見出し画像

妊婦でいる唯一のメリット

妊娠がわかって喜んだのもつかの間。つわりが始まりました。もはや「つわり」「悪阻」という文字すら見たくないほど、それは過酷なものでした。経験したことのない消化器の不快感。寝ても覚めても一向に改善せず、食べることは愚か水を飲むこともできなくなりました。吐き気止めの薬すら、水で飲むことが難しいのです。

つわりが落ち着いてからも、だるさ、眠気、気力のなさが残りました。何もしたくない。すぐ疲れるから外出もままならない。立ちくらみ、めまい、肌の痒み。くしゃみや咳、ときには笑った瞬間に尿漏れを経験しました。息苦しさ、骨盤周りの痛み。確実に、自分の体が自分のものではなくなりました。コントロール下に置けないのです。

体の中に新たな命を育むことは、喜びや待ち遠しさがあり、同時に大きな不安もあります。無事に出産までお腹の中で育てられるだろうか。自分の生活によって、小さな命が健やかな育ちを奪われていないだろうか。精密超音波検査を受ければ、奇形や障害がないかが気にかかりました。胎動が少ないと、苦しい思いをしてやしないかと心配しました。妊娠すると免疫力は下がるのに、感染症にかかったら重症化しやすいことも不安を煽りました。使用できる薬も限られます。カフェインや糖分の摂りすぎは貧血や高血圧の引き金になります。アルコールは禁止、緊急時に備えて遠出もしなくなりました。変化する体型によってファッションも変えざるを得ません。サイズが合わなくなるので新しい下着も必要です。食事ひとつとっても、甘いものやカロリーの高いものは控えましょうとか、魚や果物、鉄分をしっかりと摂りましょうとか、妊婦であるが故に気にかけることが増えました。

おそらくは、無事に生まれてくることの方が多い日本の周産期医療の現場において、自分が少ない方の確率に入ってしまわないように、祈るしかありません。防ぐ手だてのない、悲しいことが起こることも事実なのです。

そんな妊娠期に唯一といっていいメリットは、生理がないことだと思い至りました。生理もなければ生理痛もありません。ホルモンバランスによる影響は心身ともに受けるので、血を流さないという事象においてのみ、それはメリットだと思いました。

これから妊娠を望む人を、脅すつもりはありません。心がけによっては、妊婦生活を楽しむこともできるでしょう。物事には多面性があり、知っておくことで心構えができるかもしれないと思うのです。

そして、「みんなやってるからきっと簡単なんだろう」は、妊娠においては当てはまりません。そういう誤った認識がされているのであれば、私なりに警鐘をならしたいと思います。私にとっては、妊婦でいることのメリットはデメリットに比べて極端に少なく思えます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?