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ダンスの先生の話

先日、ダンスのレッスンが始まる前、久しぶりに先生がおかしな体験談を熱く語っていた。無視しようにも、途中からグフッという笑いを抑えられなくなるくらい、珍妙な話だった。
あまり他人の赤裸々白書をNoteに書きたくはないが、今日の話は、「こんな体験、普通に生きていたらまずしないだろう」という類の、想像をはるかに超えた話だったのと、たまには本気のバカ話もいいかな、ということで、忘れないうちに書き留め(卑猥な表現は避けて)、ある程度時間が経ったので、熱が完全に冷め切らないうちに載せてしまおうと思う。

ミラノではダンススクールも小中高等学校と一緒で、9月始まり、6月終わりで、7月が夏季講習、8月は休みというのが一般的だ。
私は人生の半分以上の年月をダンスに捧げ、それも多い時期には週に5~7レッスン受けるほどの強い情熱を抱いている。そのため、自慢になってしまいそうだが、今でもかなりキレキレに踊れるし、下手をすると20代よりもうまく踊れるため、取っているコースは全て中級だ(私の学校では上級はクラシックバレエ以外はない)。また、かなり若向けのジャンルも踊っているので、クラスによっては最年長だが、幸か不幸かこのアジア人の見た目は得で、誰も私が、場合によっては彼女たちの母親に近い年齢だとは気づいていない(笑)

この若向けのジャンルの一環で、自身をビヨンセの化身くらいに思っているゲイの先生の複数のクラスを、彼がこの学校にやってきた数年前からずっと受講している。見た目は、本当に申し訳ないが、贔屓目に見なくても、その辺にいる女性よりはるかに美しい。日本人男性から言わせると(仲のいい年若いお客さんたちと世間話をする時に写真を見せたことがある)、「襲われそうで怖い」そうだが(そういう、常に男を狙う視線をしている…笑)、女から言わせると、大半が「本当に美しい顔をしている」という。
ただ彼は、その近寄りがたい美しさにアクセスしやすくするためか、それとも元来の性格からなのか、しばしば赤裸々白書をするのだ。そして私たちを笑わせ、自分の虜にしようとする、そんなテクニックを、ダンスのそれ以外にも持っている。

さて、今回の話へ移ろう。
彼にとっても、こんな出来事は三十余年の人生で初めてだったようで、「Ragazzeee, ascoltatemi, se non mi ascoltate, comunque vi devo raccontare ciò che mi è accaduto ieri(アナタたちぃ、ちょっと聞いてよぉ、もし聞いてくれなくても、昨日私の身に起きたことを語らなきゃならないわ)」と言って、誰も聞くとも言っていないのに一人大声で語りだす。
本当は全てイタリア語で、擬態語を加えて語ると雰囲気がついて更に面白いのだが、難しいので(友達には勿論、身振り手振り付きで語る)、彼の雰囲気・口調を真似て、日本語で語りたいと思う。
ちなみに先生を○○、先生の友達を△△、先生の一目ぼれの相手を◇◇とする。
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昨日、△△とスパに行ったのよ。そしたら、すんごいイケメンがいてね、目が合っちゃったの。その後もお互い、何度も目配せして、5分くらい見つめたら、△△が、「ちょっと○○、彼と話して来たら?彼、あんたのことずっと見てるわよ」と言うじゃない、それでね、彼に近づいて話しかけたのよ。すごい色気むんむんでね、まいっちゃったのよ、私。

その後、「着替えしよう」って言われたから、△△と3人でシャワー室に行ってね、もう、私の子が2人くらいできるくらい燃えたのよ、私たち(笑)
着替えた後、◇◇が「ちょっと飲もうか」というわけ。
△△は、「せっかくだから2人で行きなよ」っていうんだけど、そういうわけにはいかないじゃな~い、だって友達は裏切らないものよぉ。だから2人で◇◇について行ったのよ。
そしたらね、彼、コカ(コカイン)やるわけ。
私怖くなっちゃってね、ちょっとだけ試したけど、やっぱり怖くて、横で飲んでたわけ。

だんだん◇◇がいい気分になってきたから、「ちょっと脱いでよ」って冗談ぽく言ったら、本当に脱ぐのよぉ彼ったら、もういやだわ~、そんな人っている?ほんと、完全なすっぽんぽんを初対面の2時間後に見せるってありっ?
ちょっとあなたたち、どう思う?もぉすんごいの、ワ・イ・ル・ドッ、うふっ。

