見出し画像

【医療コラム】「お前、何やってんだよ!」 私が受けた先輩医師からの指導

■誰も使わないと思っていた踊り場


病院には資材やら薬剤やらの在庫が数多くあります。これは病院あるあるなのですが、防災点検があるとき以外は、廊下や階段にうず高く積まれていて死角があります。そして、その物陰では誰かが誰かに指導されているのでした。先日も、時間外にプレハブの発熱外来で集中して書き物をしたいと思い、人影がないのを目視して忍び込んだにも関わらず、そんな場面に遭遇しました。

私の場合は、4階の踊り場です。4階には小児科病棟があり、建物の構造上、4階スタートで、5階以上に昇ることできる階段があったため、普段は人通りがありません。それは院内の人なら、誰でも知っていることです。だからそこでは、同僚が上席に叱責されていたり、叱責された後に泣いている同僚や看護師を見かけたりしてしまうので、より一層その階段は使用されないことになっていました。

しかし、そんなことは露知らず、誰にも知らない階段を見つけたとばかりに喜んでいた私はノリノリで1人ごとを言ったり、歌ったり解放感いっぱいで普段から使っていました。しかし、ある日先輩が同期をめちゃくちゃ怒鳴りつけているのを見てしまったのです。うわー。いつもは優しい先輩のあまりの剣幕に思わず後ずさり。そのとき、ヤバいことに先輩と目があった気がしたのですが、いや大丈夫だと自分に言い聞かせて一目散に逃げました。

■怒られることの意味


私は老年病科から小児科に転科した小児科医。みんなからスタートが遅れていましたし、すでに老年病科を逃げ出している過去があるため、簡単に逃げ出す奴だと思われています。そのため私は優しく指導されていた感じでしたが、その現場を見る前、見た後で異世界に飛び込んだぐらい私への指導が変わった感じでした。

そう、踊り場での一件を見た後(バレバレだったのでしょう)から、私も踊り場処刑場の申し子となったのです。「何、ふざけてんだよ!」とゲンコツ。でもたまに、踊り場でごくたまに褒められたりもするのです。「よくそんな診断思いついたな」とか。そんなのはみんなの前で褒めたりして欲しいものですけど。ちなみに今は、人前で褒めるのも褒められなかった方がいやな思いをする可能性があるので、アカハラとなると指摘される世の中です。当時に、そんな認識はありませんでしたが。

ただ私にはその方がよかったと思っています。なんとなく怒っていると空気で察しなさいという指導よりも、ダメなものはダメとキツく怒られたことは今でも覚えているものだからです。今は指導するときは、「〇〇だからダメだよ。◎◎するんだよ」と諭すようにしなければいけません。しかし私の頃は、「しっかりせんか!」や「何やってんだよ! いい加減にしろ!」と言ったような指導でした。理不尽に怒られたり、何て私はダメなんだと凹むことばかり。でも、そう言った悔しさやイヤな思いが私を押し上げてきたのだと思います。

ただ児童精神科医として学ぶと、怒られたときに人は怒られたことしか記憶に残らないということを知りました。感情的に怒られれば、自己評価も下がるわけですから確かにマイナス面も多いことはわかります。しかし、そんなドン底から這い上がるのも必要な気もします。

■この歳になって思うこと


すでに50歳となり、人に怒られることはすっかりなくなりました。と言うよりも、今は研修医もよっぽどのミスでなければ指摘されないし、言えない風潮です。私などはミスをしたなら、怒鳴りつけられたいとも思うのでした。
「お前、何やってんだよ!」
もう今や病院では聞くことの言葉ですが、私を育ててくれた言葉です。だからこうやってたまに思い出して、懐かしく思うのでした。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?