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■医師とは切っても離せないMRさん


朝も早くから医薬品情報を医師に提供するMR(Medical Representatives:医薬品情報担当者)がズラリと各医局に並び、朝のカンファレンスもしくは午前の外来が終わるのを待っている光景。今では全く見られなくなりました。今は、病院では目立ちすぎるスーツの人たちが一直線に薬剤部へと入っていく。そしていつの間にか病院採用薬が変更されていたり、新規採用薬が増えたりしている・・。冒頭の光景がいまだに脳裏に焼きついている私としては、現在のMRさんたちに対して違和感があります。

当時はMRさんたちも仕事中ですから、雑談をするわけにもいかないのでしょう。人あたりのいい医局長が、「いやー今日も暑いね」とか「今日の教授はちょっとご機嫌ナナメだよ」なんて話しかけたりするのですが、いつも返答に困って畏まっています。

そして今では考えられないのですが、昔のMRさんたちは医師の仕事の手伝いをさせられていた……いや自主的にしていたのでしょうか? 研修医であった私が頼んだことはないので詳細は分かりませんが、医師の学会発表のためのスライドづくりや模造紙への印刷などをしていたようでした。

■MRさんに教えてもらった「できる医師の香り」


医師としての勤務時間が終わり、医局に戻ると医局でMRさんが、医師からお願いされたと思われる事務作業をしていました。そんな時は、雑談をすることもあります。

「スライド作りなんて本来の仕事じゃないでしょう? 大変ですね」
「いえ。これも仕事です。何せ、私どもに先生が時間を割いてくれているわけですから」
「でも、これ終わったら会社に帰って、報告書とか書いてまた明日でしょ? 大変ですよ」
「当たり前ですよ。24時間働いていますから」

まさしく時任三郎扮する牛若丸三郎太が、ドリンク剤、RegainⓇのCMで、「24時間戦えますか?」と歌っていたのと同じ強い意思です。これが当たり前と言う風潮でしたから、彼ら企業戦士がいれば日本の未来は明るいだろうなぁと思ったものでした。

そして、MRさんたちは決まって言うのです。
「できる医師っていうのは匂いでわかるんですよ」
「えっ、雰囲気とかですか?」
「うーん。香りなんですよ。これが医師の香りかぁっていうのがわかるんです。そういった先生と仕事がしたいんです」
「へー。(そんなのあるんだ)」

確かにMRさんたちも、医師であれば誰でもいいというわけではないでしょう。太く長く続く医師との関係を築けた方が、自分たちの製品も売り込みやすくなります。
「ほら、あの先生もあの先生もいい医師の香りがしますよ。先生はいい医局に入局されていますよ」
「えっ? じゃあ僕はどうかな?」
「うーん。当直明けの汗臭さしかありません」
と真顔で言われてしまいました。ちょっと期待していただけに残念です。

■未だに緊張してしまう瞬間


MRさんたちは、いい仕事を手に入れるために、論文や院内での噂などの情報などから、伸びしろのある医師を見抜いていたのでしょう。私のような研修医では、そんな感覚を持ち合わせていなかったので、分からなかったですが……。でも診療を受けたこともないのに、ましてや私の先輩のような若手医師でも、いい香りのする先生だと見抜いていました。

見ていないようで私たち医師のことを見ている。若手医師のときに言われた、MRさんたちに教わった「できる医師はいい香りがするんですよ」という言葉。

確かに医局に所属していると、「この先生、できる!」とか「この先生にはあっという間に抜きさられてしまいそうだな」という雰囲気が分かるようになっていきます。

これがきっと、できる医師はいい香りがすると言うことなんだな。

25年も前に知った「できる医師はいい香りがする」という感覚。私はこの感覚を、今でも大事にしています。だから、未だにMRさんたちと会う時、特に初対面の時は変な風に見られないように、余計なことを言わないように、つい緊張してしまいます。

「失礼します。この度新しく○○会社から来ましたMRの○○です」
「どうぞ(ドキドキ)」

でも緊張しすぎていても、この先生は「できない人」と思われてしまうかもしれないので、いつもその塩梅に迷っています。

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