でね、その後、「ちょっとウチくる?買い物して一緒にご飯食べない?」って聞くのよ。でも私、初対面のワイルドなコカやる人のうちにひとりで行くのは怖いじゃない、だから△△にもついてきてよ、ってお願いして、行くことにしたのよ。行く前に「家どこ?」って聞いてら、「すぐそこ」っていうから、あそこの高層ビルの大金持ちかと思って、さらにときめいたじゃないのよぉ。でも外に出たら、「俺んち、あれ」って、向かいに見えるキャンピングカーを指さすのよ。私たち「えっ?!まさか、ジプシー?!」って顔見合せたのよ。

ある女の子「マジっ?○○、ジプシーの家に行ったの?」

そうなのよぉ、私、ジプシーのキャンパーに入ったのよ、人生で初よ。すんごく小さくてね、もうすべてが小さくて、キッチンとテーブルの間を、体をこうくねらせて通って、居心地のいい体勢を見つけるのも大変なわけよ。でも私は料理なんかできないし、盛り付け専門で、彼が手際よく作ってくれるから、帰るとも言えないじゃない?それで3人で音楽聞いて、また彼がコカやって、私たちは飲んで踊って、話して、インスタと電話番号を交換して、夜中に帰ったのよ。
(「ほらほら、すごいでしょ、彼のお尻、こんなお尻と太もも、ありっ?」と近くの女の子たちに写真を見せる先生)

もう一人の女の子「その彼、本当にジプシーなの?」

それなのよ、「本当にキャンパーで生活してるの?」と聞いたら、大道芸人で、キャンパーで各地を回っていて、次の週末にショーをやったら別の町へ移るんだって。それで次のショーに招待されたのよ。

昔、2人と子供で、キャンパーで各地をサーフィンしながら移動して暮らすっていうドキュメンタリー映画を観たけど、私、もしショーに行ったら、彼とそんなことになりそうだわ。それもいいかも、って思うけど、私たちじゃ子供も産めないじゃないのよぉ、それにジプシーとダンサーよ、一体何、あんたたち、って目で見られるわよね、私たち。

でもこんな出会いなんてないじゃない、あんなにワイルドなジプシーなんて見たことないわ、私。そしてきっと、あれは本当の偶然の出会いで、もう一生会わないのよ、彼とは。そんなのだったら、ちょっと激しく睦みあっておけばよかったわね、うふっ、でもジプシーだからね、くくく。

じゃぁ、今日は、一目惚れっぽい曲でストレッチしましょうか、始めるわよ~っ!
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ということで、このちょっと破廉恥でドラマティックな話は終了、後はひたすら黙々とレッスンに打ち込んだ私たちであった。

日本でダンス教室へ通っていた頃、私の先生はゲイではない男たちで、こういう話は一切出なかったが、現代のダンス教室ではこういう話はするのだろうか?
果たしてこれは、ジェネレーションギャップなのか、国柄なのか、それとも完全に個の問題なのか?
少し気になるところだが、いずれにせよ、私の身には起きるはずもないセンセーショナルな出来事が彼にはたくさん起こっている、もしくは面白おかしく作り上げる能力があり、ダンス以外にも楽しませてもらえ、この年になってもまだまだ若者に紛れてキレキレに踊れる自分を誇らしく思った夜だった。

xyxyおまけyxyx
これを書いていて、そういえば美しい少年たちのストーリーが描かれたFrançois Ozon監督の映画があったな、と思い出したので、紹介しておこうと思う。上の話のように破廉恥ではないし、ウケもしないけれど、もしよければ是非。

・タイトル-Été 85(邦題: Summer of 85) 2020年

ポスター: Été 85

1985年の夏、死に惹かれる文学青年Alexisはセーリングの最中にヨットが転覆し海に投げ出されるが、通りかかったDavidに救助される。その後Davidの家に招かれ、彼の母親での店で働くことになる。2人は徐々に仲を深め、親友以上の関係となり、肉体関係まで持った。AlexisはDavidから「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」ことを提案され、困惑したが承諾する。その後、2人は海でAlexisの知り合いのKateに出会う。3人はDavidの船でセーリングをするが、目の前でKateを口説くDavidを見て、Alexisは不快だった。翌日、店番中に帰ってきたDavidを責め、感情的になって店を飛び出したAlexis。だがDavidが自分を追ってバイク事故で死亡したことを知る。Davidの母親はAlexisを責め、葬儀への参列も許さなかった。AlexisはDavidの遺体を一目見たいと思うようになる。そのためKateと和解し、彼女の力を借りて女装し、Davidの生前の彼女という体で遺体安置所に入らせてもらった。そこでDavidの亡骸に飛びつき、そのまま逃走。また、Davidとの約束を果たすため、真夜中に墓地に向かい、彼の墓の上で踊る。そして墓を損壊した罪で現行犯逮捕され、裁判を受けることになる。

Wikipediaより


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