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二人の研究者(仮)

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二人の研究者(仮)#13
仮説#1

二人の研究者(仮)#13 仮説#1

一日だけ回答の期間を貰った。

が、あまり断われない話だとは感じた。それに、悪くない話だとも思う。

ではなぜすぐに回答しなかったか?

未だに小林が死んだと信じられなかったからだ。自分はこの三ヶ月の間、そのことを知らずに過ごしていたことになる。今のこのご時世、こんな大きなニュースをどこからも耳にせず気付かずに生きていられるか?

いや、意図していたとしても無理だろう。それこそ誰もいない山奥でひっ

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二人の研究者(仮)#12
研究背景#6

二人の研究者(仮)#12 研究背景#6

「佐藤君…。話しぶりからまさかとは思ったが、小林先生が亡くなられたことを知らないのか?」

「!?」

今度は言葉は理解できたが、思考がついていかない。

小林陸が亡くなった!?

「佐藤くん。研究ばっかりやっておらずにたまにはテレビや新聞を見たほうがよいぞ。」

いや、ちゃんと見ていますよ。と言いたいが声に出なかった。

代わりに竹内先生の口から声が出る。

「まさか本当に知らなかったとは…。あ

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二人の研究者(仮)#11
研究背景#5

二人の研究者(仮)#11 研究背景#5

「…くん。」

「…」

「佐藤くん。」

呼ばれている気がするが返事ができない。

「佐藤くん!」

「!」

「一体どうしたんだね?」竹内先生だ。

「あ、いや、…なんでもありません。」

立ったまま、少し意識を失っていたようだ。

「大丈夫か?」

「はい。ですが―」

「というわけで、ふたりともぜひ検討してもらいたい。」

先ほどの話に反論するため言葉を続けようとして、遮られた。

「わか

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二人の研究者(仮)#10
研究背景#4

二人の研究者(仮)#10 研究背景#4

目的の建物は大学の敷地の中ほどよりやや南に位置する。

バスは敷地の中を8の字に走るため、敷地中央のバス停は2回通ることになる。

中央バス停から少し歩かなければならないが、バスを使わないよりも歩く距離が短く済む。こうやって人間の運動機能は退化するのかと思うが、ここまで歩くという気にはなれない。

物理工学専攻棟。それがこの建物に名付けられた名前だ。もちろん各専攻毎に建屋はあるが、「専攻棟」といえ

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二人の研究者(仮)#9
研究背景#3

二人の研究者(仮)#9 研究背景#3

9時55分。

この時間に来ると、ちょうど学内周遊バスが正門から出る。二限目の講義に合わせて学内の各施設に万遍なくアクセスできるので非常に便利だ。

もちろんバスの時間に合えばの話だが。

通常であれば利用者が多いため、いつも3、4台のバスがほぼ同じ時間に出発し、連なって運行する。ルートもいつも同じ。ほとんど鉄道みたいなものだ。

今は春休みのため、バスの運行も少ない。

バスに乗り込み、座席に座

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二人の研究者(仮)#7 研究背景#1

二人の研究者(仮)#7 研究背景#1

研究者の朝はそれほど早くない。
大学の研究者ともなると尚更だ。教授クラスにでもなれば話は別なのだろうが。
佐藤は毎朝、忙しそうに出勤するサラリーマンを眺めながらカフェラテを飲む。乾神(いぬいがみ)駅の南口近くのカフェ。
座席は特に決めていない。ソファー席で考え事をしながら飲む時もあれば、テラス席で何も考えずにぼーっとしながら飲むときもある。
この店はどの席からも外を行き交う人の様子が見えるが、テラ

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二人の研究者(仮)#6 研究者B#2

二人の研究者(仮)#6 研究者B#2

部屋の扉からノック音がした。
「おーい、いるか?」
内藤だ。同じ大学で働く教員であり、学生の頃からの腐れ縁というやつである。
気を取り直して、すぐに返事をする。
「どうぞ。」
「失礼するよ。」ガチャリと扉が開く。
「おや?暗いな…。一体どうしたんだ?実験に失敗でもしたか?」
「いや、何でもないよ。」
「部屋の電気くらい付けたらどうだ。」扉の横のスイッチに手を伸ばす。
「今戻ってきたところなんだ。」

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二人の研究者(仮)#5 研究者B#1

二人の研究者(仮)#5 研究者B#1

足を揺すると服の擦れる音がする。
その音のみが部屋に響く。
その部屋の主は椅子の上でパソコンの画面を眺めていた。
「先を越されたか…。」
悔しさとも安堵とも取れる感情が混じった声が出る。
「なるほど…。」
誰にともなく相槌を打つ。もちろんこの部屋には他に誰もいない。

電気のついていない暗がりの部屋で、パソコンの画面だけが光る。

佐藤洋一は大学の研究員である。
教員ではないが、所属する研究室の教

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二人の研究者(仮)#4
研究者A#2

二人の研究者(仮)#4 研究者A#2

近年、マスコミや世間に注目されてしまった人間は、成果や実力だけでなく、それには全く関係ない人間性を試され評価されるように思われる。関係ないが逆らうこともできず、世間の期待する品というものを保っている。

仮面が剥がれるのも時間の問題かと思いながら。

二人の研究者(仮)#3 研究者A#1
https://note.mu/color_chips/n/n4e99134fdd34

まったく、作家と研究

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二人の研究者(仮)#3
研究者A#1

二人の研究者(仮)#3 研究者A#1

小林陸は焦っていた。
彼の業務は研究開発である。
彼の専門分野は時空間工学と呼ばれる、最近ではちょっと話題の分野だ。タイムマシンとか物質転送とかといったキーワードをイメージしていただければほぼ間違いはない。

―タイムマシン―

―物質転送―

その昔、21世紀には実現するだろうと言われ期待されてきたが、いざ21世紀を迎えると、そんな言葉はパタッと消えてしまった。それらが出来ないということばかりが

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二人の研究者(仮)#2
プロローグ#2

二人の研究者(仮)#2 プロローグ#2

人は技術革新により、様々な事が出来るようになった。
出来ないことといえば、時間を操作することくらいだ。
もしそれすら出来るようになったら?
未来を、過去を、変えることができてしまう。学校の歴史の授業が意味を成さなくなり、競馬や宝くじは商売あがったりだ。
今ですら未来を信じ努力をする人間なんて一握りしかいないのに、そんな者など居なくなってしまう。努力なんて馬鹿らしくなってしまうからだ。
自分たちの望

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二人の研究者(仮)#1 プロローグ#1

二人の研究者(仮)#1 プロローグ#1

多くの技術革新は研究によって成される。

そして研究の目的は、何らかの事象を明らかにすることである。
何も解されていない状態から突然革新的な成果が現れることはない。
それらはいくつもの仮説、何度もの試行、時には突拍子もない考察といった工程を経て、得られるものである。
研究はもちろん研究者が行い、それらの成果は研究者の技術、センス、運、それともちろん努力の賜物である。

もちろん、技術が技術のままで

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