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春色 (詩のようなもの)



いよいよ生きる、と書いて「弥生」。




街を歩けば、


卒業式帰りの中学生たちが、


あの真っ黒い筒を意気揚々と握りしめ、


春色の風を、身にまとう。



ああ、春だね、春だね。

思い出すよ。

嘘くさい涙を浮かべる友人たちを、

横目で見ながら、鬱陶しくて。

自分だけ乾いた北風に巻かれているようだった。


ああ、春だね、春だね。

思い出すよ。

嬉しくもない卒業証書を持たされて、

友だちっぽい連中と思い出フォトグラフ、

なんて、騒いで。

フォルダの中の、覚えていない顔の群れ。


ああ、春だね、春だね。

思い出すよ。

クラス1の秀才が人目を避けた暗い場所で、

煙草を吹かして、繰り返す。

お前はクズだ、と繰り返す。


ああ、春だね、春だね。

思い出すよ。

死んだらどうなるのかなんて、

くだらないことを考えていた日々を。

今思えば、それも青春だったね…


ああ、春だね、春だね。

思い出すよ。

考えるヒマがあるだけマシだった。

だれも知らないことだぞと、

ソクラテスに笑われて。



いよいよ生きる、と書いて「弥生」。


街を歩けば、


卒業式帰りの中学生たちが、


あの真っ黒い筒を意気揚々と握りしめ、


春色の風を、身にまとう。



ああ、春だね、春だね。


いよいよ生きる、歩き出す。


春色の風を、身にまとい、


「弥生」の花の散る下を行け。




ああ、春だね、春だね。

春だね、春だね…

いつかの夜桜。満開の下。




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