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ザ・ホエールと小児科医

ある宗教の厳しい規律によるトラウマで自死したアラン、家族を捨ててアランと結ばれたもののアランの自死によりトラウマを抱え重度の肥満、うっ血性心不全に至ったチャーリー、チャーリーが出ていったことでACEs(逆境的小児期体験)を負い、素行不良から退学寸前の彼の娘エリー、アルコール依存になってしまった元妻メアリー、兄を自死で亡くし、亡くなった兄のボーイフレンドであるチャーリーを献身的に看護することで自らを慰めるリズ、元凶となったある宗教に対する冒涜行為によって故郷を追われたトーマス。彼らのトラウマは連鎖し、ある者の苦しみは他者の苦しみに連鎖し続けます。一緒にいたら不幸しか招かない絶望的な関係性の人々が、鯨のように大きく膨れ上がったチャーリーの死を目前に控え、一堂に介することで紡がれる一週間のドラマが丁寧に描かれます。

トラウマが持つ伝染力の強さを改めて思い知らされました。全ての人が間違っていて、でも本人が生きるためにはそれが正しくて、痛くて、弱くて、哀しい。それぞれが抱えたトラウマがあまりに深いため、たった一週間でそれらが解決することはなく、時間だけが過ぎてゆく救いのない物語ですが、ラストにチャーリーが行ったエリーとの命懸けの交流に激しく感動しましたし、人生の最期に彼は救われたと信じています。

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