見出し画像

中国のインスタントラーメン市場がV字回復した理由

最近、我が家のインスタントラーメンの消費が増えています。外出を自粛しており、できるだけ自炊したいと思いますが、手間がかかるし、作る料理が思いつかない時もあります。そういう時に、インスタントラーメンはたぐいまれな食品になります。実は、健康によくないことが十分分かっているにも関わらず、時々どうしても辛くて熱々で旨み満点のインスタントラーメンを食べたくなります。

最近、NetEase Newsで中国のインスタントラーメンに関する面白い記事を読みました。近年起きているインスタントラーメンの売上増加という現象とその背景にある原因が語られていました。今回は、その記事を参考に、中国のインスタントラーメン市場について話したいと思います。

中国のインスタントラーメン市場の復活

まず、ご想像の通りかと思いますが、新型コロナウイルスによって、インスタントラーメンの消費量が爆発的に増えています。中国のEコマース最大手のTaobaoのデータによれば、今年2月のインスタントラーメン関連の検索は従来の数字の200倍に増えたようです。確かに、自宅で隔離され、外出するのが困難な中、インスタントラーメンほど「安さ、便利さ、美味しさ」を満たす食べ物はないでしょう。

しかし、興味深いのは、インスタントラーメン販売数の上昇は、新型コロナウイルスが発生した大分前に既に始まっていたということです。例えば、中国インスタントラーメンの最大手の「康师傅」は、2年連続で年間売上が約5%増加しました。5%という数字自体はさほど大きくはありませんが、それまでの数年間が右肩下がりでした。つまり、インスタントラーメンは、直近の2年間、低迷していた市場から、バイタリティー溢れる市場に変貌しました。

実は、2012年から今まで、インスタントラーメン業界は大きな波を経験してきました。数字で見ると、中国のインスタントラーメン年間販売数は、2012年に史上最高の460億食に達した後に、4年連続で下がり、2016年に370億食にまで落ち込みました。しかし、2017年から、なぜか奇跡的に回復し、また400億食以上に戻ってきました。一体何が起きたのでしょうか。

理由1:デリバリーのコストの高騰

まず、インスタントラーメンの今の回復を理解するために、そもそもなぜ2012年から販売数が下がったかを考察する必要があります。最も大きな理由は、デリバリーの台頭です。

日本にも近年Uber Eatsに代表されるデリバリーサービスが流行しています。しかし、主に人件費のせいで、なかなか手軽に利用できる状態だとは言えません。デリバリー費用などを含めたら、一食少なくとも1200円ぐらいかかります。

中国はかなり違います。人件費が日本より安いだけではなく、各デリバリーサービスが激しく競い合っているため、たくさんの割引券などが常に配られています。実は、デリバリーサービスの中には赤字運営でも割引券を提供することで利用者を増やす戦略を取っていた会社もあります。まさに日本のスマホ決済サービス各社が一時期に還元キャンペーンでユーザーを奪い合ったような状況でした。当時、ファストフード店のようなところで注文したら、150円ぐらいからのデリバリーも頼めました。例えば、私が2017年に深センに出張した時、麻婆豆腐掛けご飯と蓮根スープを頼んだら、30分後に泊まったホテルまで届きました。値段は200円ぐらいでした。

しかし、最近、その状況が変わっています。NetEase Newsの記事によれば、デリバリーサービス市場は三、四社に淘汰されたことによって、以前のような仁義なきユーザー獲得戦がなくなりつつあります。それと食材価格の高騰によって、デリバリーの単価が増えてきました。実は、2019年に200円以下の注文数は全体の10%以下しか占めていななかったようです。40%以上は1000円以上の注文だったようです。

それと比べたら、インスタントラーメンは非常に安いとも言えるでしょう。前述した「康师傅」という中国インスタントラーメンの最大手のラインナップを見ると、ほとんどの商品が100円以下で、150円以上の商品が全体の6%しか占めていないようです。

中国人の一人あたり平均収入が増えていることが確かなものの、10元(150円)以下でスピーディーに自宅で美味しく満腹になるまで食べられるというニーズはまだあると思います。デリバリーのようなサービスがそのニーズを満たせなくなったことが、インスタントラーメンの復活に繋がったのではないかと思います。

理由2:インスタントラーメンの品質向上

しかし、デリバリーの価格の高騰だけではインスタントラーメンの復活を説明できません。実は、インスタントラーメンのメーカーは近年、特にカップラーメンの品質向上にかなり力を入れてきました。データで見ますと、カップラーメン対袋麺では、カップラーメンの比率は10年連続で増えています。2010年のカップラーメンの比率は28%でしたが、今や50%以上まで上がっています。
従来のインスタントラーメンの場合、本当の肉を使わず、肉の味がする化学調味料の粉末を使って、肉の味を再現する場合が多かったです。肉を使うとしても、基本脱水された品質が低いものばかりでした。しかし、最近、高品質の肉や野菜を真空パックに入れて、インスタントラーメンに添付するケースがよく見られるようになっています。私も最近のインスタントラーメンを食べる時に、食材の新鮮度に感動すらしました。それから、インスタントラーメンのメーカーは、麺を揚げた麺からより健康的な製造方法に切り替えたり、スープの具により高級な食材を入れたりして、様々な所でインスタントラーメンを高級化しています。

もちろん、高級したことで値段も上がってきました。しかし、そうはいっても、80円から90円、100円から110円のような低価格帯の範囲内での値上げにすぎません。デリバリーのような1000円以上の価格帯からかなり離れています。その低価格帯の中でしたら、NetEase Newsの記事によれば、多くの中国人消費者は、値段を気にせずに買えるようになっています。実は、前述のデリバリー離れを合わせて考えますと、中国で起きている面白い現象が見えてきます。自宅で自炊以外の食事をする際に、全体的に高価格帯(例:デリバリー)から低価格帯(例:インスタントラーメン)へシフトするというダウングレードが起きていますが、低価格帯の領域において、品質向上と価格高騰というアップグレードが起きています。

理由3:インスタントラーメンに付加価値を

中国のインスタントラーメンは本来、早く安くある程度美味しく食べるために作られた食べ物です。つまり、ある意味「やむをえず」の時の食品という印象があります。お金と時間がたっぷりあっても、わざわざインスタントラーメンを選ぶ人は少ないと思います。しかし、最近、インスタントラーメンメーカーは、その本来の位置付けを変えようとしています。

その一つの手法としては、正に日本でよく使われる「地域限定」という販売方法です。例えば、中国西部にある青海省には「麻辣クミン味のラム肉のヌードル」、上海に近い杭州市では「筍と鴨のヌードル」が売られています。もう一つの施策は、テレビCMなどを通じて、「ゲームをする時に、インスタントラーメンが欠かせないだ!」というようなイメージを中国人に植え付けようとしています。そういう手法で、インスタントラーメンの価値を高めることを狙います。

終わりに

今回の新型コロナウイルスの影響で、多くの中国人は今でも外出や会食を控えています。それによってインスタントラーメンの需要はしばらく高い水準にとどまると予想されます。インスタントラーメン業界にとって、ある意味、絶好の追い風とも言えるでしょう。今後、インスタントラーメンはその追い風を生かして、デリバリーと共存しながら、成長して行けるかどうか、期待しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?