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【小説】冬の朝顔

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記事一覧

【連載小説】冬の朝顔(最終回)

【連載小説】冬の朝顔(最終回)

『強化選手ノミネート、おめでとう』

『ありがと』

『もう、高校にライバル無しだな』

『そうね。とい言いたいところだけど…』

『まだ、松沢を?』

『まあね』

『彼女はもう走ってないよ』

『聞いたわ』

『聞いた?』

『学校裏サイトのことよ』

『あぁ、あれか。酷い奴らがいるもんだな』

『彼女が走るのをやめた理由があんな理由だったなんて、許せない』

『でも、

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【連載小説】冬の朝顔⑫

【連載小説】冬の朝顔⑫

龍一は以前に結花から聞いていた学校裏サイトの投稿を詳細に調べ直した。

結花が陸上をやめてから結花に対する記事は激減していたが、再び増え始めていた。

時期は、体育祭の部活対抗リレーで結花が全校生徒の注目を集めてからだ。

『Iちゃん』と名乗る人物がおそらく吉村愛子だろう。

中学時代に結花を中傷してきた中心的人物だ。

中学時代まで遡って追跡し、龍一は記事やコメントを投稿している人物の

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【連載小説】冬の朝顔⑪

【連載小説】冬の朝顔⑪

優子たち吹奏楽部は県大会を通過し、東関東大会へと駒を進めた。

東関東大会で勝つより県大会で勝つ方が難しいと言われるほど、千葉県は強豪がひしめいていた。

油断は出来ないにしても、優子にとっては実に3年ぶりの全国が目の前に来ていた。

優子はあの日、龍一のトランペットが壊れてしまった日からも、時々地下のスタジオに顔を出してみたが、龍一の姿を見ることはなかった。

龍一、本当にやめてしまった

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【連載小説】冬の朝顔⑩

【連載小説】冬の朝顔⑩

家の中に入ると、早速母親から呼ばれた。

「結花、そこに座りなさい」

やっぱり……

しっかり見られてしまったんだから、逃げも隠れも出来ない。

結花は俎上の鯉のように、おとなしくリビングのテーブルについた。

母親は結花をチラリとみると、

「あんな場所で……」

とため息をついた。

きた……

結花は母親の顔を見ることが出来なかった。

「まだ高校生になったばかりの娘が

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【連載小説】冬の朝顔⑨

【連載小説】冬の朝顔⑨

夏休み前に、大編成のメンバーが発表された。

優子はメンバーに選ばれたが、昴と和泉は選ばれなかった。

和泉は小編成のアンサンブルのメンバーになったが、高校野球が終わるまでは、そちらの応援組にまわされた。

練習場所は別々になった。

優子とはあまり顔を合わせたくなかったから、むしろその方が良かったのかもしれない。

和泉は宗司の命日の一日前に宗司に会いにやってきた。

命日に来て、優

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【連載小説】冬の朝顔⑧

【連載小説】冬の朝顔⑧

結花の頭の傷は、結局3針縫う大きな傷だった。

幸い、ぱっくりと傷口が開いて出血は多かったが、頭に大きな衝撃は受けていなかった。

念のため、一晩入院することになった。

心配はないだろうという医師の言葉を聞いて、結花の母親は安心したのか、久しぶりに再会した龍一の方に興味を示した。

「あのお隣の龍一君? まぁ、いい男になっちゃって♪」

久しぶりと言われても龍一には記憶がないし、ただペ

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【連載小説】冬の朝顔⑦

【連載小説】冬の朝顔⑦

軽音楽部に戻った結花は、ギターの練習を再開した。

龍一たち、他のメンバーはそれなりに個人練習を進めていて、時々音合わせもやっていた。

結花はボーカル担当と言われたこともあって、普段から持ち歩いているiPodで歌だけはしっかり聴いていた。

こっそり一人カラオケに行って、試しに歌ってみたりもした。

歌ってみると結構、世界にのめり込める。

でも、みんなの演奏で本当にCDで聞いたような

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【連載小説】冬の朝顔⑥

【連載小説】冬の朝顔⑥

ばたばたした4月はあっという間に去り、新緑眩しい5月になった。

そして、待ちに待った(誰も待っていない)体育祭のメインイベントの一つ、部活対抗リレーの時がやってきた。

軽音楽部はいつもあまり成績が良くないことから、今年も比較的スタートは早い方だった。

「吹奏楽部って体育系じゃないよね?」

スタートが遅い吹奏楽部に春香が首を傾げた。

「あぁ、あそこはね、部員が200名超えてるから

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【連載小説】冬の朝顔⑤

【連載小説】冬の朝顔⑤

「結局メンバーが足りないんだよね」

軽音の部室で部長の葉山大輔がボソッと呟く。

結花は聞こえないふりをして、副部長の片桐葉月から借りたギターのフレットを押さえる練習をしていた。

「君たちなんかやりたい曲ってある?」

大輔が今度ははっきりと分かるように結花に問いかけた。

結花は、やりたい曲がないわけではなかったが、演奏するとなると事情が異なる。

ましてや自分は全く楽器の出来な

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【連載小説】冬の朝顔④

【連載小説】冬の朝顔④

入学式が始まるまでに、龍一は先生に頼んで彼女のお墓に連れて行ってもらった。

『先生、俺、一人で話したいことあるから、暫く離れていてくれませんか?』

『いいわよ』

先生は少し離れた場所に移った。


『ねえ、俺、君の事

 ずっと、ずっと 好きだった

 たぶん、初めて声をかけられたあの日から

 好きだったんだ


 『キモいんだよ。死ね、ばーか』

 そんな一言でもい

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【連載小説】冬の朝顔③

【連載小説】冬の朝顔③

優子に連れられて、というよりは泣き崩れた優子をエスコートするように、龍一は吹奏楽部の部室へとやってきた。

部室に着く頃には優子も普通の表情に戻っていた。

2人が部室に顔を出すと一番真っ先に二人の姿に気付いたのは、トランペットを吹いていた男子生徒だった。

「おぉっ! やっと来たか。やったね優子ちゃん」

男子生徒は嬉しそうに二人に近づいてきた。

「はい。先輩。頑張りました!」

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【連載小説】冬の朝顔②

【連載小説】冬の朝顔②

翌日の放課後、結花と昴が軽音の部室に顔を出すと、龍一が入部届を書いているところだった。

よく見ると、龍一のそばにはギターケースが置いてある。

龍一は部長に入部届を渡すと、

「こんなので大丈夫ですか?」

と、ギターケースからエレキギターを取り出した。

「おっ、準備がいいね。経験者?」

「はい。中学の時から、少しやってました」

「なんだなんだ、それなら話が早いぞ」

「見

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【連載小説】冬の朝顔①

【連載小説】冬の朝顔①

「あっち言って!」

幼い自分が幼い男の子を両手で突き飛ばす。

ドテッ

「うわーーん」

突き飛ばされて勢いよく地面にひっくり返った男の子が泣き出す。

すると決まってお母さんがやってきて、
「また喧嘩しちゃったの? 駄目じゃないの結花ちゃん、仲良くしなくちゃ!」と叱られる場面で目が覚める。


まただ...

中学に上がった頃から時々見るようになった夢。
時々と言っても1

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