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『正欲』単なる「多様性」のアンチテーゼ本ではない傑作小説

映画化もされた、朝井リョウさんのデビュー10周年記念作『正欲』をようやく読み終えました。

「多様性のことを扱っている」「性指向のことを扱っている」といった前知識ぐらいしかなかったので、気軽に読み始めたのです。

しかし、内容がかなり考えさせられ、またハッとするような修辞的な文章が節々で書かれていたので、なかなか読み進められませんでした。

「多様性は大事」。
当たり前です。
しかしその「多様性」は、どこまで含まれるのでしょうか?

京アニ放火殺人事件を起こした青葉真司被告を、社会は受け入れることはありません。

もちろん犯罪者を受け入れないのは、社会秩序のため必要なのでしょう。秩序が崩壊すると、社会そのものが成り立ちません。

仕方のないことだと思います。

ただ、一方でそこからこぼれ落ちる「何か」があるはずです。

『正欲』には、その「何か」が書かれています。

「多様性」を糾弾する者こそ、「多様性」を認めていないではないか!
……という言説をSNSでもたまに見かけます。
理論的には矛盾はありません。

しかし、こうした言説も、絶望を感じている「認められていない者」からすると、空疎な響きに聞こえてくるのかもしれません。
多数派や少数派も関係ありません。多数派の人間であっても、多面性あるのが人間です。
誰しも、家族や恋人に内緒にしていることはあるでしょう。けれど決して糾弾されるべきではありません。自分と他人は、別人物なのですから。

社会との間で埋められるもの、埋められないもの。
一体、それは「何か」としか表現できません。

朝井リョウは今回、小説という形で我々に投げかけました。
今度は自分たちが考える番です。

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