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幸せをよぶトカゲの話

うちの病院の院内報に毎月書いているコラムです(800字)。小児の診療をしていて感じる、とりとめもないことを書いています。2023年1月号です

明けましておめでとうございます。新年早々ですが、トッケイヤモリ(トッケイ)をご存知ですか。東南アジアに生息する、20〜30cmもある大きめなボディに水色をベースにオレンジ色の水玉模様というファンキーなスキンをまとったやつです。「トッケイ、トッケイ・・」と鳴くのがその名の由来です。私の父は農林水産省の農業試験場で害虫の研究をする研究員でした。私が小学生の頃、インドネシアに数ヶ月間の出張をしました。出張から帰ってきた父は、インドネシアの事を色々と話してくれました。もうほとんど覚えていないのですが、「じゃらん」は道で「じゃらんじゃらん」は散歩の意味だとか、インドネシア語は過去形がないから簡単だとか・・、どうでもいいことしか覚えてないもんですね。昨年の秋に実家に帰った際、父がトッケイの話をしてくれました。トッケイはインドネシアでは“幸運を呼ぶヤモリ“と呼ばれているそうです。トッケイが鳴き出すと向こうの人たちは鳴き声を聞きながら、「トッケイ、トッケイ、トッケイ・・」に合わせて「幸せ、不幸せ、幸せ・・」とつぶやきます。トッケイが「幸せ」で鳴くのをやめたら、幸せだというのです。花びらを数えて「好き、嫌い・・」という昭和の遊びと同じですが、暖かい夜に湿った風に吹かれ、月に照らされて明るくなった海を眺めながらヤモリの鳴き声を数えるというのはなんとも可愛らしく、風流だなと思ったわけです。気づけば令和も5年目に入り、私は幾度目かの年男を終えました。月日はどんどん流れていきます。日々、幸せになりたいと思いながら生活していますが、実感は湧きません。そんな時にトッケイを数えて「幸せ」だったら、「あァ〜幸せだなァ」と思えるようになれれば、それはそれで幸せだと思うのです。『ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される』とはブッダの言葉ですが、“物は考えよう”ということです。「不幸せ」だったら、トッケイがもう一回鳴くのを待てばいいんです。本年もどうぞよろしくおねがいします。

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