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松尾芭蕉「おくのほそ道」ドナルドキーン英訳

 

俳諧は海外での関心が高く、クラシック音楽でもメシアン「七つの俳諧」、ジョン・ケージ「七つの俳句」などいくつか作曲されています。

 俳諧の代名詞といっていい芭蕉の「おくのほそ道」は、日本文学研究者ドナルド・キーンさんが評論&翻訳を手がけています。有名な句「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」は「山寺や石にしみつく蝉の声」を何回も苦心して改作した句であること、「夏草や兵(つはもの)どもが夢の跡」ではOという音が重要で、Oはどの国の詩歌でも悲しみの音を表し、ポー「大鴉」ではこの音が何回も出てくること、「平泉のニ堂開帳」については、曽良の日記によると実際中尊寺についてもお堂に鍵がかかっていて案内する人が現れず何も見られなかったとあり、芭蕉のフィクションであることが、ドナルドキーンさんによって解説されています。

 私は芭蕉の句では、「~光堂」の俳句が一番好きです。周囲は歳月と共に朽ち果てているが、光堂はキラキラとしたなごりを感じさせるといった風情に、優美な印象を受けます。久しぶりにおくのほそ道を読んで、眠っていた旅情を呼び起こされました。

 平泉
兼ねて耳驚かしたる二堂開帳す。経堂は三将の像をのこし、光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置す。七宝散りうせて、珠の扉風にやぶれ、金の柱霜雪に朽ちて、既頽廃空虚の叢と成るべきを、四面新たに囲みて、甍を覆ひて風雨を凌ぐ。暫時千歳の記念とはなれり。
五月雨の降りのこしてや光堂

(ドナルドキーンさんの訳)
The two halls of the Chuson-ji,whose wonders I had heard of and marvelled at, were both open.The Sutra Hall ontains statues of the three generals of Hiraizumi;the Golden Hall has their coffins and an enshrined Buddhist trinity. The "seven precious things"were scattered and lost, the gem-inlaid doors broken by the wind,and the pillars fretted with gold were flaked by the frost and snow. The temple would surely have crumbled and turned into an empty expanse of grass had it not been recently strengthened on all sides and the roof tiled to withstand the wind and rain.A monument of a thousand years has been preserved a while longer.

Have the rain of spring
Spared you from their onslaught,
Shining Hall of Gold?

 

曲は、現代作曲家細川俊夫さんの弦楽四重奏曲「カリグラフィー(書)」。アルディッティ弦楽四重奏団の演奏で。キーンと張り詰めた緊張感と静かさのある曲で、芭蕉の世界観にも合うように思います。https://www.youtube.com/watch?v=5cLsJ87hy1E

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