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[怖い話] 元法医学者

《「怖い話」が苦手なフォロワーさまがおられるので、間違えて読んでしまわないようタイトルに [怖い話]と入れています。苦手な方は、今回の話は読まない方がよいと思います。》

香港に住んでいた頃、現地の友人、そしてその友人、、、といった何人かで夕食をともにした。

皆で中華料理店で円卓を囲んだのだが、初めてお目にかかる「ラウ」さん(仮名)という年配の香港人男性と話す機会があった。

ラウさんは、お医者さんであるらしかったが、以前は「法医学者」として、お仕事をされていたこともあるらしかった。

「検視」という言葉を聞いたことがあるかもしれないが、大雑把に説明すると、変死者又は変死の疑いのある死体の検視(検査)を行い、死因に「他殺」など犯罪の可能性はあるか? 死亡の直接の原因は何か? などの究明に努めるプロセスといったところであろうか。

通常、事件性のありそうな変死体に対し、捜査機関が検視を行うわけであるが、検視では死因等の特定が不十分な場合、死体の「司法解剖」が行われたりする。

当然のことながら、誰しもが死体を解剖することができるわけもなく、犯罪性がありそうな場合、解剖の結果が裁判に影響を与えたりすることもあるため、通常は「法医学」を専門的に学んだ医師が、警察等の捜査機関から委託を受けて対応することとなる。

ラウさんは、そのような仕事をされていたのことであるが、当然、「法医学」も専門的に勉強し、経過時間ごとにおける死体の反応(死体現象)、死因や死亡時刻の推定方法、個人の同定方法、、、などにも精通していた。

ある夜のこと、初歩的な検視のみでは死因等の特定が十分にできず、ラウさんのもとに事件に巻き込まれた可能性のある変死体の「司法解剖」の仕事がまわってきた。


ベッドに寝かされた変死体と向き合うラウさんは、司法解剖に取り掛かり、死体にメスを入れてゆく。

喉下から下腹部にメスを入れ、肋骨を取り出し、胸部を開き、、、解剖作業は粛々と進んでいった。

、、、そして、、、

解剖の途中のことである。
体にメスを入れられていた変死体、そのベッドに仰向けに寝かされていた死体の上半身が突如、ムクムクムクムクッ、、、と起き上がった。

、、、しかし、「法医学」をマスターしたラウさんは、何ら驚くことはない。

彼は「死体に対してどのような角度でメスを入れると、死体がどのように反応するか」ということは知り尽くしている。

彼の解剖のプロセスにより、死体の上半身が起き上がるという反応は、彼の「法医学」の知識の範疇であった。

何ら驚く様子も見せず、解剖を続けるラウさん。

しかし、次の瞬間、、、

上半身だけ起き上がった(いわばベッドに座った状態の)変死体の顔が、、、

ツツツツツツツツツツツ~ッ


、、、正面を向いていたその変死体の顔が、ゆ~っくりと左に向いてゆき、、、そして、、、メスを手にしたラウさんと目が合った。

ラウさんの「法医学」の如何なる知識を掘り起こしてみても、この状況で起き上がった死体の顔が動き、彼の目を見つめるという反応に至る道理がない。

変死体に睨まれるという怪事件をきっかけに、ラウさんは暫く心を病み、職場に復帰することはできなかった。

そして、心がある程度回復した後も、法医学のフィールドに戻ることはなく、彼は「元法医学者」となった。

(完)


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