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「合食」文化について考えること: 中華料理を人数分で分けるべきか

「食べ方という面で考えたら、中華料理は日本料理や西洋料理とはどう違うか」と聞かれたら、どう答えるでしょうか。色々なイメージが浮かんでくると思いますが、その中の一つは「どのようなお皿に分けるか」ということではないでしょうか。日本料理や西洋料理の場合、基本的に、料理を人数分に分けて、自分の分の料理だけ自分の目の前に置かれるという分け方です。例えば、一人に一皿のステーキ。中華料理の場合、基本的に、一つの大きめのお皿に全員分の料理が載せられています。その料理を食べたい人は、大きめのお皿にある食べ物を自分の箸で取って食べるという食べ方です。既存の名詞がないので、さしあたって中国の食べ方を「合食」と呼び、日本料理や西洋料理の食べ方を「分食」と呼びましょう。

最近、新型コロナウイルス感染症が流行したことをきっかけに、中国で伝染病を防ぐための手段が議論されています。その中で、一つ注目を浴びているのは、まさにその「合食」です。先日、NetEase Newsでその食べ方を変えるべきだと訴える論文を読みました。今回は、その記事を参考にしながら、私の考え方を述べたいと思います。

お断りしておきますが、今回の中華料理は主に中国にある中華料理のことを指しています。日本やアメリカの中華料理はここでは除外しています。


「合食」の現状

初めに、中国における合食の現状を抑えていきましょう。まず、自宅で食べる場合。中国人にとっての家族団欒は、家族皆で円卓を囲んで、そこにある出来上がった熱々の料理を自分のお箸で取ったり、楽しく話したりするというイメージだと思います。お母さんは時々、子供により多くの健康に良い野菜を食べさせるために、自分のお箸で野菜を取って、子供の皿に置いたりします。家族の場合、基本的に、取り箸は使いません。

友人や仕事仲間と会食する際にも、基本的に同じスタイルです。レストランによって、取り箸が用意されているところもありますが、用意されていても実際に使われていないケースもよく見かけます。というより、「親しい関係だから、大丈夫だよ」を言い、取り箸を無視し、直箸(じかばし)で食べるケースの方が多い気がします。まさに、「取り箸の使用」イコール「お互いの関係には距離がある」という考えを多くの中国人が持っているらしいです。

上記の感情的な理由以外に、中国人が合食することに実用的な理由もあります。多くの中華料理は熱々の状態で食べるのが醍醐味です。小さな皿で分けると、どうしてもその楽しさが減ります。それに加え、ビジュアル面の理由もあります。例えば、中華料理でよく出る「松鼠桂魚」(桂魚のリス形丸揚げ甘酢あんかけ)という料理は、桂魚を丸ごと大きなお皿に載せて、食べる人に魚の生きていた時の形を見せるのが非常に大事なポイントです。実は、中華料理の中、目の前に自分の分のご飯やお肉などが置かれ、自分の分だけを食べるという「分食」スタイルは、どうしても「食堂での安い食事」のようなイメージがあります。宴会や接待などでは、タブーです。


一緒に食べる、一緒に病気になる

感情的な理由と実用的な理由で、中華料理は基本、事前に分けることなく、一つの大きなお皿から皆自分の分を取るというスタイル、いわゆる「合食」を採用しています。おまけに、取り箸を使わずに、直箸のみを使う場合が多いです。ところが、その食べ方には大きな健康リスクが潜んでいます。

容易に想像できるように、自分のお箸で料理を取る際に、お箸の先がつい自分が取った食べ物以外の食べ物に接する可能性が十分あります。特に中華料理の場合、多くの料理には液体の出汁があります。お箸の先がその出汁に接すると、自分の唾液がすぐに料理全体に運ばれるようになります。ある意味、一つの料理を共有する全員、他の人の唾液の一部が自分の口に入ってしまうことは間違いと思います。

唾液にはもちろん色々な細菌やウイルスや蠕虫が生息(せいそく)しています。それらの顕微鏡でしか見えない生き物は食べ物を経由して、口を経て、円卓で座る全員の体に入ります。あるWHOの統計によれば、胃病と肝臓病が伝染する手段の中で、唾液は最も重要な一つだそうです。例えば、ヘリコバクター・ピロリという慢性胃炎や胃潰瘍、そして胃癌の発生にも繋がる細菌は主に唾液や食べ物で伝染すると言われています。ヘリコバクター・ピロリを持つ人は、他の人と合食する際に、知らない内に自分の病気を他の人に渡す可能性が十分あります。

合食の原因で、中国人の胃病と肝炎を患う比率が世界トップレベルだと言われています。例えば、1988年に上海でA型肝炎が大流行し、31万人の感染者、30人以上死者が出て、一時期社会的な恐怖が起きました。合食はまさにその病気の感染を加速させました。

