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中国が持つ3つの特殊な技術を生み出すケイパビリティケイパビリティ

皆さん、こんにちは!「古今中国」のCoconです。

昨年の世界経済を最も騒がせたことの一つは、恐らくアメリカと中国の貿易戦争でしょう。両国がお互いに対して追加関税を実施した結果、両国の輸入、輸出業者はもちろん、他の国の人々も「世界経済はこれから衰退するのではないか」と危惧しました。幸いなことに、今年1月15日に、両国は貿易問題の「第1段階合意」という文書に署名しました。具体的な効果はまだ見えていないですが、それによって一旦世界を安堵させました。

その貿易戦争をきっかけに、多くの専門家は中国が持つ「核心的な技術」の長所と短所について、真剣に議論し始めました。なぜかというと、核心的な技術を持てば持つほど、交渉で強気になれるからです。そういった議論の大半は、「リストアップ型の比較」に止まっています。中国が5Gにおいてアメリカより強い、アメリカがAIにおいて中国より強い、というような表面的な比較です。

ところが、1月の英国の有名週刊誌「Economist」誌の特集では、そのトピックについてより根本的な議論をしました。中国が持っている技術を列挙するのではなく、中国がそういった技術を生み出すケイパビリティに注目しました。つまり、結果よりプロセスに焦点を置きました。

「Economist」誌の特集で、「他の国と比べたら、中国には3つの特殊な技術を生み出すケイパビリティケイパビリティがある」と主張しました。これからは私のコメントを混ぜながらこの三つ紹介します。

まず、一番目に挙げられたのは、先端技術が大規模化する速度です。言い換えますと、一つの新しい技術が広く使われるようになるまでの期間です。

「Economist」誌はこう指摘しました「多くの技術が最初、海外で開発されましたが、一旦中国に伝わったら、とんでもないスピードで広くに実用されます」と高速鉄道や原子力発電所の例を取り上げました。

まず、高速鉄道の例を見てみましょう。日本の新幹線は第一回東京オリンピックの1964年に開業しましたが、中国はそれより大分遅れて、1990年代にようやく高速鉄道を敷くことが決まりました。当初、自国の技術を使ってリニアモーターカーを作ろうとしましたが、すぐに頓挫しました。それで海外の列車を購入し、海外の技術を学びながら自国の技術も磨いていくという方針に切り替えました。今や、中国の高速鉄道の長さは世界でダントツナンバーワンになっています。実は、世界の高速鉄道の3分の2は中国にあります。それに、中国で走る高速鉄道の車両の中、25%は国産らしいです。

中国の原子力発電所も似たような方式で発展してきました。中国最初の原子力発電所は1996年にフランスの会社が立ち上げたものです。それをきっかけに、外国と提携しながら自国の技術力を蓄えてきました。今や原子力発電所による発電力量で見ると、中国は世界3位になっています。

この二つの例を見て、中国が新しい技術を広く早く導入する現象が分かるでしょう。その現象を起こす見えざる手は何かというと、中国政府の支援だそうです。政府は、一つのプロジェクトが国家発展に戦略的な重要性があると判断したら、努力を惜しまずに全力でそのプロジェクトを支援します。具体的に、大量な資金を投入したり、政策緩和を実施したり、土地も含め様々なリソースを調達したりします。土地調達の場合、時々元々住む人を強制的に移住させるなどして、社会問題に発展する時もありました。上記のフランスやアメリカのパートナー企業の観点から考えますと、政府の支援は、何より強く安心感を与えます。安心できるからこそ、研究や設備調達などのコミットメントがしやすいです。それによって、先端技術は中国で目を見張るほど早く導入され、利用されるようになります。

二番目のケイパビリティは、中国のサプライチェーンです。中国は政府の政策と地理的な要因により、世界のどこでも見られないほど効率的かつ巨大なサプライチェーンを構築してきました。特に深セン市を中心にする地域と上海を中心にする地域では、ほぼ製造できない部品がないと言われています。

アメリカの電気自動車メーカーのテスラは、19年1月に上海の郊外で新工場の建設に着手しました。年産能力15万台という大規模な工場にも関わらず、19年10月に、たった10ヶ月で、試験生産の開始にこぎ着けたというニュースがありました。

もう一つの例を取り上げましょう。一般向けドローン業界においてダントツのナンバーワンのDJIは、中国南部大都市の深セン市に本社を置いています。DJIの成功要素を分析する時に、優れた技術やデザインはもちろん、深セン市のサプライチェーンも欠かせない要素だと分かります。

