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SIGRAND&Cie のパンツ

東京のとある古着屋。
其処は確実に今じゃない。20世紀の機械化とオートクチュールが交差する時代。
三つ揃いの背広を着るのも、礼服も、信じられない重さのコーデュロイも、現代らしくない。
でもその空間に居ると、それが新鮮 と言うわけではなく、それが普通のように思える。不思議な空間。

このnoteでは、一枚のズボンを考察していきます。
服が好きな方、服作りに興味がある方、なぜこのページに巡り合ったかわからない方、読んでいただければ幸いです。
よしなに~。

時代背景

資料をみるに、
1920~60年頃、フランス ニースのノートルダム寺院の傍にSIGRANDという百貨店があったようです。
現在はArmand Thiery (アルマンドシエリ)という衣料品店に変わったようですね。

服好きのアナタならNICEというより伊語でNIZZAと言えばピンとくるでしょうか。
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ニースは地中海性気候で冬でも温暖で、地形の関係でミストラルといった北風が吹かないため、ヨーロッパの国々の貴族たちの避寒地として栄えました。
中でも有名なのはヴィクトリア女王が1895~99年まで滞在しており、それもあって益々 富裕層に慕われる土地となったようです。

19世紀の終わりからWWⅠまでの時代をベルエポック、良き時代と呼び、 この時期にパリからニースに百貨店が移ってきたようです。
SIGRANDもそんな富裕層向け百貨店の一つだったのではないでしょうか。

25~26年のカタログではズボンのみで22フラン、55フランとあります。
ちなみにこの価格は現在の日本円で...。
と書きたいところなのですが...。
過去の貨幣価値の換算方法が分からないので理解しましたら追記シマス(;´∀`)


パターン、縫製

これがヤバい。
先ずは全体像から。


生地はサージで今日の生地よりずっしりしています。
当たり前ですがベルトループなしです、サスペンダーボタンは外側についていますね。
後ろのポケットは右側に一つです。
裾幅は23cm

アイロンワークが活かされた
美しすぎるS字ラインとハイバック...!
本当に芸術的...!

プリーツの深さは1cmで、浅めです。ウエスマンは5.5cm!
18世紀末からフランスではメートル法の導入の運動があったため、洋服も既にメートル法で測っていたのでは無いでしょうか...。ただイギリス系が避寒地として訪れていることもあり、インチ方で測られてることも考えられます。

 美しい手縫いのボタンホール。
勝手に前が開いてしまうのを防止する為でしょうか、上から三番目のボタンが反対に付けられているのが分かります。

外から見えないボタンに署名があります。ここら辺は美意識でしょうか。

後ろのアジャスターは二本の歯で噛む無段階調整の仕組みです。
金色で刺しゅうされたSIGRANDのロゴがあります。

個人的に一番驚いたのが 股のパターンです。ユニクロのタイツで股の開く位置に切り返しがあるのと、ミリタリーパンツで似たようなディティールはあったと思うのですが。スラックスで見たのは初めてです。

端はダブルロックで縫われています。
ポケットと股の補強はシーチング、腰の裏地はシャツ地ですね。

終わりに

古着はオモシロイ。
廃れてしまったディティールの意味を考えたり、
どんな時代のどんな人が着て其れがどうやって私の目の前に着たのか、それを想像するのが大好きなんです。

このパンツもワタシのジャストサイズではないので、ジャストの人で大事に来てくれる方がいたら手渡したいと考えています。

それでは。

 参考リンク集