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奥付は1ページじゃ足りない

2006年に発売された「かくれんぼみち」。
自分の詩集なのに、その言葉がなんという紙にのっているのか知らない。
出版社がなくなってしまったので、確かめるすべもない。
奥付に紙の種類は書いていない。

作者の紹介と、本を作った人たちの名前、出版社の所在地や連絡先など。
奥付に書いてあるのはたったそれだけ。
1冊の本がうまれるまでに、たくさんの人の力や想いが関わっていることがちっとも伝わらない。
もっと書いてほしい。
装丁をデザインするのに何パターンの候補があったか。
どの紙とどの紙で迷ったか。
フォントの案はどれほどあったか。
印刷の工程、製本の様子。

わたしは本が好きだと思うけど、読むことが好きなわけではないな、とずっと思っていた。
「本がならんでいるのを見るのが好き」そう言うようにしていたけれど、最近わかったこと。
それは「本の風貌を見るのが好き」ということ。
どうやってその形になってうまれたのか、1冊1冊のその成り立ちが知りたいのです。

そんなときに出会った「旅する製本展」。
行けたのが奇跡的で、ここで見た製本のあれこれでまた、想いがたしかになった。
世の中にはたくさんの本があって、日々たくさんの本が出版されているけれど、その1冊1冊にそれぞれの生まれ方があるはず。
それを知っているのと知らないのとでは、読み方もまたちがってくるのではと思う。
わたしは知ったほうがぜったいに読みたくなる。


書店員をしていたとき、出版社の方から束見本をいただいたことがあった。
本ができあがる前の、まだ印刷されていない紙と表紙だけの束。
わたしはこれがすごく神秘的で、いわば本のたまごみたいなものだなと思い、詩をしたためるノートに使わせてもらうことにした。
このノートは今もときどき開いて、詩をかくことがある。

先ほどの「旅する製本展」を開催している渋谷文泉閣さんは、昨年「束見本フェア」というものも開催していたそう。
束見本があつまるフェア・・・どれほど魅力的だったことか。
また開催してほしいし、欲を言うなら束見本とともに、それがどんな本になったかという完成形も一緒にならべてあったらいいなと思う。

出版社の倉庫から、大量の束見本が出てくることもあるとも聞く。
もしも捨てられるなら、「サンプルBOOKS」という本屋さんでも開いて、束見本をたくさん集めたい。
その束見本がどの本になったのかがわかると、本自体の紹介もできてなおいい。

その本がどのようにして生まれたのか。
せっかく手間隙かけて生まれた1冊の本のことを、内容だけでなく成り立ちももっと紹介してほしい。
そうしたら本ももっと売れるのでは。
だから奥付は3ページくらいあってもいい。

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