気にしながら彼らと戦っていた。

トルバ(弱ったな……俺がこの場から少しでも離れないと、まだダンボール箱に隠れたままの女の子が巻き込まれる……かといって下手に反撃すれば、玄武の甲羅が隙をついて俺に炸裂するだろう……俺か彼女が息を潜めるダンボールに直撃すれば、確実に彼女は吹き飛ぶ!どうする……どうすればいいんだ……)
ミイラに襲われないように、トルバがダンボールの中に隠した少女。
その少女が四神獣の攻撃に巻き込まれることを、トルバは恐れていた。
朱雀「彼、何かしようとしていますね。」
玄武「ああ。現実的に考えて、あいつら二人で押し通せるような奴ではない。きっと、何かあるんだ。」
玄武は冷静にトルバの様子を観察し、自分の甲羅を浴びせる隙を伺っていた。
朱雀「ええ。ま、もし仮に『パラドックス』などの大技がきたとしても、私には翼がありますからね。飛んで逃げますよ。」
朱雀はクスクスと笑った。
玄武「俺もそろそろ、甲羅の用意をしておくか……」

トルバ「あっ!」
不意にトルバが大きな声を出した。
白虎「どうした!?」
トルバ「そうだ!それ!飛べば良いんだ!」
朱雀「ん?飛ぶ………?ま、まさか貴様!」

シュバーーーン!

