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【怖い話】引き戸の向こう側

《タイトルにもあるとおり、「怖い話」を書きます。そのような話が苦手な方は、ご自身の健康状態にご留意の上、お読みください》

「霊感が強い」という男性のシンヤさん(仮名)から聞いた話である。

彼が、亡くなった父の法事のため、帰省したときのこと。

お坊さんも読経を終え、参列者もひと通りのお喋りをした後、みな帰って行った。

実家には、シンヤさんの、そしてシンヤさん4人となった。

その日の夕食の準備のため、母ら3人は少し遠くにある大型スーパーに買い物に行くこととなった。

シンヤさんは、法事の直前まで仕事に追われ、疲れていたこともあり、家に1人で残って仮眠することとした。

彼は玄関口で3人を見送った後、2階の和室へと上がり、そこに布団を引いて寝転がった。

疲れが溜まっていたのか、意識が遠のくまでに大した時間はかからなかった。


、、、どれほど眠っていたのだろうか、シンヤさんはやがてボンヤリとした頭で、夢と現実の間をゆ~っくりと行き来し始めた。

そのとき、いつの間にか帰ってきたのであろうか、彼の母が背後で和室の引き戸をサッと開け、彼のぼんやりとした意識越しに「シンヤ、そろそろご飯が出来上がるから起きてきなさい」と声を掛けた。

彼はその声に反応し、すぐさま起き上がった、、、というのとは反対に、バッ!と毛布をかぶった。

、、、

、、、彼は知っていたのである。

この和室の引き戸は、数年前から建て付けが悪くなり、シンヤさん、そして彼の母も兄弟も、ここ数年閉めたことがないのだ。

当然、彼も眠りに就く前、引き戸は閉めていないし、彼が寝ている間に彼の家族が帰って来て、引き戸を閉めるなどあろう筈もない。

閉じることのない引き戸が開けられる、、、というのは、どのような道理か。。。

要するに、引き戸の向こう側に立ち、彼に呼び掛けているのは、「母の声ではあるものの母に非ず」な者なのだ。

霊感が強い彼は慣れたもので、そのまま毛布にくるまり、再度眠りに入っていった。。。


さて再び、今度は眠りからすっかりと醒めたシンヤさん。

階下から家族の話し声が聞こえる。

彼は開けっ放しの引き戸を一瞥し、家族の元へと下りて行った。

料理の準備中であった母にそれとなく尋ねる。

案の定、母たちは先ほど帰ってきたところであり、シンヤさんを起こすのも気の毒なので、誰も2階には上がっていないとのことであった。。。


微睡むシンヤさんに呼び掛けた母の声。

それは、寝惚けた彼の錯覚だったのか、それとも引き戸の建て付けが悪くなったことを知らぬ何者かが、彼を訪ねてきたものか。。。

皆さん、和室でうたた寝をする際は、引き戸を閉めたか否か、事前にはっきりと確認された方がよいかもしれない。。。

(完)


~あとがきに代えて~

この話を聞いたとき、少し背中がブルッとした。

しかし、その後で不謹慎ながらも「引き戸を開ける音」を再現するとは、なかなかの芸達者だとも思ってしまった。

本当に不謹慎であるが、口で「紙を破く音」をマネする人たちを思い出した。

いかん。どうしても笑い話にしたくなってくる。




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