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人生最初の良い思い出

 今読んでいる本に「あなたの記憶の中で、人生最初の良い思い出とはどういうものですか?」という質問が出てきて、自分の場合についてしばらく考えていたのだが、どうもうまく思い出せなかった。嫌な記憶だったらたくさん出てくる。3歳くらいのとき、母に叱られて家を閉め出されたとか、幼稚園でお箸をうまく使えなくて、先生から「みんなは上手に使ってるよ」って言われたとか、従妹の誕生日会でハッピーバースデーを歌えなくて、叔母から「なんで歌わないの?」って言われたとか。まだまだあるけどこのくらいにしておく。
 母親は厳しかったけれど、客観的にみてそんなに不幸な家庭ではなかったと思う。だけどそういう問題ではなく、物心ついたときからなぜかどこにいても居場所がない感じがあった。だから幸せな記憶を具体的に思い出すことが難しいのかもしれない。
 ただ、しばらく考えていて、小さいときのアルバムに父と一緒に遊んでいた写真があったことを思い出した。昔のアルバムはポケット式ではなくて、フィルムを剥がして写真を挟む粘着式が主流だった。そこに、四角いままではなくてハートや丸のかたちに切った写真と、「パパといっしょ」という、レタリングして切り抜いた文字が挟まっていた。特に父親に懐いていたような覚えも、パパなんて呼んでいた記憶もないんだけど、その写真の中にいるわたしと父親はニコニコしていかにも楽しそうで仲良さそうで、なんとなく気に入っている写真だったから、割と大きくなってからも見返していたような気がする。父と楽しい時間を過ごしていたこと、それ自体を思い出したわけではないけれど、わたしにも良い思い出はもちろんたくさんあるのだ。普段は気づかないけれど、今わたしがどうにか人生を投げ出さずにいられるのは、そういう、知覚できないけれど確かに存在している幸せな記憶のおかげもあると思う。
 
 

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