青龍「のわ!?」
白虎「な、何ーーー!?」
トルバは突然垂直に飛び上がった。
末恐ろしいジャンプ力、空気を切り裂くような音。
玄武「は、はあ?どうなってるんだよあいつ……」
青龍「い、意味が分からん……あ、あんな高さまで……」
朱雀「ほう、逃げられるのはあいつも同じなんですね〜。」
白虎「何呑気なことを言ってる!見ろ!あいつはもう中華街の入口まで移動しているぞ!」
白虎は派手な中華街のゲートの下を指差した。
トルバは既にそこへ着地し、こちらに向かって手招きをしている。
青龍「ふむ、なるほど。建物の被害を考慮し、我々を道路へ向かわせるつもりだったのか。」
白虎「よし!奴を追うぞ!」
白虎がおめおめとトルバを追おうとする。
青龍「いいやダメだ。俺たちがゲートから出たタイミングで、トルバが死角から襲いかかってくる可能性が充分にある。ここはひとまず上だ。俺の使い魔を使って上から見下ろす。」
白虎「いいや変わらねえぜ!あいつは跳ぶことを覚えちまったんだ!今更空を飛んだところで、一瞬で殺されるのがオチだ!あいつはゲートを出て右へ曲がった。つまり、左側から俺たちが出れば勝算があるぜ!」
白虎は地上からトルバに攻撃しようとしている。
青龍「待て!多少の間合いではすぐに詰められるのがオチだぞ!」
白虎「うるせえ!俺の氷で撲殺すればいいだけだ!!」
白虎は自分の右腕を凍らせて無数の棘がついた氷の塊に変えると、中華街の入口に向かって走り出した。
白虎(この俺が考えていることは2つ。1つはこの手でトルバを殴ること。もう一つは)
白虎が中華街の入口を通過した。
するとやはりトルバが死角から待ち構えている。
白虎(やはりな!そしてこのタイミングで!)
白虎はトルバに向かって、左手から鋭利な3つの何かを出した。
それは
白虎「氷柱!!」
トルバ「!?」
白虎「決まったーー!」
白虎はトルバが攻撃を仕掛けてくることは予想していた。
トルバのような手練れ、下手に殴りかかるだけでは簡単に倒される。
そこで飛び道具の氷柱だ。
氷柱を使えばトルバに一瞬の隙が生じる。
その一瞬の隙の間に、先程凍らせた右手で殴ることができれば、見事トルバに攻撃することができるのだ。
白虎(トルバ、お前の死のパターンは全部で3つ!!
1.氷柱を避けきれず、頭に刺さって死亡!
2.氷柱をうまーく躱すも俺に殴られて死亡!
3.聖剣で氷柱を破壊し、その隙を狙っていた俺に撲殺され死亡!
以上3パターンだ!さあ、お前はどれで死ぬ!?トルバ!)
トルバ「甘い!」
スパン!
その時、不思議なことが起こった。
トルバの聖剣で氷柱が真っ二つに切れ、しかも聖剣から真空波が発生した。
白虎「な……に……?」
白虎は自分の視線がだんだんと下がっていくの感じた。
白虎「……ははは、意味、わかんねえ……」
白虎 体を真っ二つに切断され、完全敗北 死亡。
青龍「ああ!白虎!!だから言ったのにーー!」
変わり果てた白虎に青龍が駆け寄った。
トルバ(仮にこいつをやっつけても、朱雀が残っている限り安心はできないな。面倒なことにならないうちに、ここで倒しておかないとな……)
トルバは駆けつけた朱雀に迫ろうとしたその時。
トルバ「うん?」
トルバは左ポケットに強い違和感を感じた。
トルバ「何だ……?あっ!これは!」
玄武「フィーバースロットに……!」
トルバ「氷柱が刺さっている!」
青龍「!」
朱雀「マジか……!」
白虎が最後に残した置き土産。
死が確定した土壇場で放った、最後の厄災操術。
たった一個の氷柱が的確にフィーバースロットを射抜いていた。
玄武「白虎め、なかなか味なことをするな。」
朱雀「ええ。見殺しは惜しいですね。復活させましょうか、私の羽で。」
朱雀の羽には死んだ者の蘇生や傷の回復などの効果がある。死傷者に刺すことでその者の傷を治すことが可能だ。
青龍「ああ頼んだ。いやー、こういう時にお前がいるととても頼もシ」
ズバン!
突如として青龍の頭に何かが刺さった。
青龍「な?何だ?俺の頭は今、どうなっている?」
玄武「せ、青龍……」
朱雀「お悔やみ申し上げます。」
朱雀と玄武が何だか物悲しい雰囲気を出している。
青龍「は?な、そんな急に何をいいだ」
トルバ「ごめんよ青龍。」
青龍「へ?」
青龍がピリピリとひりつくような痛みを堪えながら、恐る恐る振り向くと、怒りに燃えるトルバが青龍の頭に氷柱を刺しているではないか!
青龍「おいお前本気か!?」
トルバ「すぐに白虎のところに送ってやるからな。」
青龍「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
と言い終わる間もなく青龍の頭を氷柱で滅多刺しにして青龍を殺すトルバ。
まさに瞬殺。
朱雀「ダメだ!このパターンは勝てない絶対無理ぃ!!」
あまりにも強すぎるトルバを前に朱雀は敵前逃亡を始めた。
玄武「おい逃げるな朱雀!復活させるためにいちいちゴーグルマップを使ったり交番に行って手続きしたり!色々面倒くさいぞー!」
朱雀「うるせえ!サツに任せんだサツに!!」
青龍や白虎のように身元の分からない遺体は、蘇生してくれる人が見つかるまで身柄が警察に確保される。
そうなってしまうといちいち本人確認などの手続きを踏まなければ身柄を返してもらえず、かなり面倒だ。
トルバ「はあ……無駄だよ。」
トルバは玄武が目を離した目にも止まらぬ速さで朱雀に飛び乗り、聖剣で朱雀を串刺しにした。
朱雀「ガッ!?」
玄武「あーー!だから言ったのにーー!」
朱雀、ただの焼き鳥になって死亡。
玄武「くそ、ついに俺一人になってしまった……」
トルバ「はあ……安心しろ。一瞬さ。」
トルバは狂気に満ちた笑みを浮かべながら、ゆっくりと玄武に迫る。
玄武「くそ!こうなったら!」
ゴーーーーー!
玄武は魔力で甲羅を作り、その甲羅に飛び乗った。
甲羅は凄まじい速度で回転し、道路を走っていく。
玄武「逃げるーーー!この甲羅は時速300kmで走行できる!!このままトルバから逃げ切って119……いや!このまま病院まで行ってやるぜ!」
玄武は散っていった仲間たちを助けるため、ビサイド・ビーチで最もケイヒン救命センターへと向かった。

一方その頃
蘇った魔王二世は再びトルバを倒すべく、ビサイド・センター・ホールのカフェで腹ごしらえと、トルバに勝つための作戦を練っていた。
二世(どうする?どうすれば奴を倒せる……?機嫌?もしや機嫌なのか?あの時の奴は急に機嫌が悪くなり、感じられる力の質自体も変わっていた……)
二世の考えていることは半分当たりで、確かにトルバは激情すると強くなるが、それ以前に二世は機嫌が良かろうと悪かろうとトルバを倒すことは現状不可能である。
二世「とはいえ戦力差は歴然。今日のところは行動は控え、しっかりと準備をしてから奴と戦うとしよう。」

