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本屋大賞2024について(読書記録その27)

 今年も本屋大賞発表の季節となりました。まさか成瀬が天下どころか大賞まで取るとは思わなかったです。


ノミネート10作

『黄色い家』川上未映子
『君が手にするはずだった黄金について』小川哲
『水車小屋のネネ』津村記久子
『スピノザの診察室』夏川草介
『存在のすべてを』塩田武士
『成瀬は天下をとりにいく』宮島未奈
『放課後ミステリクラブ~1金魚の泳ぐプール事件』知念実希人
『星を編む』凪良ゆう
『リカバリー・カバヒコ』青山美智子
『レーエンデ国物語』多崎礼

2/1(ノミネート作品発表)時点での所感

  • 今年は大賞候補が複数あって予想が難しい

  • 去年以上にジャンルが広いので接戦になりそう

  • 実績か意外性か話題性か

  • 続編であることを考えると『星を編む』は苦戦するかも

  • 発売した時点で話題になっていた作品も多いのがどう出るか

<各作品読んだ感想>

『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈

 「今年の夏を西武大津店に捧げようと思う」と言い、閉店直前のデパートの様子を伝えるTV中継に西武ユニで映ったり、かと思えば「漫才をやる」と言ってM-1に出たり、はたまた「卒業式までどれだけ髪が伸びるのか」と言って高校の入学式に坊主頭で出席したりの成瀬wwそんな成瀬あかり史のほんの一部とその歴史の目撃者のストーリーで構成された作品。
 大津にデパートを作り、200歳まで生きる気マンマンの成瀬がここまでぶっ飛べるのも成瀬の精神的な強さがあってこそ。成瀬と相方島崎(よく付き合っていられるな、島崎ww)との愛情、そして大津市民にとっての西武大津店の存在の大きさがよくわかる。強い女性は美しい。

『放課後ミステリクラブ~1金魚の泳ぐプール事件』知念実希人

 児童書でありながら本屋大賞にノミネート(史上初)された異例の作品。小学校で起こった謎の事件(強盗や殺人はさすがに出せない)を解決するというものだが、事件を解決するプロセスやトリックは本格的に作られている(さすがは知念実希人作品)。小学生はもちろん、大人にとってもミステリー入門書、あるいは知念実希人作品入門書として最適な作品となっている。

『スピノザの診察室』夏川草介

 妹を亡くし、残された甥の面倒を見るために大学病院の医局長を辞め、地域の病院に移ってきた内科医の雄町哲郎。大学病院の医局で「病気の治し方」を追求していた「マチ先生」が地域医療の現場で「治らない病気を抱える患者を幸せにする方法」を追求する姿と、大学病院から派遣されてきた南茉莉が最先端医療と地域医療の方向性の違いで戸惑う姿が描かれている。
 家族のことも省みずに最先端を突っ走って専門医療の先駆者になるか、家族のためにも地域に根を下ろして医療で人々に貢献するか。もしも自分が医師ならどちらを選ぶだろうか、そして人としての幸せとはどういうことであろうかと考えさせられる。

『君が手にするはずだった黄金について』小川哲

 主人公の高校の同級生に関わるエピソードで構成されていて、詐欺師やらなにやら胡散臭い人たちが大集合、みたいな作品。“等身大”、“身の丈にあった” 、“見栄を張る”、といった言葉の意味を考えさせられる作品。

『リカバリー・カバヒコ』青山美智子

 日の出公園にあるカバの遊具・カバヒコには触ったところを治してくれるという言い伝えがあるという。
 カバヒコとカバヒコのいる日の出公園の近くにある分譲マンション「アドヴァンス・ヒル」の住人たちの物語。青山美智子ワールドの真骨頂である、登場人物にそれぞれつながりがあって、最終的には輪っかのようにつながるあの図式が今回の作品はかなり濃いめに設定されている。
 痛みとは一体どこから来て、どこを治せばいいのか。また、特効薬も痛みの原因も根本は予期せぬところに現れる、ということ。

『星を編む』凪良ゆう

 前回の本屋大賞受賞作『汝、星のごとく』の続編。北原先生が島に来るまで、櫂の担当編集者の奮闘ぶり、そして暁海と北原先生とその家族のその後の物語が描かれている。
 登場人物のほとんどがつらい過去を持ち、それを自分なりに乗り越えていく姿が描かれている。北原先生のあの場面は何故起こったのか、その根拠もわかる。

