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こんな夜更けに「back number」かよ

二女は、眠ることが苦手だ。
娘の病気は、筋肉が壊れていく難病。
3年前に映画化された「こんな夜更けにバナナかよ」の主人公、鹿野さんと同じだ。


本の題名にもあるように、物語のなかで、主人公が睡眠障害のために夜中も眠れず、ボランティアの介護者にバナナを買いに行ってもらう、という場面がある。
眠れないことは、本人もまわりもしんどい。
娘にも睡眠障害があり、徹夜することもめずらしくないので、タイトルを見ただけで「それな」と思ってしまった。


久しぶりに本を手に取り、付箋のページをめくる。
心に響いたページ、また読み返したい場所に付箋をするのが私の癖。
そのページは、3年ぶりでも覚えていた。

母親への主人公の想いが書かれているシーン。
もしも娘が話せたのなら、こんな気持ちなのかもしれない、と、泣きながら読んだところだった。
もう一度読み返して目が潤んできたので、そのまま本を閉じた。
表紙は映画の写真が使われている。映画が、大泉洋さん主役で嬉しかったなぁと、写真を見ながら口元が緩んだ。



幼い頃から娘は、眠ることが苦手だ。

2歳くらいまでは、奇妙な三拍子のステップを踏みながら、ゆらゆら抱っこして娘を眠らせた。
そっと布団に置くと、すぐに起きる。
布団に着地成功しても、1時間も経たないのに起きて泣き出し、また抱っこ。寝返りができず、不快だったのだろう。
夜間10回は、それを繰り返してきた。

不思議なもので、弟が生まれたら自分でコテッと寝付くようになった。彼女なりに「お姉ちゃん」になったのだと思う。
でも、夜間に起きることは当然変わらない。だいたい2時間したら、娘が「んー」と声を出すので、寝返りをさせて娘をトントンして寝かしつけていた。

思春期の頃には娘の神経も図太くなり、一旦眠ったら真横で掃除機をかけても起きなくなった。
でも痰が溜まるし、体に褥瘡(皮膚に圧力がかかってただれること)ができると困るので、2時間おきに体の向きを変えることはやめられない。

現在は人工呼吸器を使って側臥位で過ごすようになっているが、昼夜に関わらず2時間おきに、右向き、左向きと、体位交換をしている。

基本的に、夜間は私がひとりで娘を看るので、2時間おきに目覚まし時計をセットして、夜勤のように世話をしている。
だから、娘が生まれてから24年間、私は朝までまとめて眠ったことがほとんどない。
すでに、私の身体は2時間で起きることに慣れすぎて、長い時間まとまって眠れなくなってしまった。


娘と同じような病気のお子さんをもつ親の悩みは、「睡眠不足」と「腰痛」
万年寝不足は当たり前だ。
おかげで、老化のスピードも加速しそうだ。


この睡眠障害のために、娘はショートステイ(施設や病院に、お泊りで預かっていただくこと)ができない。
数回試みたが、毎回朝まで眠れず、高熱を出して家に帰ることになる。
そうなると、一週間は調子が悪くなってしまう。
親としては、
「家でずっと私が見るほうが楽だな」という気持ちになる。


学校の宿泊学習も修学旅行も、悲惨だった。
お泊まりの家族旅行でも必ず徹夜をし、2日目は調子を崩す。


入院中でさえも、重症で昏睡状態に近い時は眠るのだが、それを脱して元気になると、徹夜して朝までご機嫌に起きていることになる。だから、
「寝かせたいので、退院させてください。わたしが限界です。」
という、おかしなお願いをすることになる。


そういう「強いこだわり」のようなものが娘にはあるので、「娘の外泊」が私にとってはトラウマになってしまっている。
「どうせ、家以外では寝ないだろう。家でも寝ないんだから」となる。


娘は視力を失ってからは、なおさら昼と夜の区別がつきにくくなった。
外出の機会も減り、体を動かさないので生活リズムも狂う。
毎日入浴させることも難しくなり、寝る「タイミング」がわからなくなったようだった。
だから、寝たいときに寝て、起きたいときに起きるようにもなってしまった。



そこで「寝るよ」というきっかけを、何かでつくれないか、と私は考えた。
やっぱり音楽しかない。娘は、聴くことに関して、何も問題がないから。

「この歌を聴いたら、毎晩、寝る体制に入るようにしよう」

長女の高校時代に使っていた、古いウォークマンをもらい受け、そこに小さなスピーカーを繋げて、寝る前に聴かせることにした。

実物です。


問題は、何の曲にするか、だ。
考えた末、「back number」を選んだ。
理由は、ウォークマンの中にたまたま入っていたから。
そして、ゆったりした曲調とボーカルの声が、眠りにつくのに心地よいと思ったから。

かれこれ、5年続けてきた眠活


眠る合図は「back number」の「花束」だ。

そして娘が徹夜する夜は、ウォークマンに入っている「back number」の4枚のアルバムの曲がエンドレスで流れる。

まさに、
「こんな夜更けにback numberかよ」状態。


娘がスッと眠ってくれたら、「さすがback numberさま!サンキュー、サンキュー」と思う。
全然眠らなかったら、「back numberなのに、何してるのー!頼むわー!」と思う。
勝手なもんだ。

入眠テーマソングに慣れてきた娘は、成功率も急上昇。
これさえあれば、ショートステイも夢ではない、かもしれない。

今年の4月初め、ホルモンバランスを崩し、娘は48時間もバキバキに起きていた。
不眠の過去最高新記録を更新。
back numberも歯が立たない。
丸2日間起きているのは、私にとっても、苦行か修行でしかなかった。

話を聞いた訪問診療の主治医はにっこり微笑んだ。

「まあ、まるで、きんさんぎんさんみたいね。」とひと言。

ご高齢の双子のおばあちゃま。
たしかに、2日間寝て、2日間起きていたと聞いたことがある。

先生、そう来られましたか!(そう来たか!とは言えないので)

クスっと笑って、なんだか、「まあいいか」という気持ちになった。
娘の体内時計は、いつも気まぐれだ。



娘のすべてのお世話が終わり、「さぁもう寝る時間だよ」とウォークマンを操作すると、いつもの音楽が流れる。
「今夜は朝まで眠ってね」と、一緒にback numberの曲を聴きながら、娘が寝入るまで私は大好きな本を読む。最近はnoteに傾き中。


横目で娘の寝入りをチラチラ見ながら、「よし、寝たな!」から10分したら、音楽を止めて、2時間後に目覚まし時計をセットして、電気を消す。

やっと私の今日が終わる。


back numberさま、毎晩ありがとうございます。
もう、全部、歌詞は覚えましたから。








最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


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