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【実績】インクルーシブデザインアプローチ導入|神奈川県立 生命の星・地球博物館(2023)

・実施期間:2023.01〜2023.03
・クライアント名:神奈川県立 生命の星・地球博物館
・パートナー:株式会社乃村工藝社
・実施内容の分類:サービス/商品開発

箱根の近くに大きくそびえ立つ、神奈川県立生命の星・地球博物館。46億年にわたる地球の歴史と生命の多様性を展示した自然系博物館で、巨大な恐竜や隕石から豆粒ほどの昆虫まで、1万点にのぼる実物標本があり、見どころがたくさんある博物館です。
今回は「インクルーシブデザインで博物館の魅力を再発掘する」ということを目的に、ワークショップを実施しました。「触れる展示」の工夫など、すでにユニバーサルミュージアムとしての取り組み実績を持つ学芸員の方もいる生命の星・地球博物館の中で、改めてインクルーシブデザインを通じた魅力の再発掘をするべく、視覚障害のある方とともに「博物館の“空間”を鑑賞する」というテーマで、対話型鑑賞を応用した形のプログラムデザインとファシリテーションを行いました。


What has changed

・博物館の“空間”が持つ魅力を多様な角度から考え、発掘し、言語化することができた
・同じ空間に身を置いても捉えることが異なるという気づき、これまで気づいていなかった発見がそれぞれに生まれた
・ユニバーサルデザインとインクルーシブデザイン、それぞれの効果や役割の違いを体感する機会になった

STORY

 もともと、触れる展示なども多く、ユニバーサルミュージアムとして視覚障害のある方たちの中では知る人ぞ知る博物館だった「生命の星・地球博物館」。神奈川県小田原市に位置するこの県立博物館では、46億年の地球の歴史や生命の多様性を知るためのさまざまな展示がおこなわれています。地上3階建の大きな建物はエントランスから吹き抜けになっており、独特の開放感の中で展示を味わうことができる構造もひとつの特徴だといえるでしょう。
 今回、ユニバーサルデザインの取り組みや工夫をおこなってきた経験のある学芸員の方もいるという博物館の中で、博物館の魅力の再発掘と、より多くの人が楽しめるインクルーシブなミュージアムを作っていくために、インクルーシブデザインによる気づきの体感を得てもらうという体験そのものの醸成もひとつの目的として、ワークショップを実施していくことになりました。

リードユーザーの選定

 今回は、もともとユニバーサルミュージアムとしての工夫をおこなってきた学芸員の方もいる環境だったこともあり、リードユーザーの選定についてもCollableがコーディネーションするのではなく、すでに繋がりのある中からお声がけをしていただくというスタイルで実施しました。
 結果として、全盲の方3名とロービジョンの方1名、年齢層は大学生から社会人までのメンバーが集い、共に博物館を巡ることができました。

ワークショップの内容

 特徴的な空間を有する生命の星・地球博物館の魅力を再発掘するために、今回は対話型鑑賞の手法を応用したワークショップを設計しました。
 まずはリードユーザー1名と学芸員、そのほか参加者を混合で編成したグループを作ります。その後、エントランスからスタートして、あらかじめスタッフ側で定めた館内の特徴的な展示空間のリストから好きなところをグループで選び、実際に移動してその場の空間を一緒に鑑賞していくというプログラムです。通常、対話型鑑賞は絵画などの作品について多様な視点から言葉を投げかけて鑑賞を進めていくことが多いですが、今回は生命の星・地球博物館のダイナミックな空間設計を感じてみてもらいたいという気持ちもあり、「空間」について感じたことや疑問に思ったことなどを言葉にしていくという流れを設計しました。

エントランスの天井部も実は見どころが多いです
エントランスの壁も重要な鑑賞対象です

 目が見えるか見えないか、展示物への知識があるか無いかなど、さまざまな立場が混ざり合ったことで、同じ空間に身を置きながらも気づくポイントが違ったり、魅力だと感じる部分が異なるということを体験していただくことが狙いのひとつです。また、空間という広い対象物についての感想や体感を言葉にしていくと、五感を使った多角的な言語化が可能になることで、自然とグループ内での会話や対話が生まれます。仮にその内容が博物館の展示そのものに直接関係がなかったとしても、お互いの中にあった固定観念に気づいたり、「自分にとっての当たり前が当たり前ではないんだ」という気づきに繋がったりということもあるかもしれません。そうした双方向性の気づきは、インクルーシブデザインの重要な要素になってくるため、今回はそうした気づきの生まれやすい設計を重視しています。

 あるグループでは、3階の空間の中にあるすりガラス越しに1階を見下ろす景色に着目をして鑑賞をしていました。すりガラスがその場所の価値を捉え直すレンズのような役割になったことに、参加者も盛り上がっていた様子が伺えました。またあるグループではリードユーザーの学生さんが館内の設計や来館者の声や足音などを感じて「ここは生きているミュージアムなんですね」「神様の視点ですね」とこぼした言葉を中心に対話を続けていたりと、さまざまな鑑賞のきっかけが生み出されていました。

3階から1階を覗き込む様子。手をかけている手すりの下がそのすりガラスです。

 その後、別室で館内を巡った中での気づきや、魅力だと感じた点について改めてグループごとで言語化をおこなっていき、最後には1箇所を選んで言葉のみで作った案内文を作成するというワークをおこないます。発表時には全員で目を閉じて耳で鑑賞をすることで、さっきまで巡ってきた場所で感じた体験との比較や、自分たちのグループが着目した点との違いなども踏まえた鑑賞体験を生み出しました。

今回のワークショップでは、ユニバーサルデザインとインクルーシブデザインで生まれる効果の違いや役割の違いといったことを体験していただくことも重要な目的のひとつでした。ヒアリングでもなく、ケアでもない、同じ場で体験をすることによる気づきと共創の可能性を、少しでも感じてもらえていたら有難いなと思います。

※なおこちらの取り組みは、2023年3月11日に生命の星・地球博物館にて開催されたミューズ・フェスタ 2023 公開フォーラム 「生命の星・地球博物館の新たな一歩を考える~みんなでつくる博物館・インクルーシブデザインの視点から~」にて活動の紹介をさせていただきました。

【参加していただいたリードユーザー】
視覚障害者4名
【ほか参加者】
生命の星・地球博物館職員、乃村工藝社社員


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