【短編】ここにいる理由

 とある小さくも大きくもない村。
 人口はだいたい6000人程で、そのうち半分は高齢者で、年々その土地を離れる若者は増えていくのだった。
 「あと五年もすれば、この村もジジイかババアしかいなくなるな」
 「かもね」
 「優太、どーすんの? 地元戻ってくるの?」
 「んー、まあ、そーかな」
 「純一はどっか行くんでしょ?」
 「うん」
 夏が過ぎ、秋口の昼下がり、男達が3人集まって純一の部屋で話し込んでいる。
 優太、純一、翔馬、彼らは小学校から共にする仲だ。
 「この裏切り者め」
 翔馬は少しおどけながら、純一をつついた。
 「仕方ないじゃん。あの村何もないし」
 「俺らがいるだろ? なあ優太」
 「え、まあ、うん。そーだぞー」
 「お前らなぁー」
 「今からでも遅くないぞ。こっちに就職しろよ」
 「もう決まっちゃったし嫌だよ」
 「そーですか。そういや、優太は決まったの?」
 「ううん、まだかな」
 翔馬の問いかけに少しきまり悪そうに優太は首を振った。
 「お前ならどうにでもなりそうだけどな」
 「そうそう。ここらなんてテキトウに入れるとこあるでしょ。俺だって今働いてるとこ、そうだし」
 「まあ、そうだといいけど…」
 「ほら、元気だせって。また飯とか行こうぜ、どっかの裏切り者さんは置いといてさ」
 「えまって、ここ出るだけでそんな仕打ち?」
 「あたりまえですぅー」
 3人して笑っていた。
 彼らがその後も、そんな他愛もない話や思い出話をしている間に、気の早い太陽は傾き始め、山々と、その間や開けた場所にに少し栄えたように存在する村を、オレンジ色に染め上げていた。
 「もうこんな時間か」
 「そろそろおいとましますか」
 「うい。気を付けてな」
 優太と翔馬は2人純一の家を出ると、すぐ二手に分かれた。
 「じゃねー」
 「うん、バイバーイ」
 優太は一人、ポツポツと静かな足取りで家へと帰る。車一台通れるかの細い道や、上り下りの激しい坂道、車通りの多い大通りを抜けようやく家にたどり着く。
 「ただいま」
 「おかえり」
 優太の母親が仕事から帰って、晩御飯の準備をしていた。
 「お風呂入れといてくれない?」
 「はーい」
 優太は風呂場に向かうと、シャワーを空の浴槽に突っ込み、40度くらいのお湯を出した。そのまま蓋してキッチンにあるタイマーをセットする。
 「ありがと」
 「うちもそろそろ給湯器にすれば?」
 「私もそう思うけど、お父さんがねぇ」 
 「あー、いらんって感じか」
 「そーなのよ」
 その時、ピコンと優太のスマホが鳴った。
 彼がチャットアプリを開くと、今日あった二人と別の旧友からの連絡があった。そこには、「今夜ゲームしない?」の一言。
 優太は「いいよ」と返し、居間に寝そべり疲れた様子で目を瞑ったのだった。

 夕食を食べ終えた優太は、風呂を済ませて自分の部屋でゲームをしていた。
 「お前、地元帰るんだ」
 「うん」
 「ほんとお前好きよなそこ」
 「そうでもないけど」
 「だってお前、大学行ってなきゃそもそもそこから出る機会なかったでしょ?」
 「まあ、たしかに」
 「ほら、好きじゃん」
 「そういうことになるか―。あ、わりっミスった」
 「うぃー、ドンマイ。次行こ」
 「ちょい待ってー、寒いから窓閉める」
 優太が窓辺に近づくと、彼の耳にチリリと鳴く虫の優しい歌声が届いた。
 少し安らぐように優太は数瞬耳を澄ませてから窓を閉めた。
 「お待たせ」
 「もう寒いのそっち。こっちはまだ全然暑いです」
 「そりゃこっち山しかないから」
 「こっちはコンクリートっていう最新技術で囲われております」
 「次ラストでいい?」
 「オーケイ」
 深夜1時、ゲームを終えた優太はベッドの布団に潜っていた。そして今日あったことを思い返す。
 それと共に一つの疑問が優太の頭に浮かんだ。
 自分がなぜここにいたいと思うのか。
 彼はその答えにすぐ辿り着いた。
 「都会より、まだマシだもんな」
 彼の静かな囁きは、これから廃れゆくであろう暗闇へと染み渡っていった。
 
 

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