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私にとっての「生きるための抗体」は。 【KingGnuツアー『CEREMONY』ファイナル@幕張メッセ ライブレポート】

2020年12月6日、様々な制約のなかでリスクと闘いながら回ってきたKingGnuツアー『CEREMONY』のファイナルが幕張メッセで開催された。同時生配信されたこの公演、いったい何万人が同時刻に画面の前にいただろう。

アルバム『CEREMONY』に収録された重厚なインストゥルメンタル『開会式』で幕が上がる。期待に胸を膨らませるどころかすでに胸が躍りだしそうな私は、手をギュッと握り締めてゴクリと唾を呑む。ステージ上には次々と炎が灯り、常田大希の「マクハリー!」のシャウトを合図に体内に充満した高揚感が一気に弾け飛ぶ。一曲目は疾走感のあるロックチューン『どろん』だ。

ついに来た。チケット抽選は9連敗した私だけど、このご時世のなか数少ない定着して良かったことの一つが配信ライブ、今日はその恩恵に与るのだ。待っていたよ。大好きな4人が鳴らす音を浴びる日を。4人の「今」を目撃する日を。

『Sorrows』から『Vinyl』へと駆け抜ける。まだ『白日』と『The hole』しか知らなかった頃、彼らのおしゃれさとカッコよさを知るきっかけになったのが『Vinyl』のMVだった。そういえばあのMVでも井口さんは革ジャンと柄シャツを着ていたな。よく似合う。(でも私は意外と、スウェット着てる井口さんが好きよ)私がそのMVを観たのはたった10か月前のことなのに、もう何年も前のことのよう。

『Vinyl』で、ライブではいつも少しずつアレンジの違う常田さんのギターソロが今日もギュインギュイン唸っているので開始10分ですでに切なくなってしまう。どうすんだ。2時間もたないぞ。そんなことを思いながら、それがヌーの音楽の最高たる所以じゃないか、ともう一人の自分が答える。重量級。苦しいくらいに眩しくて泥臭い。

続く『It’s a small world』で彼らはまた違う顔を見せてくれる。体が自然と横に揺れてしまうチルで浮遊感のある曲、それは曲中、井口さんが毎回のように「踊ろう~」とオーディエンスに呼びかけることからもわかる。ゆらゆら揺れながら頬が緩んでしまう大好きな曲だ。

常田さんは演奏中たまに、メンバーや客席を見回しながらふと微笑むようなことがある。自分が作り出してきた音楽、ついてきてくれた仲間、群れになったファン、すべてを愛おしく思っているような、そんな優しいお顔になる。そんなあなたが私たちもとても愛おしいです。くすん。
かけがえのない仲間たちと生み出した音、ステージ、空間。それらを慈しむような表情の常田さんを見ていると、画面越しに共有しているこちらまで、まるで常田さんに包まれているような気すらしてくる。多幸感がすごい。

そしてライブは、彼らをスターダムに押し上げた代表曲『白日』へ。

言っておくけど私は音楽に疎い。楽器のこともアーティストのことも音楽好きにとっては所謂「常識」であるような知識も。知らないことだらけの私が言うのだからきっといろんな人にわかってもらえるような気がしている。
そんなみなさん、『白日』はバラードだと思っていませんでしたか?私は当初そうだと思っていました。でも、メンバーは「バラードじゃない」って言っていて。(常田さんは「でもバラードじゃないと売れないから」と皮肉めいたことも口にしてる。詳しくはリンク先のインタビューに)
そうなのか、と、そういう目線で聴いていると、なるほど確かにこんなに体の動くバラードもないよな、と思ってくる。歌詞とか曲の展開はめちゃくちゃエモいけど、体はノリノリだったりする。

今回のライブの『白日』で、それがハッキリわかった。サビ前のところ「フォウ!」とか言うんですよ。そんなバラードってないでしょう。そういう体の動く音楽、これはどうやら「ファンク」というジャンルらしいです。上記のインタビューで新井さんと勢喜さん、二人のリズム隊が言ってました。「白日はめちゃめちゃゴキゲンなファンク」と。ふむふむ。勉強になります。

そして次は「命揺らせ」でお馴染み『飛行艇』。みんな、命、揺らしましたか。「いや命揺らしてるのこの場の誰よりも君ら4人じゃん」問題ね。間違いない。でもだからこそ、そんな4人を見て私たちは心が震えて「俺も揺らさねば」と思うんだよね。え、そうだよね?あんだけの熱量ぶつけられたら熱波にやられない人の方がどうかしてる。心の柔らかい部分を掴んで「ちゃんと生きてんのかよ」「もっと生きろよ」って言われてるような気がしてくる。

