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不思議な家のお話。


友人モナの家

 仲良しだったモナと二十年振りに出会い、カフェで楽しい時間を過ごしました。でもお喋りをしていて、モナの家が変だったことに気づいたんです。毎日のように遊びに行っていたのに、まるで魔法にでもかかったみたいに、ずっと気づきませんでした。今思えば、不思議としか言いようがないのです。

 モナはとても裕福な家庭のお嬢様で、三人姉妹の末っ子でした。モナの家はとても大きくて、モナと両親の部屋は2階にありました。でも私たちの遊ぶ場所は一階でした。鬼ごっこやかくれんぼをするには、広い方が楽しかったからです。キッチンとダイニングルームがあって、広いリビングには家族団欒のためのソファやテーブル、大型テレビやピアノが置いてありました。そして私がモナの家で一番好きだった部屋は玄関から直接入れる書斎でした。アンティーク風な応接セットと、天井まである本棚。どこを見渡してもクラシックなシチュエーションで、革張りの椅子に座って本を読むのが何よりもの楽しみだったのです。それに書斎にはもう一個のドアがあって、そのドアを開けると、薄暗い廊下がありその先には古風な大広間がありました。大広間の白い襖を開けると四季折々の花が咲いているお庭が見えて、今もその美しい風景は忘れません。ただ、書斎と大広間を繋ぐ廊下には、凹んだ場所があって、道具置き場かと思うような小さなドアがありました。後でわかったのですが、モナのすぐ上のお姉さんの部屋でした。ギターを教えてもらうのに一度だけ入ったことがあるんです。部屋の中は整理整頓されていて、壁紙も照明も全部素敵な部屋でした。

 私の家はとても小さくてボロ屋で、おまけにお父さんは酒乱でお母さんは時々しか帰って来なかったので、私はいつもモナの家に遊びに行っていたのです。そしてモナの二人のお姉さんと一緒に夕食を作ったり、デザートを作ったりもしました。高校を卒業して遠い街に引っ越すまで、ほとんど毎日モナの家にいました。もちろんモナの家族はみんな笑顔で向かい入れてくれました。それなのに、私は気づかなかったのです。
モナに久しぶりにあって「お姉ちゃんたちは元気なの」と訊いて、モナが「二人とも元気だよ」と言うまで、本当に気づかなかったのです。モナには二人のお姉さんがいるのに、一人のお姉さんの部屋しかなかったことを、その日まで魔法にでもかかったみたいに気にならなかったのです。

 一番上のお姉さんの部屋はどこにあったんだろう。どこかに、もう一つのドアがあったんだろうか。でもそれをモナには訊けませんでした。訊いてはいけないような気がしたからです。






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