具体的に説明しますと、ドローンの本体で最も使われる素材は炭素繊維(たんそせんい)です。ちょうど、深セン市は、80年代から、大量にテニスラケット、釣り竿などを生産しました。そういうものの主な部材も炭素繊維でした。そのため、深セン市には、その炭素繊維のサプライチェーンが発達しています。それに、ドローンにとって欠かせないセンサーの製造と調達においても、深セン市ほどサプライチェーンが発達しているところがないそうです。15年まで、世界のどこでも小さくて性能が高いセンサーはかなり高価なものでした。ところが、今や深セン市でセンサーは低価格で大量に生産できるようになりました。その理由は、センサーを搭載するスマホの普及によって、「世界のスマホ生産基地」と言われる深セン市はそのセンサー製造のサプライチェーンも構築してきたからです。

今まで説明してきた先端技術を生み出すケイパビリティの一つ目の「規模化する速度」と二つ目の「サプライチェーンの充実」は、他の国が頑張ればある程度手に入れると思います。ところが、これから説明する三番目のケイパビリティは、ある意味、本当に中国しかできないことです。ひとまず「中国社会の特殊性」と呼びます。

具体的にいうと、一部の技術は、中国社会にしか存在しないニーズあるいは土壌があるからこそ、発達できるということです。例えば、中国のモバイル決済が図抜けた速度で発達した理由としては、「中国ではクレジットカードが普及していなかったからだ」とよく言われています。もう一つの例は、顔認識の技術です。中国の顔認識技術の発達には、中国政府の政策面と金銭面の支援が欠かせないとされています。政府支援の動機は、一部は社会安全のため、もう一部は反政府活動に参加している人の行動を把握するためでしょう。

本題から若干離れますが、中国政府の重要性はどう強調しても強調しすぎることができません。中国には約5万社の国営企業が2千万人を雇っています。経済活動のあらゆる面でそういった企業の影響力が感じられます。多くの中国民間企業は政府から直接資金をもらわなくても、色々な政策面での恩恵を受けています。例えば、先端技術を開発する工場の建設したい企業に対して、政府が土地を取得し、企業に賃貸ししたりします。

実は、政府主導で技術革新を起こすことはよく見られます。上記の顔認識に加え、電気自動車もそれに当てはまります。中国政府は大気汚染問題の深刻さに気づき、それを解決するために電気自動車産業を支援することに取り組みました。

政府の役割に加え、三つ目のケイパビリティの「中国社会の特殊性」を話す時に触れなければならないのは、中国にいる膨大な労働人口です。「Economist」誌の中で、MBH.aiという会社が取り上げられました。どういう会社というと、簡単に言えば、AI画像分析する時に、AIが対応できないデータを人で対応するという事業をしている会社です。例えば、YouTubeに動画をアップする時に、YouTube側はその動画にエロ要素や暴力要素が入っていないか確認します。通常、この判断はYouTube側のAIがしますが、AIも判別できない時に、人に判別して貰わざるを得ません。MBH.aiは大量な作業員を雇い、そういう作業をさせます。地味に見えますが、そういう作業は巨大インターネットサービスの拡大に欠かせない一部です。「Economist」誌によれば、MBH.aiは30万人従業員を雇用しています。一人当たりの一日作業時間は6時間で、月給は3000元(5万円ぐらい)だそうです。このような安くて能力のある労働人口が中国の技術の発展を支えてきたわけです。

三点のケイパビリティの紹介は以上となりますが、「Economist」誌にはそういうポジティブな面だけではなく、中国の技術が発達する環境にある弱みも述べました。

一つ目のネガティブな点は、不十分な知的財産権の保護です。海外企業の知的財産権が中国で守れていないという話は耳にタコができるほどよく聞くので、ここで省略します。あまり海外で話題になっていないのは、中国の大企業が中国の中小企業の知的財産権を侵害するという話です。「Economist」誌によれば、中小企業が知的財産権の侵害に遭っても訴訟しないケースがよく見られています。その理由は、訴訟には膨大な時間と費用がかかる一方、勝った時にもらえる賠償金の上限が低いからです。

もう一つのネガティブな点は、上記でケイパビリティとしても紹介された諸刃の剣である「政府の支援」です。まず、否めないのは、中国政府のような巨大独裁組織が先端技術の開発と導入の効率を驚異的に向上させる可能性です。しかし、それと同時に、世論にいちいち敏感に反応しなくても良い巨大独裁組織だからこそ、一見疑わしい経済判断をする時もしばしばあります。例えば、政府がどのプロジェクトを支援するかを決める基準が、多くの場合そのプロジェクトの収益性ではなく、「政府宣伝材料になれるかどうか」ということです。結果として、有名企業には支援リソースが集まる一方、本当にイノベーティブで支援を必要とする中小企業にはなかなかリソースが降りてこないという不公平なケースもよく生じます。

今回の記事の主な参考資料として使われた「Economist」誌の特集のリンクはここです。
https://www.economist.com/printedition/2020-01-04

写真の出典:https://fortune.com/2020/01/10/tesla-first-china-made-vehicles-competition/


 

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