モクモクと盛大に焚かれたスモークと照明で4人の姿が見え隠れする。内側にたぎる何かを放出させるように熱っぽく歌う常田さんの鼻筋とくちびるのシルエットが浮かぶ。シルエットだけ。…ねぇちょっと。この構図考えたの誰?カメラマン?…いやエロすぎるだろ。か、かかか、隠す方がエロいんだからね!!見えない方が!妄想の余地があるわけだから!!え、えエ、…エロいんだからね…!?(ゼエハア

(ブレイクタイム)

ふう…。ごめんなさいね…よくある発作だから。戻りますね。

勢喜さんの冴えわたるドラムソロから始まる軽快なナンバー『Overflow』に続くのは『Slumberland』。露わになる常田大希の首謀者感。黒幕感。すべてはこの男の手の中に。でもそれでいいんだと、もっともっと手の中にいたいと思わせてしまう彼の吸引力に無条件降伏。それでいて意図せずか否か、「みんな自由に踊ってな」と、ふと漏れ出る彼の優しい一面。音楽の神様の前には、みんな等しく楽しむ権利がある。わかるだとかわからないだとか、まあどうでもいいから踊れよ。そう言われている気がして、彼の持つ愛の深さ(それは音楽への愛であり人間への愛?)を想ってまた無条件降伏。

今回配信視聴者の話題をかっさらったのが、終了後にトレンドにもなった『Vivid Red』だ。未発表ながらライブでは定番曲だったようで、ファンの間では有名な曲らしい。それが今回の配信ライブで演奏されたことで、ライブに足を運べていなかったファンにも浸透し、一気に音源化を希望する声が高まったんじゃないだろうか(私もその一人だ)。

この曲がまた。もうヌーには何度思わされてるかわからないけど、そんな引き出しもあったんですか、っていう驚きで。常田さんの弾くジャズっぽいピアノってなんだか新鮮でイントロの時点でハッとしてたのに、歌が始まったと思ったらこれがなんとラップ調。ピアノ弾きながらラップ歌う人って他にいるんですかね?あまり聞いたことがない。そして井口さんのボーカルが入ってきたらまた印象が変わる。メロディアスなサビに色気と哀愁が漂う。いやどんだけ。どんだけニューミクスチャースタイルしてん。新井さんがインタビューで常田さんのことを「何かと何かを掛け合わせるコラージュ能力が天才的」と言っていたのを思い出す。

『Hitman』『The hole』と続き、バラード王・井口理がその存在感を見せつける。祈るような気持ちで耳を傾ける私たちにそっと寄り添ってくれる美声。ファンにはお馴染み常田さんの猫背ピアノは健在で、音色は優しく、すべてを許してくれるような懐の深さがある。

そして今回、不純と言われようがなんだろうが言及せざるを得ないのは、ベース新井和輝の溢れんばかりの色気である。下からのアングルで捉えられた切なげな表情、気持ち良さそうに頭を振ってリズムを刻みながら弾くベース、乱れた前髪、眼を閉じて歌うコーラス。ああ、もう誤魔化せない。今日からあなたもセクシー新井推し。

…ゼエ、ハア(ブレイクタイム(二度目))

ゆるっゆるのさとるん(井口さん)のMCで癒しをもらったあとは、締めるところは締めるリーダー常しゃん(常田さん)の真摯な挨拶にジンとされられ、最後はせきゆー(勢喜さん)の末っ子感に爆笑する、MCはそんな楽しいひとときでした。
ひとつだけ残念だったのは、幕張のときは新井先生(新井さん(いやそれはわかるわ)のMCがほとんどなかったこと。他会場、特に武道館ではとっても貴重なお話をしてくれていたみたいなので、居合わせた方々、羨ましいことこの上ないよ。

『ユーモア』『傘』と『CEREMONY』収録曲が続き、はい来ました。今回のライブで頭バチコンやられた曲のひとつ『Tokyo Rendez-vous』。定番も定番の曲だけど、今回はちょっと様子が違った。
曲の後半、いつもなら常田さんが「シンギンッ」とオーディエンスを煽り大合唱になるところ。でも今回はもちろん観客は声を出せないから、きっと演奏しているメンバーも会場にいたお客さんも、もどかしさを感じていたんじゃないだろうか。そんなことを思いながらも常田さんのギターソロに夢中になっていると新井さんも前へ出てきた。そこからの二人の向かい合っての弾き合い。これがたまらなく熱くて最強だった。ギュインギュイン狂暴に吠えるギターに、ベンベンベンベン腹に沈む激渋ベースが受けて立つ。なんだよ。音楽のタイマンかよ。燃えてんじゃんよ。照明が赤いからだよ。知ってるよ。ピッタリだよ。ありがとう照明さん。こんなご時世のライブだったからこそ起こった、とっても貴重な瞬間だったのかもしれない。

『破裂』の曲終わりからそのまま繋がる『PlayerX』に感情がぶわっと溢れ出る。『ロウラヴ』で「あと2曲!」という井口さんの声に一抹の寂しさを感じながらも頭を揺らしてこの瞬間を存分に堪能する。