魔王二世 戦線を離脱。現在動いている人物は

7名

ビサイド・ステーション 構内
リーグス「もうダメだ、もう無理、もう戦えない!死にたい!あいつらみたいに死んで好き勝手暴れたい!」
カジル「正気保てよお前!どんなに辛くても戦うんだよ!」
リーグス「なまじ強かったせいで、安泰だった職業が地獄みたいな職業に変わっちまったよーー!」
カジル「おいやめろ!こんなところで叫ばれると、反響して耳がおかしくなる!」
リーグス一行はビサイド・ステーション構内のミイラを一掃。
残るミイラも倒すべく、精神が崩壊したリーグスを引きずりながら、駅の出口を目指していた。
ラティス「ビサイド・ステーションは広いですねー。早く抜け出せる魔法さえあればどうにでもなるんですが……」
カジル「メーシャ、お前の魔法は変幻自在なんだろ?出口まで一瞬でワープできる魔法とか作れないのか?」
メーシャ「馬鹿言え。私の使う対策魔法は敵がいないと使えないの。人助けのための魔法は唱えられないぜ。」
メーシャの使う魔法は『概念魔法』と呼ばれるもの。
その名の通り概念と強く関係があり、概念魔法の設ける概念から外れると使えなくなる。
メーシャの魔法は『対策』という概念の魔法なので、『対策する相手』が存在しないと発動できないのだ。
カジル「そこを何とかよう。この駅自体を俺たちを惑わせてくる『敵』と見立てて、こう、どうにかよう!」
メーシャ「何だその回りくどすぎる概念の結びつけは!?イメージしにくすぎて使いにくいわ!」
カジル「魔法ってのは面倒くさいな。使えるようで使えないし。」
ラティス「条件多すぎるし頭使うしコスパ悪い。才能必要とか習得運ゲーすぎる。(でもその分強力なんですよ!)」
メーシャ「本音と建前逆ぅ!!」
魔王「リー……グス……!」
カジル「へ?」
背後から掠れたおぞましい声が聞こえてきた。
魔王の声である。
魔王「リーグス!!」
リーグス「何だようっせえな!アンデッドの分際で俺の名を気安く呼ぶんじゃねえ!!……ってあれ?」
リーグスのパーティーが感じた、ある共通する違和感。
何故リーグスの名を知っているのか?
何故普通のモンスターとは違い、このモンスターは布を纏っているのか。
そして、どことなく感じられる魔王の面影。
メーシャ「ま、まさかこいつ!」

カジル「魔王か!」

魔王「オッシャアアアア!」
(よっしゃー!遂に気づいてもらえた!トラックに轢かれ、息子に殴られ、それでも近くの布を握りしめって羽織った甲斐があった!しかしこっからが重要!またしても4対1、どうやって攻略するか!
物理は大丈夫、でも魔法はきつい。回復もできればなしであって欲しい!
取り敢えず、いい案が思いつくまで時間を稼がないと!)
リーグス「わーん!やだやだ面倒くさいーー!」
カジル「うるせえ!駄々こねてたらやられんぞ馬鹿野郎!」
ラティス「あそこまでトルバさんにボコボコにされても現世にい続けるとは、恐ろしい執着です……」
メーシャ「間違いねえな。面倒な奴と出会っちまったぜ!」
リーグス「うおーー!ぶっっっ潰す!」
リーグスは目の前の敵をコテンパンに叩きのめす、ただそれだけをするために魔王へと立ち向かう。
カジル「おいリーグス!単身で突っ込むのは危険だぞ!」
リーグス「うるせえ!こんな奴すぐにあの世に」

カン!

