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ライトノベルの賞に応募する(28)

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「お前も大富豪やる?」
 夕食が終わると、さっき抜けたサッカーのメンバーが声を掛けてきた。どうしようか迷ったけれど、やることもないし、メンバーに入れてもらうことにした。
 ルールは昨日覚えた。要するにこのゲームは3と8と2とジョーカー以外をいかに早く捨てて、手持ちのカードを少なくして、けど最後の一枚にすれば警戒されるから、最後に自分の親のターンで8を切って、2か3とジョーカーを切っていけば勝てる。昨日の敗戦で、僕は何も学んでいないわけじゃない。至極簡単なゲームだと思った。大富豪になれば一番強いカードを2枚貰えて、不要な中途半端な4とか6とかのカードを2枚減らすことができる。つまり初戦が大事だ。
 参加者は5人。配られるカードは10枚か11枚。最初に配られたカードは3、6、6、8、10、K、K、A、2、ジョーカーだった。悪くない。3も2も8もジョーカーもある。6のペアとKのペア。5人という人数だとペア以上の役を作ることは現実的に考えてあまりない。交換のない初戦で革命が起きることは考えにくい。勝てると思った。
 ハジメが
「昨日お前勝てなかったから、最初に切っていいよ。」
 と、余裕の表情で言ってくる。僕は勝てるという確信を持ちながら、それは顔に出さず、
「じゃぁ…。」
 といって10の札を切った。
「いきなり10かよ。お前ルール本当にわかってる?」
 笑いながらハジメが言うが、3手先まで読むことはサッカーで慣れてる。ルールを考えられてないのはハジメだろ? と、言葉に出すことはないが内心思っている。もちろん顔には出さない。顔に出して相手に心理を探られるのはサッカーの試合でも不利になる。もう一回くらい自分の親の番が来るはずだ。
 一周目はみんなけん制しあって、ほとんどカードを捨てなかったので、僕はAを切ることができた。かなりいい。ほとんど僕の考えてる通りのシナリオになっている。そしてその場はそのまま流れ、僕の親で2周目が始まることになった。
 僕は6のペアを切った。残されているのは3、8、K、K、2、ジョーカー。この一回りで予定通りキングのペアを出して、それで場が流れてくれれば完全に僕の勝ちになる。順番が回ってきてキングのペアを捨てることができたけど、このまま僕に勝たせるわけにいかないと思ったのか、他のメンバーがAのペアを切って、僕の親ではなくなった。Aのペアを出した親は4のペアを出した。これで僕の勝ちが確定した。2とジョーカーのペア以上に強いカードはこの場でない。ジョーカーが1枚手元になければジョーカー2枚というのが一番強くなるが、僕の元にジョーカーは一枚ある。僕以外の誰かが僕より先に2とジョーカーのペアを切ることがない限り、僕の勝ちだ。僕の番が回ってきたとき、Qのペアだった。僕は迷わず2とジョーカーのペアを出す。周りがざわつく。
「いきなり2とジョーカーのペアかよ!」
 ハジメが驚いたように言った。
 2とジョーカーのペア以上に強いカードはない。
「流していい?」
 僕は少しにやけながら、4人を見た。もうこの時点で僕の勝ちは確定している。
「パス。」
 と四人が順番に言っていく。
 僕の親で始まったので、8を切る。八切だ。昨日このルールが呑み込めなくて苦労した。でも僕は昨日の僕とは違う。
「八切ね。」
 そういうと、4人のパスの言葉を待たずに8を流す。
 すかさず僕は最後の1枚3を切って、手持ちのカードがなくなった。僕の勝ちだ。僕は大富豪になった。5周目。僕は最短で大富豪を攻略した。
「まじかよ。」
 あっという間の出来事に、4人は怒るというより唖然としている。配られたカードの運も良かった。でもそれ以上に中途半端なカードをさっさと切ってしまうという教訓を、昨日負け続けながら学んだのだ。
「配られたカードがよかったんだよ。」
 僕は心の中で僕の作戦勝ちだと思ったけれど、それは顔には出さず、あくまでにこやかに、僕が勝って一抜けしたゲームを見ていた。
 大富豪もそんなに面白いゲームじゃないな。僕はそんなことを思っていた。
 その後、僕は大富豪の座を誰にも渡すことなくゲームは進行した。いらだったメンバーは、
「死ね!」
 とか、
「むかつく!」
 とか、汚い言葉を言っていたけど、僕の大富豪の位置は揺るがない。10枚中2枚の中途半端なカードをなくし、ド貧民の一番強いカードを2枚貰える。あと勝ち続けるのは簡単な事だった。ド貧民に渡すカードは自由。必ずしも3とか弱いカードを渡さなくちゃいけないわけじゃない。僕は革命を恐れてペアで渡すことをやめ、弱くもなく強くもない中途半端なカードをその都度2枚渡して、ゲームを有利に続けた。
 僕のお風呂の時間が来て、僕はゲームを抜けた。
「お前、また戻って来いよ!」
 ハジメたちはルールを覚えて2日目の僕に、負け続けたのが悔しいのだろう。
「ごめん、もう寝るから。」
 僕はそういうと、大富豪のメンバーから抜けた。僕は堂々と、そしてはっきりとそう言えた。
 僕は日に日に図々しくなっている。

 ミワの寝かしつけをいつものようにすると、少し早いけど、僕も布団に入った。今日あったことをいつものように頭の中で思い浮かべる。思うようなサッカーの仲間に恵まれなかったこと。人とボールが折角あるのに、全然サッカーが楽しくなかったこと。生まれて初めて生でギターの演奏を聴いたこと。ステイゴールドが通じたこと。大富豪で圧勝したこと。抜けるとはっきり言えたこと。
 そうだ、湯川さんは明日ギターを貸してくれると言っていた。僕はそのことを思うと明日が楽しみになった。アコギではないエレキというものをまだ目にしたことがない。一体どういうものなんだろうか。僕はここにいる間に本当にステイゴールドを弾けるようになるのだろうか。いやできるはずだ。ピアノだって繰り返し練習することで、弾けるようになった。ギターだって真剣に練習に取り組めば、できないということはないだろう。ギターの楽譜は、僕は普段見ているピアノの楽譜と同じなのだろうか。何も想像ができなかった。そんなことを考えるうちに、眠りはすぐにやって来た。

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