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論文紹介〜1800人のASD/ADHDの方のWAISの結果を分析し出てきたとある傾向

こんにちは、精神科医のはぐりんです。
※この投稿は3分で読めます。ぜひ最後までお読みいただけたら嬉しいです。

今日はイギリスのニューキャッスル大学発の、WAISのデータ解析をした論文をご紹介したいと思います。

発達障害の検査というと真っ先に思い浮かぶのは知能検査、すなわちWAIS(ウェイス、子供の場合はWISC:ウィスク)だと思うのですが、WAISの点数パターンがこうだから発達障害、こうでないから発達障害ではない、といったはっきりとした指標はありません。あくまで診察時の様子や、母親から聞いた幼少期の様子、学校や職場での様子、その他の心理検査、そういったことを総合して発達障害の診断をしていきます。

そういった大前提はありますが、今回ご紹介するWAISに関する論文データは、私の臨床感覚(私が過去に診てきた発達障害の方のWAISの結果)とかなり合致しているものでした。

内容としては、1800人のASDまたはADHDと診断された方のWAIS(子供はWISC)を分析し、スコアにどういった傾向があるのかを調べたものです。2022年10月までに公表されていた他の研究データ(ASD/ADHDの方のWAIS,WISCの結果)を拾い集め、1800人以上のデータをまとめ、今年の8月に発表された論文で、かなり新しいデータと言えます。

結果をお伝えする前にもう一点だけ、WAISについて説明させてください。WAISについてあまりよく知らないという方に簡単に説明させていただくと、WAISは1-2時間かけて心理士さんと1対1で色々な課題をやってもらう知能検査です。

結果としてまず全体の知能指数、いわゆるIQが出ます。IQを細かく分けると、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度、の4つに分類されます。例えば知覚推理、非言語的な思考力とも言いますが、検査では実際に手を使って積み木を組み合わせて模様を作ったり、平面でパズルを作ってもらったりします。

知能指数(IQ)、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度、それぞれ全人口の平均を100として、5つの項目それぞれが数値化され最終的に結果として出されます。例えばIQ110、言語理解100、知覚推理120、ワーキングメモリー110、処理速度105といった具合です(ちなみにこれはリフォームや家具修繕をされている方の実際の結果。知覚推理が高く、特性が仕事に生かされているといえますね)。

話しをもとに戻して、いよいよ気になる論文の結果ですが、1800人のデータを分析した結果、ASDの大人と子供のWAIS(WISC)の傾向として、『言語理解と知覚推理は平均範囲だが、処理速度は平均より約1SD(スコアにして15)低く、ワーキングメモリーはわずかに低い程度であった』との結果が出たそうです。またADHDに関しては、『ほとんどが期待されるレベルの数値で、ワーキングメモリーはわずかに低かった』という結果でした。

これは私がこれまで診てきたASDやADHDの方のWAISの結果とも感覚的に一致していて、特にASDの方にWAISをやってもらうと処理速度の低さはほとんどの方に見られました。

また論文の結果ではADHDの方のWAISには特定の傾向は出なかった(有意差なし)とのことですが、ワーキングメモリーがわずかに低いというもので、これもADHDの方の特性を考えると当てはまりそうです。

ワーキングメモリーとは短期記憶、例えば電話をしながら何か作業をするとか、料理の鍋焦がしを気にしながら掃除するとか、何か記憶をとどめておきながら同時作業をする能力のことを言います。ADHDの方が苦手な部分と言えます。

今回は1800人もの神経発達症の方の知能検査のデータを集めデータ解析した、比較的最近の論文を紹介させていただきました。神経発達症は心理検査だけでは診断しないという前提はありますが、ある程度臨床感覚と合致した結果が出た研究と言えると思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

紹介論文:Cognitive Profile in Autism and ADHD : A Meta-Analysis of Performance on the WAIS-Ⅳ and WISC-Ⅴ
(Arichives of Clinical Neuropsychology 00(2023)1-18)

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