日曜日の朝、「この先の未来で、やってみたいこと」を夫とじっくり話してみた
日曜日の朝食の時間が、私は大好きだ。
その日は、義母と母を迎えに行き、我が家で一緒に食事会をすることになっていた。
義母も母も秋の生まれで、息子も秋生まれなので、3人まとめて誕生会をしようという理由で、おばあちゃん二人を夕食に招待したのだ。
二人とも夫を亡くしたばかり。
二人とも、めちゃくちゃおしゃべり。
だから、お互いにゆっくり話ができたら、お互いがホッとすることもあるかな、という気持ちもあって。
そんな朝だから、朝食の後の夫との珈琲タイムは、なんとなく両親の人生を振り返るような時間になった。
そして、夫とお互いの夢の話をした。
夢というよりは、もっとささやかな、老後の望みだったり、楽しみだったりの話を。
*****
両家の両親たちは、私くらいの年齢の頃から何年間も、それぞれ夫婦でよく旅行をしていた。
国内だけに限らず、海外へも何度も。
「親たちは、元気に夫婦仲良く、いっぱい旅行もできて、良い人生だったよね。」
当時はちょうどバブリーな時代だったし、子どもの手も離れて、親も一番遊べる時期だったのだろう。
羨ましくも思ったが、私たち夫婦も子育てが落ち着いたら、両親たちのようにいろんなところへ二人で行ける、と思っていた。
でも私たち夫婦は、子どもが生まれてからは、二人だけで旅行したことは一度もないし、近場でさえも二人で出かけることはできない。
それはこの先もまだまだ難しいように思う。
「いつか、日本全国、全部の都道府県を二人でまわろうよ。」
現実的な話というより、もしも宝くじが当たったら、みたいな感覚で、たまに私はそんな夢のような話をする。
この日も妄想を膨らませてペラペラと語っていると、夫は、
「どこに行っても一緒やろ。うちが一番やわ。寝転んで旅番組を観ているほうが、いいやん。」
と、いつもの可愛くない返し方をした。
彼は本来、アウトドアが大好きで、旅も好きな人だったんだけど。
やれやれ、すっかりおじいちゃんになっちゃったのか、へそ曲がりなことをわざと言っているのか。
ところが、夫はしばらく考えてから、
「まぁ、いつか俺たちも、二人で旅行もいいかもな。」
と、めずらしく嬉しいことを言った。
親の話をした後だったからなのかな、と思った。
私たちは、それができる日が来ることは特に望んではいない。
難病の娘との時間の方が大切だから。
それに、それぞれが順番にふらっと出かけたり、家族で一緒に出かけたりもしているし、遠方へはテレビを観ながら行った気になったりもしているから、切実な不自由を感じてもいない。
たまに、二人で、に憧れるだけだ。
「旅行に行く夢は置いといてさ、老後にやりたいことって何かある?」
って、ちょっとマジメに夫に問いかけてみた。
定年まであと数年、老後っていうのも、そう遠い未来ではない。
それに母たちがひとりになり、老後について、最近いろいろ考えさせられることも多いので、つい、そんな話もしてみたくなった。
夫は思いつくままに、やりたいことを挙げていった。
「うちの庭木や畑をちゃんと手入れしたい。」
「近所の道端の草を刈りたい。」
「料理もしてみたい。」
「何か、運動をしたい。」
「水道や電気をケチケチせずに使いたい。」
「山を買って、重機を買って、その山を削りたい。」
などなど、最後の方は、わけのわからないことを言っていたが、ほぉ、いろいろ考えているんだな!と思った。
逆に「あんたは?」と訊かれた。
私もやりたいことや続けたいことはいっぱいあるが、実はちょっと前から、本気で挑戦したいと密かに考えていることがある。
旅行話で私はとてもご機嫌だったので、それを初めて夫に教えてあげることにした。
私は絵手紙を描くのが趣味だ。
地域の地区センターでは、毎週火曜日の昼間に、お年寄りが集まって絵手紙教室をやっている。
夫に娘を任せて、私もそこに通って、自己流ではない描き方をちゃんと学びたい。
地域の大先輩たちのなかでは、おそらく最年少の私は、若手のホープとしてチヤホヤされるはず。
しかも、全員の描いた絵手紙たちが、駅前の銀行に飾ってもらえるので、銀行に行くたびに、ワクワクすると思う。
夫は「ちっこい夢だな。」と笑った。
いえいえ、この夢には続きがある。
「ちっこくないよ。いつか私は、そこで絵手紙教室の講師をしたいんだもん。」
「お前、絵手紙教室を乗っ取るつもりか!ええやんか!」と、夫に褒められた。
そこはいつもの、「お前アホやなぁ!」のリアクションでいいやつだ。
それに、乗っ取りはしないけどね。
さらに言うと、
「これ、うちの畑で夫が作ったゴーヤです。今日はみんなでゴーヤを描いてみましょう。」
みたいなことを言ってみたい。
さすがにこれは恥ずかしいので、夫には内緒の話です。
*****
老後は、もちろん健康が一番大事だと思う。
お金も大切だと、よくわかっている。
でも、何かを自分ひとりで楽しめたり、友人や地域と繋がって自分の居場所を作ったりすることが、ほんとに大事だと、母親たちを見て、つくづく感じている。
親の話から、旅行の話や未来の夢の話までも、夫とゆっくり話すなんて、なんだか、ちょっといい朝だったな、と思った。
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