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「いいとこ」が「集まりどころ」? 東日本大震災後にはじまった、東京・小平西ネットのあゆみ

白梅学園は、東京都杉並区から小平市に移転してから、60年経ちました。小平市や、その周辺自治体から通う学生や園児が大半です。「顔が見える地域づくりのために大学ができることはなんだろう?」。難しい問いですが、大学がある小平のみなさんと共に探っています。

白梅学園大学は、2012年3月、「小平西地区地域ネットワーク(西ネット)」を、大学のある小平の町ではじめました。NPO、ボランティア団体、民生・児童委員、町内会、大学・学校に関係する方々に呼びかけて「お互いの顔が見える人間関係が豊かな地域づくり」を目指しました。個人も参加できる、開かれたネットワークです。今年3月に短期大学教授を定年退職する私、瀧口優は、事務局長として関わってきました。

西ネットがはじまる1年前、東日本大震災が起きました。日々のつながりが、生きる力になり得ることを知りました。

「人のつながりが、人に対する信頼を高め、地域のネットワークを形作る力になる」――。西ネットは、私たちが続けてきた研究を、実践に移した形でもあります。

西ネットを始めるあたり、人と人の顔が見える地域をどの範囲にするのか、議論になりました。最終的に、西ネットは、府中街道より西側が「持ち場」となりました。面積は市の4分の1、住んでいる人は4万人。想定よりかなり広い地域が対象となったため、西地区をさらに4つに分け、それぞれの地域で「顔の見える地域づくり」を目指すことになりました。

西ネット今


1人で住んでいる高齢者も多くいらっしゃるため、何かあったときに支えあえる体制を目指しています。私は今、具体的に「身近に親しく付き合える人が5人以上いるといいですね」と呼びかけています。

大学の教員が、知っている方に声をかけ、各地域の世話人になっていただきました。大学側にも世話人がおり、定期的に懇談会を開くなどしています。また、地域懇談会の開催に合わせて3か月に1度、情報紙「小平西のきずな」を発行してきました。

小平市内には、コミュニティタクシー「ぶるべー号」が走っていますが、西ネットの範囲である南西部には走っていません。特に白梅学園大学周辺はスーパーなど日常の買い物する場があまりなく、国分寺や立川まで行く人も多いようです。

4つのブロックの地域性について、私の感じたことをまとめてみます。

第一ブロックは小川西町と栄町。
西武拝島線小川駅の周辺で、障がいのある方を対象とした施設が多い地域です。障がいのある方、車椅子で移動されている方が日常的に集まります。もともとは畑が多く、そこに住宅が多く建った新興住宅地で、自治会はあまり組織されていません。

小平市たいよう福祉センターを会場に会議が開かれ、この12月で60回を越えました。2021年からは、地域の良いところを紹介する「地域ごころ通信」を発行しています。

ちいきごころ


第二ブロックは、中島町上水新町1丁目と、小川1丁目の500番前後まで。立川市と東大和市と隣接している地域で、小平市外の駅を利用し、買い物をする方が多い印象です。また、古くからの商店街もあります。

ここでは、介護老人保健施設「けやきの郷」を中心に集まりを持っています。また、現在は中断していますが、「中島地域センター」を会場にコミュニティサロンもはじまりました。
第三ブロックは、上水新町2丁目と小川町1丁目の1000番前後まで。白梅学園大学もこのエリアにあり、武蔵野美術大学、朝鮮大学校、創価高校、小平五中など学校の多い文教地区です。コミュニティサロン「きよか」が6年間続いてきましたが、家主の都合で引き上げることになり、現在次の会場を探しています。大学を会場としたコミュニティカフェなども開催しています。
第四ブロックは、西武国分寺線鷹の台駅周辺で、マンションやアパートが多い地域です。上水新町3丁目、たかの台、小川1丁目の1000番台、更には津田町1丁目、上水本町1丁目。ここでは、先駆的にコミュニティサロン「さつき」をはじめ、これが小平市のモデルとなって市内に広がって行きました。サロンへの集まりを通して人のつながりが広がってきました。ただ、この「さつき」も家主の都合で会場を返却しなければならなくなり、現在そのかわりの場所を探しています。

西ネットとして取組んでいることがもう一つあります。

中学生を対象とした勉強会「分かった会」です。2013年にはじまり、中学3年生が希望の高校に入学できるように学習支援してきました。小川公民館をお借りして毎週夜、勉強会を行っています。ボランティアの講師が、10人以上関わっています。

わかったかい


この10年で、大学と地域とのつながりが深まりました。地域に何があるのか詳しく分からなかった状態から、西ネット内にはどこに何があり、どのような人々が住んでいるのか、が少しずつ見えるようになりました。行政との接点も多くなりました。

今後は、定期的に集まれる場をもっと作っていくことが必要です。第1ブロックでは、「小川西町のいいとこさがし」という取り組みもしました。情報を出し合ってみると「いいとこ」が「集まりどころ」(=居場所)になっていく可能性もあるように思いました。第1ブロック内では、地域包括支援センターやたいよう福祉センターなどの施設、公民館のホールなども「集まりどころ」になりそう、ということが分かりました。

また、つながりには▼日常的な生活上の「地域つながり」▼同じ興味や関心、趣味などを通じた「課題つながり」があります。かつての自治会は、こうした二つの側面をくみながらつながりを作ってきました。

一方で、自治会が行政の下請け機関になってしまうと、お金集めと資料配付だけのつながりになってしまい、役員のなり手もいなくなってしまいます。小平市では、100メートル四方に平均約100人が住んでいます。すべての人が同じ興味や関心を持っているわけではないので、さまざまな「課題つながり」が必要と考えています。( ↓30年以上前の、大学周辺地図 )

32年前の白梅 - コピー

西ネット内の「居場所」はまだまだ少ないです。また、現役世代は忙しく、地域に目を向ける余裕を持ちにくいのが現状です。人々が横につながってこそ、地域としてのつながりが出てくるのだと思います。

地域を組織するときは「上からではなく下からのほうが、分かりやすい」。10年を経て、強く感じていることです。私は、もともと、英語教育の教員です。担当ゼミのテーマは「非暴力」で、「西ネット」実践の場ではありませんでした。ゼミの学生を巻き込み、地域に入り込むことはできなかったのは、少し心残りです。

最後に。私は2018年に病気で亡くなった妻・眞央(白梅学園大学近くの、朝鮮大学校の非常勤教員でした)や同僚と共に、公立小の自由選択制がもたらす弊害を調査するなど、「子育てと地域」を研究してきました。

そのことについては、次回お伝えしたいと思います。

白梅1

【語り手】瀧口優。高校教員を経て、白梅学園大学教授(英語教育)。今年3月に大学教授を定年退職しますが、西ネットには関わり続けます。
1993年から、ベトナムへの支援を妻とはじめました。ベトナム人の英語の先生と知り合ったのがきっかけです。当初は、保育園で使うおもちゃを送っていました。2010年以降は、障がい者の支援を行っています。




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