リーグス「…………あら?」
魔王に聖剣で殴りかかったリーグスだが、トラックの衝突、息子の否々ラッシュの衝撃に適応した彼の前では無力だった。
魔王「ガルウゥウゥウ!」
無防備となったリーグスに魔王はあの技を使う。
リーグス「!」
カジル「まずい!何か来るぞ!」
魔王「イナイナイナイナイナ!」
魔王は歯をカチカチ鳴らしながら強烈な連続パンチを繰り出した。
リーグス「Noーーーーー!!」
リーグスは大きく吹き飛ばされて駅の階段を転げ落ち、駅のホームの自販機に頭をぶつけて気絶した。
カジル「だから一人で突っ込むなと言ったのに、あの馬鹿野郎!」
ラティス「私、回復してきます!」
メーシャ「分かった、私たちでこいつを足止めしとく。」
ガジルたちはすぐに戦闘体勢を建て直すべく行動を開始した。

一方その頃、思わぬ援軍が到着しつつあった。
玄武「ひいーーー!何なんだあいつ!もうかれこれ15kmは走ってるはずなのに!まだ付いてきやがる!病院まであと10分!ひぃーー!怖いよーーーー!」
時速300km、玄武の甲羅が出せる最大時速。
その圧倒的なスピードについてくるトルバ。
玄武は自分はいつかやられるのではないか、そのような思いが心に迫っていた。
玄武「どうにか、どうにかできねえのかあいつ!甲羅を投げても弾くわ、尻尾で攻撃しても怯まないわで強すぎるだろ!」
トルバを撒くために本来のルートよりもかなり遠回りのルートを走っているが、一向にトルバを撒けるという安心感がやってこない。
むしろ逃げれば逃げるほど『自分はいつか捕まって死ぬのではないか』ととてつもない不安に襲われるのだ。
玄武「くそ!どうすればいい!もたついてると警察に死体を回収されちまう……。ありゃ面倒くせえんだよなー……あ!そうだ!」
玄武はとあることを思いついた。それを教えてくれたのは、宿主であるあの男。
玄武「危険を感じたら!」
ボン!
玄武「飛べばいいのだ!」
ゴーーーーーー!
トルバ「!」
玄武の甲羅が突然宙に舞い、くるくると回転しながら空中を飛んでいく。
玄武「やった!よくわからんけど飛べたぞーー!」
玄武は空を飛びながらあたりを見回し、着地できる場所を探した。
玄武「お!あそこの鉄道橋がいいな!電車は運転見合わせだし、トルバにバレにくいぞ!」
玄武は甲羅を鉄道橋に着地させると、甲羅に魔力を込めて今まで以上の速度を出した。
玄武「ふうー、確か救命センターは駅前だな。トルバは驚いていたし、俺を追うのに多少のタイムラグがあるはずだ。そしてこの速度!つまり俺たちは戦いに負け、勝負に勝ったということだ!アッハッハッハ!?」
玄武が勝ち誇ったのもつかの間、圧倒的速さで路線を先回りしたトルバは、既に玄武が走る線路上で待ち構えていた。
玄武「そうだこいつも跳べるんだっ」
バシュン!!
玄武 首を聖剣で切断され死亡。一瞬の出来事であった。
トルバ「フィーバースロットの仇だ……グスン……」
トルバは誰もいない静かな線路で膝から崩れ落ち、一人静かにすすり泣いた。

ビサイドステーション ホーム
四神獣が全滅したその裏で、ビサイドステーション構内では復活した魔王対勇者パーティーの激しい戦いが繰り広げられていた。
魔王「ウシャアーーー!」 (喰らえ必殺!
ハイパーウルトラスーパーボンバーパーンチ!……トクニツヨイワケデモナイケド)
カジル「来る!」
メーシャ「対策魔法 マジックブロック 第3壁 サンウェア!」
メーシャが呪文を唱えると、カジルとメーシャの周囲に電気のオーラが発生した。
魔王「グギャア!?」
魔王はそれに気づくよりも早く拳を突き出してしまい感電する。
魔王「ヌウウ……」
カジル「よっしゃ!聞いてるぞ!」
メーシャ「よし!いいかカジル!このまま押し切るぞ!」
カジル「おう!」
メーシャとカジルは魔王を挟み撃ちにして突進し、二つの電気のオーラを魔王にぶつけた。
魔王「グゲエエ……!」
魔王は二つのオーラそれぞれに感電してしまい、意識が朦朧とする。
メーシャ「よしよし効いてる!このまんま押しくら饅頭で倒そうぜ!」
カジル「おう!」
魔王(やばい!物理にしか対策しなかったせいでとてつもなくやばい!う……ダメだ意識が……。こ、こうなったら!どうにかしてイメージするんだ!俺が忘れてしまった、魔法を!!)

