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[ピヲピヲ文庫 連載小説]『私に何か質問はありますか?』第10話

前回の話(第9話)はコチラ。ピヲピヲ。。。


 ……ん?

 会社への電話を切った八鳥六郎(はちどり ろくろう)であったが、気が付くと……彼は30人あまりの人間に囲まれていた。
 皆が皆、八鳥を興味津々に見つめている。

 心ここにあらずで電話していたため、周囲の状況に全く気付かなかったというのもあるが、彼らはなるべく音を立てないように八鳥に忍び寄っていたため、彼も気付かなったのである。

 八鳥は、自分を取り囲む人間たちを見渡した。
 これは……?
 皆、手にマイクを持ったり、小脇にペンとメモ帳を携えている者もいる。
 その後ろには10数台のカメラや照明器具、音声器具等を構えた者たちも……

 メディアか?!


 八鳥は上手い具合に鳥籠に閉じ込められた鳥の如く、メディアに取り囲まれていた!

※※※※※

「さあ、皆さん、ご覧ください! 噂の八鳥さんです! 質問をされない八鳥さんです! 眠れる雛とも呼ばれていた彼が、ついにメディアの前に姿を現しました!」

 各局のアナウンサーやら、記者やら、カメラマンやら……メディア数社が一斉に八鳥を取り囲む。
 そして、マイクを持ったリポーター達が、手にしたマイクを一斉に八鳥に向けた。
 ……しかし、どのリポーターも何ら言葉を発しない。

 ざっと見積もって10名あまりのリポーターが揃いも揃って無言でマイクを八鳥に差し出し、それを10数台のカメラが映し出している。
 10数本のマイク、そして10数台のカメラが八鳥を取り囲むが、その中の誰1人として言葉を発せず、八鳥とリポーター達が無言で見つめ合うその様子は、傍から見ると極めて異常であった。

 リポーターや記者たちはマイクを手にしてこそいるものの、誰ひとりとして八鳥に質問(インタビュー)をしようとする者はいない。
 皆揃って、マイクを片手にひと言も声を発することもなく、顔にニヤニヤ笑いを浮かべながら、無言で八鳥を取り囲むばかりであるため、気味が悪いにもほどがある。

 八鳥は怯えながらも「いったい何なんですか、あなた達は!」とリポーターたちに向かって叫んだ。
 リポーター達は一斉に「おっと! いよいよ八鳥さんが声を発しました!」などとカメラに向かって報道し始め、メモ用紙に何かを書き込み始めた記者もいる。
 
 そして……またリポーター達は無言のまま、一斉にマイクを八鳥に向けた。
 怒ってマイクを向けてくる数名の記者達に向かって行くと、記者たちはここぞとばかり、「ご覧ください! 質問をされない八鳥さんが今、興奮気味に我々メディアに襲いかかろうとしています!」などとマイクに向かって話し始め、わざとらしく逃げ惑う。

 カメラは一斉にリポーター達を追う八鳥の動きを追いかけ回す。
 八鳥が止まると、またリポーター達は一定の距離を保ちながら八鳥を取り囲み、マイクを片手に無言でニヤニヤしながら八鳥を眺める。
 それを見て、また八鳥がリポーター達を追い回す。

 自分を取り囲むメディアとの小競り合いを何回か繰り返した後、八鳥はとうとう耐え切れず、そのまま小走りにメディアを振り切ろうと歩き出した。
 しかし、レポーター達はカメラを引き連れ、八鳥を追いかけて来る。

 「おっ! たった今、質問をされない八鳥さんが我々取材陣に背を向けて動き始めました。いったい、どこに向かっているのでしょう。八鳥と言いつつも、足は思ったより速くはないようです」

 八鳥が煩わしく感じて立ち止まると、リポーター達は瞬時に口をつぐみ、また全員で一斉にマイクを八鳥に向かって差し出す。

 ついに耐え切れず、八鳥は走り始めた。
 しかし、リポーターやカメラの大群がドタバタと走って追いかけて来る。
 
 赤信号で捕まることのなさそうなルートを巧みに選び、八鳥はかれこれ10分ほども走ったと思うが、数名のリポーターやカメラマンたちは、体力が切れることなく、未だに執拗に追い続けて来ているようである。

 メディアも八鳥が「使えそうな動き」をしないものかと必死に期待せんばかりの迫力である。

 テキストコンテンツ配信用のSNS『ピーチク・パーチク』に嵌まり始めて以来、若干運動不足となっていた八鳥は、ついに苦しくなり、息も切れ切れ、全身汗だくの状態でコンビニの角を曲がり、その先の茶色の雑居ビルにそのまま入って行った。

 そのビルの3階には、八鳥が数年前に不眠症になった際、通っていたことのある心療内科が入っていた。

※※※※※

 メディアに追われる八鳥の姿は、テレビで生中継されていた。

 都内のマンションの一室で、じっとその様子をテレビの画面越しに凝視する人物がいた。

 その人物は、八鳥がカメラに追われる様子を見て、少し険しい顔をしてみせた。
 そして、八鳥が茶色の建物に入るのを見届けたあたりで、腰を上げた。
 それからデスクに向かい、やおらパソコンを立ち上げたかと思うと、お気に入り登録してある『ピーチク・パーチク』のサイトにアクセスした。

(つづく)

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