『黄色い家』川上未映子

 文化住宅で母親とふたり暮らしだった花。母親は花に無関心で、母親の妹分である黄美子とひと夏を過ごしたことがあった。ある日、アルバイトで貯めた金を当時の母親の彼氏・トロスケに盗まれてから、花の金銭に対する執着が強くなる。
 その後黄美子と再会した花は家を飛びだし、黄美子とともにスナックをやりはじめる。黄美子の周辺にいる登場人物も闇がちらつく人物ばかりだが、人と金が複雑に絡み合うことで、がんじがらめになる。そしてあることをきっかけに人を変えていく。金は人を狂わせる。

『存在のすべてを』塩田武士

 1991年12月に神奈川県内で同時に起きた2件の男児誘拐事件。事件発生から3年後に被害男児が祖父母の元に戻ってから事件は忘れ去られていたが、不可解な部分は判明しないまま。その真相を追いかけていた元刑事とその刑事から引き継いで事件の真相を追いかける新聞記者とその関係者の物語。鍵となるのはとある画家の絵だった。
 細部まで細かく描写されていて、臨場感が伝わる作品。最後の最後にすべてがつながるさまは圧巻。

『水車小屋のネネ』津村記久子

 母親とその婚約者の横暴さに嫌気がさした18歳の理佐。8歳の妹・律を連れて家を出て、田舎のそば屋で働くことに。そのそば屋には石臼でそば粉を挽くための水車があり、水車小屋では石臼の様子を見張っているネネというヨウムがいた。
 姉妹とネネを中心に、人々の温かさと愛、そしてそれを糧にして成長していく登場人物たちのようすが描かれている。

『レーエンデ国物語』多崎礼

 聖イジョルニ帝国にあるシュライヴァ州。そこの騎士団で団長をしていたヘクトルは交易路を造るために娘・ユリアを連れてレーエンデ国にある古代樹の森に向かう。そこで出会うトリスタンとともに交易路建設に向けて調査するヘクトルだがべつの考えもあるようだった。
 本格的な王道ファンタジー過ぎて話の内容が入ってこない。

すべて読み終わった時点での順位予想

  1. スピノザの診察室

  2. 水車小屋のネネ

  3. 成瀬は天下を取りにいく

  4. 存在のすべてを

  5. リカバリー・カバヒコ

  6. 星を編む

  7. 黄色い家

  8. 君が手にするはずだった黄金について

  9. レーエンデ国物語

  10. 放課後ミステリクラブ~1金魚の泳ぐプール事件

 上位4冊は自分の中では僅差。ただしここでも成瀬は大賞までは行かないと予想。現代人が抱える問題が温かい視線で描かれているスピノザがハナ差で抜けると予想。

そして最終結果

  1. 『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈

  2. 『水車小屋のネネ』津村記久子

  3. 『存在のすべてを』塩田武士

  4. 『スピノザの診察室』夏川草介

  5. 『レーエンデ国物語』多崎礼

  6. 『黄色い家』川上未映子

  7. 『リカバリー・カバヒコ』青山美智子

  8. 『星を編む』凪良ゆう

  9. 『放課後ミステリクラブ~1金魚の泳ぐプール事件』知念実希人

  10. 『君が手にするはずだった黄金について』小川哲

 成瀬が天下どころか大賞まで取るとは思わなかった。要因としてはノミネート直前という絶妙なタイミングで続編『成瀬は信じた道をいく』が発売されたのが大きいように思える。
 個人的な予想順位を的中させたのが2位のネネのみだが、上位4作品の顔ぶれは予想通りであった。
 レーエンデが5位に入ったのはハリーポッターシリーズや十二国記などのファンタジー作品に精通した書店員からの票をしっかり集められたことが大きいように思える。そして9位の放課後ミステリクラブは児童書であることを考えれば大健闘だったのではないだろうか。
 6位の黄色い家、10位の君が手にするはずだった黄金については作家のネームバリューに、8位の星を編むは前作(2023本屋大賞)の『汝、星のごとく』にそれぞれ喰われてしまった感じが、また7位のカバヒコは話題性に乏しく、他の作品に埋もれてしまった感じがする。

来年の本屋大賞はどうなる?

 どうなるかはわからない、というのが本音。今年の本屋大賞に関して言うと、去年の今頃の段階ではある程度ノミネート作品の予想が立てられたのだが、今年は未知数。そんな中でもありそうなことといえば、「恩田陸さんの最新作はひょっとしたら入るかも?」「青山美智子さんと小川哲さんが今年も新作を出せばノミネート濃厚?」「星を編むのノミネートがOKなら成瀬続編の来年ノミネートもOKなのでは?」といったところ。

さいごに

 私が本屋大賞発表前にノミネート作品をすべて読むのは予想をするためです。ただそれだけです。賭けているわけでもありません(そもそも日本国内じゃ賭博罪に問われるし)のでご安心を。
 これを気に過去の本屋大賞作品(含:ノミネート作品)に触れてみるのもオススメです。

ではでわ

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