衛生の面で考えたら、日本料理や洋食のように、最初の段階で食べ物を分けて、一人の前にその人の分を置いた方が良いでしょう。そうすると、皆が自分の目の前のものにしかお箸で触らなくなり、唾液による感染を大幅に減少させられるはずです。それができなくても、少なくても取り箸を使うべきでしょう。


合食は本当に「伝統」なのか

現代の中華料理において、食材の選択も、料理の作り方も、盛り付けの仕方も、全部合食を前提にしているように見えます。しかし、歴史を見ると、実は中華料理はもともと分食で、合食の方が後に流行したらしいです。多くの研究によれば、合食は宋王朝(960年-1279年)の時代に中国で広がったそうです。その前は、中国も基本、分食でした。

あくまでも私の想像ですが、古代の中国人が分食した理由は、感染症を防ぐためではなく、他のところにあったと思います。その一つは、「礼」だと思われます。周王朝(紀元前1046年頃-紀元前256年)が代表する古代の中国には、極めて厳密な地位に関するルールがあり、どの地位の人がどのような食べ物を食べるか、どの地位の人がどのような食器を使うかなどは厳しく決められていました。そのため、同じテーブルで同じ食べ物に皆でお箸を出すのは想像しにくいのではないでしょうか。

しかし、時間の経過につれ、中華料理はより複雑に、より華やかに、よりサイズが大きくなりました。それに加え、火鍋のような料理も出現したりし、徐々に分食から合食へ変化してしまいました。


合食は本当に便利か

合食を支持する人がよく主張するポイントの一つは「合食の方が便利だ。皆自分の好きな料理を好きな分だけ取れる」ということです。しかし、果たしてそうでしょうか。実際、特に多人数の場合、一つの料理が円卓に置かれた後に、暗黙のルールとして、一番目上の人が食べないと皆その料理に手を出せません。下手したら、自分の順番が来るときに料理が既になくなる可能性も十分にあります。

合食のもう一つのデメリットは、摂取した食べ物の量を測るのが難しいということです。分食の場合、自分が食べるものが全部自分の前に並んでいるので、自分が何を自分の体に入れたかは一目瞭然です。合食の場合、そういったことができないので、健康管理がしにくくなります。恥ずかしながら、僕は子供の時、円卓で会食する際に、基本、二人か三人分の甘い物や揚げ物などを毎回取りました。もちろん、親が気づかないうちに。その代わりに、人参や大根のような苦味がある物にできるだけ手を出さないようにしました。大人になってから、健康意識が強まり、自分が何を食べたかについて、把握したくなりました。しかし、合食の場合、自分が取ったものを一個ずつ数えたりする必要があります。それはさすがにやりづらいです。


合食から分食に切り替わる時の難点

今まで、合食と比べ、分食のメリットをいくつか挙げてきました。しかし、分食に切り替えることは難しいと想定しています。上記でも言及しましたが、まず中国人には感情的に「同じお皿から食物を食べる方が親しい」という考え方が根付いています。もう一つの課題は食後に洗わなければならないお皿の数です。一汁三菜にご飯を加えたら、一人の食事には少なくとも5つのお皿が使われます。三人の家族が一緒に食べると、食後に十五個のお皿を洗う必要があります。確かに大変ですね。

取り箸を使うという方法もありますが、それも便利とは言えません。直箸の場合、自分のお箸で簡単に欲しい物を取れるのに、取り箸を使うと、自分のお箸をまずテーブルに置いて、取り箸を手に取って使って、そして取り箸を置いて、最後にまた自分のお箸を使って食べるという面倒なプロセスを踏まなくてはならなくなります。

そういった色々な理由で、合食は今でも中国での主流の食べ方です。実は2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の時に、分食を唱える声が高まりました。中国のあるレストラン連盟も、「必ず取り箸を使用する」とのガイダンスを出したらしいです。しかし、SARSが収束するにつれ、その提案もうやむやに終わりました。


日本の中華料理に学ぶべき

食事の衛生において、日本が中国より優れていることは認めざるを得ないでしょう。日本料理は中華料理と違いすぎるので、あまり比較できませんが、日本にある中華料理はとても参考になると思います。ご存知の通り、日本の中華料理の場合、基本、取り箸は必ず用意されています。少し高級な店の場合、店側が料理を人数分で分けてくれることもよくあります。ちなみに、前行った日本にある中華料理の店で、上記の桂魚のリス形丸揚げ甘酢あんかけを注文したとき、少し時間が経ったあと、店のスタッフが出来上がった一匹の魚を我々に見せて、「綺麗な形でしょう。シェフの腕がすごいでしょう。写真を撮りますか」とアピールした後に、人数分に分けてくれました。なんと、ビジュアル面と衛生面、両方とも満たしてくれました。

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