フドウダンセイタイ!

カジル「うわ!?」
メーシャ「何!?」
カジルとメーシャは急に弾力のある何かに弾かれた。
カジル「くっそ!何だってんだ一体!?」
メーシャ「まずいなありゃあ……より厄介になったぞ……」
カジル「え?」
カジルが魔王の方を見ると、巨大なゴムの塊が魔王の周りを覆っていた。
メーシャ「フドウダンセイタイ……ゴムを作り出して電気を使う魔法から身を守る技だ。魔力なんかで中和するタイプではないから、持続性も高い。」
魔王が絶対絶命、無意識で使ったフドウダンセイタイは、ゴムの壁を構築する技。メーシャのサンウェアのように、魔力を常に放出して纏う必要がないので、MPの消費が低いことがメリット。
カジル「マジかよ~。主人公どころか脇役なんだから、あんま土壇場で覚醒とかしないでくれよ〜。」
死の瀬戸際で、転生してから始めての魔法の習得。
これまでの状況を一変させる事態に魔王も混乱していた。
魔王(え?何これ真っ暗なんだけど!?もしかして天界?ついに俺死んだのか……?転生して数日で死亡……いや、これが普通なんだ。仮に転生したとして、いい人生がその後待ってるとも限らないもんな……)
と、しみじみと浸っているが、自身の魔法で前が見えなくなっているだけである。

ボヨンッ

魔王「ヌ?」
鼻先にゴムが当たり、魔王は違和感に気づく。
魔王(ん?何これ?天界の壁?いや、何か変な匂いするし、何だこれ?)
スパンッ!
魔王「ウッ!」
何かが切れるような音が響き、蛍光灯の白い光が漏れた。

そして
トルバ「行かなきゃ……何もない……何もないけど……今やらなきゃいけないことを、やらなきゃ……」
線路の上を一人寂しく、トボトボと進むトルバ。
その足取りは重かった。

少女『おにいちゃんすごい!』
イロハ『先輩は勇者だと思います!』
白虎『お前は俺たちの邪魔になる!』
青龍『邪魔なんだよトルバ!』
カジル『情緒不安定なのかこいつ。』
イロハ『自分のことを勇者だと思いこんでいる一般人』
メーシャ『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。』
面接官『何も覚えない奴なんて、いらない!』

トルバ「ああ、そっか。俺って……俺って……」

と、どこかで聞いたようなセリフを耳にするトルバであるが、ただの幻聴である。
何なら半分はトルバの捏造である。
リーグスと同じく、トルバもかなりメンタルに来ているようだ。

トルバ「……もしアレが届かなくなったら、俺、このまま生きていくのかな……そうなったら、どうしよう……」
富豪の件でセルフバーサークを発動したトルバ。
イロハのおかげで何とか正気を取り戻し、力に固執しすぎてはいけないという教訓を心に刻み込んだが、その心の奥底には未だに勇者への未練が存在する。
フィーバースロットの消失は、形だけでも"勇者"でありたい、トルバの心に深い絶望を与えた。
今、トルバは夢も希望も閉ざされ、バーサークはおろか、ろくにものを考えることもできない状態。
友達を助けなければ、という義務感のみで動く、いわば生ける屍である。
トルバ「……ん?あれって……」
歩いて歩いて、トルバは駅のホームに辿り着いた。
そこで見たものとはーー

リーグス「やあ、再開だね……魔王君。」
魔王「……?……?」
一方魔王も思考停止気味になっていた。
目の前に先程とはうって変わって爽やかな笑みを浮かべるリーグスが立っていたからだ。
魔王(な、何だ?とうとう俺は地獄に着いたのか?いや、でも周りが明るい!え?何これ?意味が分からないんだけど!)
とてつもない情報量。目眩がしそうな状況を前にして動けない魔王に、リーグスは気さくに話しかけた。
リーグス「そうだ!魔王魔王って呼ばれてるけどさ、君って名前あるんだっけ?邪神もそうだけどさー、何で厨二臭い2文字で片付けちゃうんだろうね、人間は。それと、魔族の歴史は長いらしいけど、君っていつからいるの?お父さんとお母さんは?あ、ごめんね〜、この際だから聞いておきたくてさ〜。」

魔王(いやキモいーーー!?何でそんなペットやそこら辺にいる植物に話しかけるみたいな喋り方するの!?てか、俺らってまだ2回しか会ってないし、何なら俺、お前の敵ね!?何この人、距離感バグってんのか!?リーグスの本来の人柄って、こんな感じなんかなー!?まあ、ある意味勇者だよねうん!)

