見出し画像

一杯のコーヒーに温もりを


 デージーの花が咲く頃、とある街に旅行に来ていた。一緒に行くはずだった人は隣にいない。綺麗な街並みも美味しい食べ物も一人で味わうことになるなんて。私の頬を冷たいものが零れ落ちた。
 どのくらい歩いたのか、気がつくと一軒のカフェの前に辿り着いていた。
 店頭に置かれた見慣れない道具を見つめていると、中から店主らしき人が出てきた。
「お客様。よろしければお召上がりください。」と穏やかな笑顔でカップを差し出してくれた。
「こちらは、店へ次に来る人や貧しい人達のために、あらかじめ2杯分の料金を支払って、コーヒーのおすそ分けをするという、この街の古くからの習慣なのですよ。」
 ・・・とても良い香り。
「いただきます。」
 ・・・温かい。何だかほっとする。
「この街の人達は、とても温かい心を持っているんですね。」
「喜んでいただけて良かった。どうぞごゆっくり。」と言って、店主は店の中へと戻っていった。
 この街の人達の優しさに胸がいっぱいになり、不思議と寂しい気持ちは薄れていった。
 旅先で出会った一杯のコーヒー。私はその温かさに救われた。



** * ** * ** * ** * ** * **
こちらは過去の作品です。
エスプレッソの聖地ナポリの伝統文化「カフェ・ソスペーゾ」(保留のコーヒー)を知り、とても素敵な習慣だと感じたので、沢山の方に知っていただけたらと思い書いたものです。
最後までお読みくださりありがとうございました(⋆ᵕᴗᵕ⋆)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?