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【雑記】やればできるじゃん2023‐2024(後編)

▽前回までのあらすじ

虫歯になりました。

2024年2月3日(土)。世間様は節分一色。私の脳内では淀川ジョルカエフの呟き声(淀ジョルじゃなくて黒ムルだっけ?)(←元ネタわかる人ほぼいない説ver.2)で、「お豆の哀歌」が再生されていました。

「一粒……二粒……三粒……」という彼のうめき声は、私の聞き取れる範囲では「十粒ぅぅぅ~ッ!!」までだったけど、友人によるとそれ以上数えているらしい。当時はクリアするのに必死で、気づかなかったけど、気づいても割とどうでもいい類の情報でした。

さて、いよいよ親知らずの抜歯を午後に控えたその日、ランチは常連の食堂(女将さんが一人で切り盛りしている、町の小さな和食の食堂)で、安定の滋味深いだし巻き卵定食を注文しました。

そこでは、女将さんとのおしゃべりも楽しみの一つなのです。しかし、いつもより口数9割減の私に、女将さんが心配して、

「何か心配ごとでもあるんですか?」

と尋ねてくれたのですが、ええそれはもう、心配しかないんですよ……と答えられないくらいに精神的に弱っていて、「ええ、まぁ……」と無駄にヒニルな笑みを浮かべることしか、このときの私にはできませんでした。

ありがとう女将さん、今日も美味しかったです。ありがとう、本当に美味しかった。これまでお世話になりました。ありがとう……。

――もう、行かなくっちゃ。

最終話で元々いた世界に戻る運命を背負った悲劇のヒロインよろしく、私は強がってニコリと笑顔を作り、食堂をあとにしました。

で、ついにその時はやってきました。心を乱さないよう感情を可能な限り押し殺し、神妙に診察台に横たわります。人生、時には諦めも肝心なのです。Xでなんとなくポストもしたけど、執着は心の贅肉みたいなもんです。つきすぎると、体まできっと重くなってしまうのです。

なに、歯を抜いてもらうだけです。それだけなんです。何を恐れることがあろうか。そこへ、院長っぽい歯科医がまたもや颯爽と現れ、

「じゃあ、やっちゃいましょうか!」

……ゴクリ。

「麻酔からいきますよー」

よくってよ。私にはもう、あなたを信じる以外の道は残されてないの。

「はい、そのままリラックスしててくださいねー」

よくってよ。リラックスというよりは「諦めは心の養生」の境地だけどね(※誤用)。

「はーい、よしっ」

よくってよ。私、あなたを信じてる!!

麻酔の効きは良好で、意識が心地よくふわぁ……となったころ、歯科医がおもむろに、世にも恐ろしい金属を私の視界に入れました。「抜歯鉗子」という医療器具だそうですが、私にはDIYで大活躍するでっかいペンチにしか見えませんでした。

抜歯鉗子
あくまでイメージです

それを、歯科医はなんの躊躇いもなく(躊躇されても困るけど)私の口の中に入れ込みました。麻酔は効いてこそいたけど、感覚はしっかり伝わっていて、少しの間のぐいぐい押されるような圧迫感ののち、てこの原理(なのか?)で明らかにいま殺られたっ!な瞬間があり、閉じていた両目を恐る恐る開くと、歯科医は「終わりましたよ~」と一言。

お、……おおお、終わった、……のか……?

「じゃあ、この綿球を20分ほど噛んでいてください。止血するために、思い切り噛んでくださいね」

そう言われて、小さな綿球を抜歯部分にあてがってもらい、私は非常に素直なので、これでもかという力を込めてそれを噛みました。

「んぐぐぐぐ」と頑張って噛んでいたら、それを見た歯科医が「そんな親のかたきみたいに噛まなくても……」と苦笑しました。私はうまくリアクションできず、綿球を噛んだまま「ううー」とだけ答えました。

私は、指示に従ったまでだったんですけどね……ああほら、人は結局は自分の主観から逃れられないってやつ……あれですか……?

そこで止血確認までの20分間、私は「思い切り噛む」の力加減を敷衍する方法について思案していました。たとえば、「南部せんべいを一撃で仕留めるくらいの強さ」「飴玉をすぐに粉砕できるくらいの力」「マカダミアナッツの入ったハワイ土産のチョコレートを砕くほどの想い」など。

そんなこんなで20分が経過し、止血も無事に済み、かくして私は解放されたのでした。まだ麻酔は切れていなかったので、向こう3時間は食事ができないと言われ、その後に食べるものもゼリーやヨーグルト、スムージーや雑炊にしてください、とのことでした。

じゃあ栄養も摂れるしゼリーにしよう、と思って帰り道、薬局の前にコンビニでウィダーインゼリーの類を買い込んだのですが、無知というのは恐ろしいもので、なんと「吸って飲む」タイプはダメということが判明。

そのことは、薬局の薬剤師さんが薬を渡すときに教えてくれたことだったので、私は手元のエコバッグの中身を知られまいと不自然に身をよじっていました。人間やましいことがあると、まっすぐには立てないものなんですね。

次は3か月後に定期健診に来てください、ということで、歯医者通いにピリオドを打ちました。これにて、私の戦いは大団円を迎えたのです(ここで優しめの旋律でエンドロール)。

2月23日(金)現在、その後の経過はきわめて良好です。食事は麺類や雑炊からはじまり、今では南部せんべいや飴玉、ハワイ土産のチョコレートも自由に食べられます(食べてないけど)。先述した食堂にも顔を出しました。元気に骨ごとイワシの梅煮(超美味)をいただきました。

~デンタルサーガ・2023‐2024、終幕(タイトル変わってるし)~

さて、歯をしっかり磨いて寝よう。

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