ラストはドラムソロのイントロに爆アゲされて突入する『Flash!!!』。井口さんに「飛べーーッッ!!」と煽られ、私は真夜中のリビングで盛大にジャンプする(嘘だけど。イマジネーションは大事だから)。
「くだらねぇぜ真実なんて」「一瞬でいい今だけでいい」と苦しそうに歌う彼らを見て、こんなにも強くて揺るぎないのに同時にあまりに刹那的で、爆音のなかで涙が滲む。

一旦退場、そして手拍子がアンコールを促す。
ライブ開始を知らせた『開会式』と対になるインストゥルメンタル『閉会式』が流れ4人が再登場、アンコール一曲目は井口さんの透き通る高音で始まる『三文小説』だ。
切なくて苦しげなのに力強くてどこまでも前を向くような勢喜さんのドラム、作中の物書きの男が乗り移ってんじゃないかっていう繊細な文豪ピアノっぷりの常田さんが印象的で、シンセベースを弾く新井さんの色気に参りながら大ラスの井口さんの超絶美声で完全に召された。

アンコール二曲目は打って変わっての爆アゲチューン『Teenager Foever』。青春の青臭さ、ほとばしる情熱。このライブも彼らの青春の数ある1ページに過ぎないんだと飛び散る汗を見て思い、でも確かに1ページではあるんだと、この目で観られたことを嬉しく思う。楽しんでたはずなのにまたも泣けてきてしまう。(ちなみに新井さんが前に出てきてにこやかに遠くを見渡すポーズしたとき可愛すぎてまたカジュアルに昇天した。)

そして最後の最後、ダブルアンコールでの新曲『千両役者』。「今までにないマシンガンソング」とメンバーが言う通り、テンポは速いわ歌詞が詰め込まれてて早口だわ難しい言葉が多いわ、怒涛の鬼曲だ。オニきょく。神曲、みたいに言って。

「アァウッ!」とシャウトする常田さんを見ながら、私は『千両役者』の歌詞について考えていた。

無意味から眺める意味を
死から眺めた生の躍動
その様まるで御祭り土砂降り
此の目には絶景かな

一世一代の大舞台
有名も無名も関係ない
爽快だけを頂戴
あなたと相思相愛で居たい

好き勝手放題の商売
勝敗なんて興味はないや
青臭い野暮臭い生涯を
ただ生きるための抗体を頂戴

『Flash!!!』もそうなのだけど、「すっごく強気で頼もしいのにどこか危なっかしくて、クソ生意気なのに実のところ繊細」。そんな印象を受ける。

もしかしたら意図するしないに関わらず、自身のことをシニカルに歌っているのかもしれないな。

「ただ生きるための抗体」、それは常田さんにとって「音楽」そのものなのかもしれない。くだらねぇクソみてぇな世の中で、それでも自分の人生を他の誰でもない自分のために生きていくための「抗体」。それさえあれば、無敵になれる。

後日談だけれど、ステージからの景色をSNSにアップした常田さん、「絶景かな」と書いていた。とてつもないだろうな。自らの手で切り拓いてきた、闘いの果ての絶景。『千両役者』、本当にかっこよくて涙が出た。

どの曲でもそうなんだけど、互いに目配せをしたり時折笑みがこぼれたり、4人全員が呼応し合って音を出しているのがビリビリ伝わってきて、嬉しくて、楽しくて、尊くて、最後はただシンプルに感謝しかなくなる。

音楽の申し子集団の彼らと、音楽こじらせで生きてきた私の間は果てしなく遠い。そこへ橋が架けられた日のことを想う。きっと私と同じように架け橋を渡ってヌーの群れにジョインした人たちが大勢いる。出会えてよかった。こじらせの呪いを解いてくれてありがとう。

そして、多忙な生活のなかでの壮絶な生みの苦しみや、売れたことで周囲に溢れるようになった多くの雑音、彼らの肩にのしかかる想像を絶する大きな責任とプレッシャー。そういうものと闘いながら、それでも己の信念を抱きしめて表現、創作を続けてくれていること。困難な状況にあっても、こうして音楽を届けてくれたこと。そのすべてに感謝して、感極まってしまう。

最後の演奏が終わり、手を取り合い深く礼をする4人。その真心が画面を超えてまっすぐに飛んでくる。これがKingGnuの、4人の「今」だ。

完走おめでとう。感動をありがとう。韻踏んでるみたいになってるけどふざけてないよ。
終わらないで。夢なら醒めないで。私たちをこんなに素敵な場所に連れてきてくれて本当にありがとう。

どうか心穏やかに思うままに、これからも表現を続けてください。ずっと応援しています。幸多かれと祈っています。ありがとうKingGnu。

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子供の就寝後にリビングで書くことの多い私ですが、本当はカフェなんかに籠って美味しいコーヒーを飲みながら執筆したいのです。いただいたサポートは、そんなときのカフェ代にさせていただきます。粛々と書く…!