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「親育ち」と小児科医

こんにちは。小児科医のcodomodocです。神経疾患、神経発達症、心身症などの診療をしています。最近はマルトリートメント(不適切な養育)な環境から発達性トラウマ障害をきたした子ども達への医療的な関わりについて勉強をしています。

うちの病院の院内報に毎月書いているコラムです(800字前後)。診療をしていて感じる、とりとめもないことを書いています。
今回は2023年の12月号です。

師走です。先日、武田鉄矢さんの「今朝の三枚おろし」というラジオ番組を聞いていたところ、彼が「どうして子どもって親の思い通りに育たないのでしょうか」という相談を受けたと話していました。彼の母は息子が福岡県の教員になることを望んでいましたが、息子は教育大学を退学して東京で歌手になり、テレビで日本一有名な教員になりました。そんな自身の体験を踏まえて彼は「子育てってそういうものですよ」と答えたそうです。思い通りにならないことが面白い結果を生むこともあるという事なのでしょう。

振り返って自分の子育てはどうだったか。子どもたちに手がかかる時期は自分も若かったので仕事量が多く、人間的にも未熟だったので視野が狭く、人のことを慮ることができずに感情的になることもありました。そんな状態の子育てに余裕がある訳もなく、子どもたちに悲しい思いをさせたのではないかと軽くトラウマを感じています。似たような経験をしている方は少なくないのではないでしょうか。そんな経験をして思うのは、子育てとは子を育てるのではなく、親が育つ過程:「親育ち」だったんだということです。

鉄矢さんが言うように子どもは親が思うようには育ちませんが、親が自らを整え、子どもに対峙し、話を聴き、落ち着いた関係を築くことができれば悪いようにはなりません。発達心理学者のバウムリンドは養育には「統制」に「温かさ」を併せ持つことが重要だと説きました。私たちは子育てにおいてルールを守ることを重視しがちですが、同じくらいに親は子どもたちの行動を許し、温かさで包むことが求められるのです。そのための「親育ち」です。他人の人生は変えられません。たとえそれが自分の子でも同じです。変えられるのは自分だけなのです(自己啓発本っぽくなってしまいました、すみません)。最後に、子育てと同様に親が育つためには彼らを許し、温かく見守る人や社会が必要です。今の社会は彼らに統制ばかりを強いていないでしょうか。私たちは良い「親育て」ができているでしょうか。

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