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ヴェネツィアのゴンドラとは何か

ヴェネツィアのゴンドラ

ヴェネツィアにはたくさんの種類の伝統的な手漕ぎ船がありますが、その中の一つで一番有名なのがやはりゴンドラです。

ゴンドラ

ゴンドラという言葉の語源は、古代ギリシャ語の「kondis」(=貝の意味)と、古代ペルシア語の「kondy」が、ラテン語になり「gondus」「gondula」になり、イタリア語化して「gondola」になったと言われています。

単純な小舟から、ヴェネツィアで進化し、ゴンドラの特徴でもあるのが、船体の非対称です。
船体が右側に傾いているのは、一人の船頭が最後尾の左側に立って、一つのオールで漕ぐ時に、推進力を与え進路を安定させるためです。

14、15世紀のヴェネツィアでは、ゴンドラは移動の手段だけでなく、ひとつのステータスシンボルとなっていました。
富裕層は、個人専用のゴンドラに御抱えのゴンドラ漕ぎを持ち、そのゴンドラの作りも競うように派手になっていきます。
個人の好み、流行を取り入れ、金箔や大げさなデコレーションをほどこし、豊かさを誇示する道具となりました。
サイズもどんどん大きくなっていき、決して広くない運河の通航を妨げるようにさえなったのでした。

1492年の、コロンブスのアメリカ大陸の発見以来、世界情勢が少しずつではあるけれど、ヴェネツィアに不利に変わりつつあるのを、ヴェネツィア共和国の上層部は分かっていました。

ヴェネツィア政府は、1562年ゴンドラの規制法を可決します。法律で、ゴンドラの色は黒、長さは11メートル、重さは600キログラムと決められたのです。

アメリカ大陸の発見による、直接の不利益はまだほとんどなかったのですが、政府にしてみれば、ばかみたいに華美なゴンドラを作って、浮かれている場合じゃない、というところだったのでしょう。

様々なタイプのゴンドラ

ゴンドラの船首

このゴンドラというタイプの船は、用途によっていくつかに分かれています。

イベントやお祭り用のゴンドラには、凝った装飾がほどこされていて色も様々ですし、競技用のそれは反対に、色も形もとてもシンプルな作りになっています。

その中でも一番よく目にするのが、観光用のゴンドラで、船首部分に「ferro」(フェッロ=鉄)と呼ばれるシンボルがついているのが特長です。そのフェッロをよく見てみると、くしのような形をしていて、片側にひとつ、反対側に六つの突起があるのがわかります。

この6+1の突起には意味があって、ヴェネツィアの地区を表しています。
ヴェネツィアの地区のことを「sestiere」(セスティエレ、sestoは6の、6番目の意)と言って、六つに分けられた区域のことをいいます。

ヴェネツィアの地図

まず、島の北側部分にあたるのが「Cannaregio」(カンナレージョ区)、東部を「Castello」(カステッロ区)、中心部分に「San Polo」(サンポーロ区)と「Santa Croce」(サンタクローチェ区)。西部から南一帯を「Dorsoduro」(ドルソドゥーロ区)、そしてサンマルコ寺院がある「San Marco」(サンマルコ区)の六つです。シンボル左側の一つはと言えば、「Giudecca」(ジュデッカ)の島を表しています。ジュデッカ島は、ヴェネツィア本島の南側に横たわる細長い島です。

行政上の区域としては六つに分かれているこの島ですが、実際にはたくさんの小さな島を、またたくさんの橋でつなげているのがヴェネツィアの姿なのです。

小さな島の数は120個以上で、それが400個前後の橋でもってつながれています。そのたくさんの橋の下をゴンドリエーレ(=ゴンドラ漕ぎ)の操る黒いゴンドラが、滑るように音もなく通り過ぎてゆきます。


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