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カサンドラの一人歩き

こんにちは、精神科医のはぐりんです。

今回はカサンドラ症候群に関して、最近あまりにもカサンドラ症候群という言葉が広がり過ぎているが故に起きてしまった困った経験をご紹介したいと思います。

もしカサンドラ症候群という言葉を初めて聞いたという方、あまり詳しくないという方は、以前私が書いた記事に詳しく書かせて頂いたのでそちらもご覧ください。

簡単に説明すると、カサンドラ症候群とはどちらか一方の配偶者に発達障害(ASD)の特性があって、同居している配偶者が共感性を得られずなんらかの心身の不調をきたしてしまった状態のことを言います。いわゆる昔で言う夫源病の一部もカサンドラです。夫妻、逆のパターンもありますが稀です。

さて、私の外来にとある男性(Aさん)が初診に単独で来院されました。主訴を聞くと、Aさんの妻(Bさん)が心身の不調を来しており、その原因が夫のASDによるカサンドラ症候群のせいだと妻に言われ、妻から夫であるAさんに対してASDかどうか病院で診てもらうよう言われた、という理由で1人で来院されたのでした。詳しい生育歴等は割愛しますが、診察や心理検査(WAIS.AQ、本人のみを対象とした心理検査)の結果から、私はAさんは発達障害ではない、と診断しました。つまり裏を返せば、妻であるBさんの症状はカサンドラ症候群ではないと言うことです。

実はそもそも妻であるBさんがなぜ自分の症状をカサンドラ症候群だと言ったのかというと、不安や抑うつ症状でC病院に通っていて、そこのC病院の先生がBさんの話だけを聞いて、どうもBさんの症状は夫であるAさんの発達障害から来ているのではないかと判断したそうなのです。

つまり何を言いたいのかと言うと、カサンドラ症候群は夫婦の問題だと言うのに、AさんはBさんに促されるがまま単独で来院しているというのがそもそもの問題の始まりでした。私はAさんが発達障害ではないと診断しましたが、より診断の精度を高めるのであれば妻であるBさんなどからも話を聞いておくべきですし(あるいはAさんの両親からの情報も。発達障害の診断には幼少期のエピソードがとても重要)、妻であるBさんも自分の症状が夫の発達障害が原因だと疑っているのなら一緒に来院するべきなのです。

今回はカサンドラ症候群を疑われ夫だけが単独で来院したという、文字どおりカサンドラ症候群が一人歩きしてしまったケースをご紹介しました。カサンドラ症候群は夫婦の関係性が原因の疾患なので、一緒に来院してもらって問題点を共有してもらうというのが大前提だということを認識させられたケースでした。これからもしカサンドラ症候群かな?との理由で受診を考えられている方がいたら、ぜひパートナーさんも一緒に受診してもらって、一緒に解決していけるような方向性を見つけられるといいですね

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