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「連携について考える」と小児科医

こんにちは。小児科医のcodomodocです。神経疾患、神経発達症、心身症などの診療をしています。最近はマルトリートメント(不適切な養育)な環境から発達性トラウマ障害をきたした子ども達への医療的な関わりについて勉強をしています。

うちの病院の院内報に毎月書いているコラム“Pediatrics Note”です(800字前後)。診療をしていて感じる、とりとめもないことを書いています。
今回は2024年の4月号です。

決めろ!え〜、そこでパスする!?連携も大事だけど、撃つときは撃ってよ。もっとフィジカルを鍛えてさ〜。フォワードじゃなくても、誰がシュート撃ってもいいんよ。よし、撃ったぁ!あ〜、キーパーの真正面。そんな正直にど真ん中に撃つ? あれ、キーパー怒ってる? 仕方ないなぁ、キーパーとよく話し合って一緒にゴールを決めようか…、これはなんの話でしょう。決定力に乏しいサッカーチームの無邪気なサポーターの嘆きでしょうか。

今年の2月に4歳の次女を不凍液と抗精神病薬を飲ませて殺害した疑いで、両親が逮捕された事件が起きました。この家族には以前から児童相談所を含む各種機関が支援に入っており、精神的に不安定なお母さんを養育困難と判断し、子どもたちを一時保護したこともあったといいます。次女は約3年半で6カ所の保育園や託児室の転園を繰り返し、2年前の秋には通っていた保育所から原因不明のけがの報告が上がりましたが虐待ではないと判断され、その後、今回の事件に至ってしまいました。事件は関係機関が連携した状況で起きてしまいましたが、このケースに限らず児童虐待の事件では支援機関同士の連携ができていたのに、という事が少なくありません。なぜうまくいかないのでしょう。一つに、支援が必要な家族ほど支援を望まず、支援者は敵対されてしまい家族の信頼を得て一緒に子育てをすることが難しいことがあります。機関同士のパス回しがうまくできても、親御さんの懐にあるゴールにボールを持っていけないのです。事件が起きると切り札となる児童相談所が非難されることが多いですが、ゴールを決められなかったストライカーだけを責めるようなものです。パス回しばかりするのではなく、各プレイヤーがもっとフィジカルを鍛え、考えて動かなければならないのです。メッシのように華麗に難題を飛び越えることはできませんが、親御さんの信頼を得るためにできることはまだあります。次号からその鍵となる戦術、トラウマインフォームドケアについてお話しします。

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