【小説】魔人の王子の物語

 むかしむかし、あるところに魔人の国の王子がいました。

「ねぇ、どうしてみんな、僕と遊んでくれないの?」

 王子は物心ついたときから、いつもひとりでした。
 遊ぶときもごはんを食べるときもひとりです。

 みんなお城のこと、他の国のことで忙しく、王子にかまっているヒマはないのでした。
「ねぇ、僕といっしょに遊ぼうよ。」
 王子はお城で働いている人たちに声をかけましたが、王子と会話するなど畏れ多いので、すぐに逃げられてしまいます。

 そんなある日、王子は自分が透明になれることに気がつきました。
 こわいメイドさんが、廊下の向こう側からやって来ていた、そのときのことです。
「危ない、かくれなきゃ。」
 王子は慌てて彫刻の影にかくれましたが、場所が狭いので、王子のお尻は丸見えでした。
「怖いよぉ。」
 王子がぶるぶると震えていると、なんということでしょう、王子のお尻がみるみるうちに透明になっていくではありませんか。

「そうだ!! この能力で、お城の外に出て、みんなにいたずらしちゃおう。」
 王子は透明になると、コックさんたちのための通路から、外に飛び出してしまいました。

 透明になる能力を使い、王子は町のあちらこちらで悪さをしました。
「おい!! 野菜がなくなったぞ!!」
「お菓子を盗んだのは誰だ!!」
 町の人たちはもうかんかんです。王子は、自分のことをみんなが話しているのが嬉しくなり、るんるんと踊りながら町を飛び出しました。

 町をでると、王子と同じくらいの年の子どもたちが広場で遊んでいました。
 広場のベンチにはいろんなおもちゃが置かれています。
 水鉄砲に木の実の人形、パチンコ。王子の見たことがないおもちゃばかりです。「そうだ!! この子たちにもいたずらしちゃおう。」
 王子は水鉄砲を手に取り、そのまま逃げてしまいました。

「おい、水鉄砲がなくなってるぞ。」
 水鉄砲がなくなったことに気づいた子どもたちが、なにやら騒いでいるようです。
「あ! こんなところに足跡がある!!」
「盗んだやつは絶対に許さないからな!!」
 子どもたちは、王子を追いかけ始めました。

 王子は、行く先々で、いろんなおもちゃや、お菓子をとっていってしまいました。
 町の子ども達は、王子を追いかけました。もうかんかんです。
 やがて王子の噂は、街でも有名なガキ大将の耳に入りました。
「なんだって!! 許さん。絶対にこらしめてやる!!」

 王子はやがて、町はずれの高原へとやってきました。背の高い草花が風でゆれています。
 そこに子どもたちがやってきました。
「おい!! 早く返せよ!!」
「みんながあなたのせいで困ってるの。」
「こわい!!」
 王子は慌てて逃げました。

 逃げた先では、橋がありました。橋の下では静かに大きな川が流れていました
 王子は橋を渡り、もっと遠くへ行こうとします。
 そのとき、街で有名なガキ大将が、王子に追いつきました。
「おまえ、許さん!!」
 ガキ大将はそう言って、王子の足に向かって、パチンコを打ち込みました。
「あぁっ」
 王子がよろめきます。
 しかし、なんということでしょう。運の悪いことに、よろめいた王子は、そのまま橋の下の川へと落ちていったのです。
「えぇっ」
 これにはガキ大将もびっくりです。
 川に流されながら、王子は必死にもがいていました。
 しかし、その動きにどんどん元気がなくなっていきます。
「僕を……ひとりぼっちにしないで……」
 王子の姿はどんどん透明になっていき、最後には、その姿が消えてしまいました。
 王子のもがいた川は、まるで何事もなかったのように静かに流れるのでした。

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