リーグス「そういえばさー、最近親父の葬式があったんだけどさー。葬儀屋さんが父親の葬儀本当に丁寧にやってくれてさー。すごかったよ本当。」
魔王「ン?ンン゙!?」
(いやごめん。正直俺魔族だし、人間が一体どういう倫理観してるのかなんて詳しくは分からないけど、少なくともね?まだ2回しか会ったことないアンデッドに、急に葬儀の話吹っ掛けるような奴はいないと思うんよね!?
リーグス、確かに俺たちは常に全力、国民の期待に応えるために命をも賭ける!……そういう本質的なところだけを見れば、まあ仲良くできなくもない気がしなくもない。
それに、もし最初から殺るか殺られるかの関係だと決められていたとしても、人柄も知らん奴を手に掛けるというのはきついのかもしれないし、こんな関係にもアイスブレイクというのは必要なのかもしれない!!
でもよ!いきなり目の前に現れて距離感0、二言目には葬儀屋って!
正直そんな奴と関わりたくもないし、アイスブレイクどころかむしろ逆効果!!
お前パーティー組むときもそんな接し方してないよね!?
もししてたとしたら、そんなところから始まった関係絶対長続きしねえぞー!?)
気味が悪い距離感、話のチョイス。
謎が深まるばかりであるが、次の瞬間に彼は恐ろしい発言をした。
リーグス「おかげで親父との別れはしっかりできたし、費用も安かった。君の弔いも、あんな風にやってあげようと思ってさ。」
魔王「デエエエエ!?」
突然の爆弾発言に魔王は驚愕する。
魔王(あ、そういうことね!!今までの話直訳すると、『お前死ぬから最後に名前くらい聞いたるわ!』そういうノリね!!てかお父さんとお母さんっておま、遺族いたらどうするつもりだったん?それは一体どういう心境の疑問文なん!?)
リーグス「というわけで、お父さんは火葬!
お前も火葬!
それじゃ!」
魔王「いやふざけんな!?こちとら仮にもラスボス!いやラストじゃなかったけど!」
という転生して初の抗議の声も聞き入れられず、リーグスは魔王の足を引っ掛けてホームから転落させた。
魔王「おい足払いは聞いてね」
リーグス「厄災操術 アイスバーグ氷山
反転 ファイアオーシャン火の海。」
魔王への弔いの技は、今は亡き白虎の術をねじ曲げた技だった。
魔王「そんな……折角喋れるようになったってのに……」
リーグス「じゃあな魔族の王。ミイラと一緒に地獄へ行きな!アーッハッハッハッハ!」
魔王は地獄の業火に焼かれ、勇者の前に灰となり散っていくーー

はずだった。

???「他人の技を勝手にパクるとは。死への冒涜も良いところだな。」

リーグス「……は?」
ビサイド・ステーションに現れた一匹の龍が、地獄の業火を慈愛の雨で消化した。



おまけ
カジル「おいラティス!あいつどうしちまったんだ!?気が狂ったように怒ってたかと思いきや、今度は炎で敵を焼いて狂ったように笑ってやがるぞ!頭打っておかしくなっちまったのか、あいつ!?」
ラティス「おかしいですね……?頭の治療はしっかりしましたし、ついでにメンタルも治したはずなんですが。」
メーシャ「メンタルを治すって……何かの魔法か?」
ラティス「ええ。トルバさんの件もあったので、ちゃんと治せるようにしようと思って。」
メーシャ「ん?待って、それって具体的にどういう?」
ラティス「ええっとですね、まず、脳にネジがたくさんあって、その中にどこか問題のあるネジがあるっていうイメージを実体化させて、後はそのネジをヒョイーって抜く。リーグスさんの場合は何本か問題ありと見たのでその何本かを抜いて」
メーシャ・カジル「それ絶対抜いちゃダメな奴!」













この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?