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無理だった村上春樹

この前図書館で借りた村上春樹の『職業としての小説家』が面白かったので、久しぶりに村上春樹の小説の方も読んでみた。
村上春樹を読むのは、それこそ彼の初期作品の主人公だったりする大学生とか高校生の時分以来だろうか。

読んでみたのは『一人称単数』という短編集だったのであるが、これが予想通りというべきか「自分には合わなかったのを再確認した」次第であった。

ただ、表題作でもある最後の短編は何か良かった。
作者本人がモデルであると思われる主人公が一人でバーへ出かけて飲んでいると、隣の席の 50 絡みの BBA から身に覚えの無い難癖をつけられてウザ絡みされる・・みたいな短編だった。

村上春樹。出世作であり社会現象にもなった『ノルウェイの森』で初めて読んだクチである。その後はデビュー作とその次の中編2冊と、その他の短編集と何かのエッセイ集を数冊読んだだけで、「ノルウェイ」の次の『羊をめぐる冒険』だったか『カンガルー日和』だったかの途中で挫折したのであった。
何というか・・この人の小説は何が言いたいのか分からないんだよね・・。

以下に書く事は、そのように初期の数作しか読んでいないおっさんの感想であり、「それってあなたの感想ですよね?」という態度で聞き流してほしい。

まず、「この作品は何が言いたいんだよ」、という事である。
それはもう「内容が無いよー!!」と声を大にして言い切ってしまってもいい。

私は「深読み」「謎解き」みたいな鑑賞の仕方を面白がれた事がないし、少なくとも表層を撫でるように一読するだけでは、村上作品のどこが面白いのかを全く理解できないのであった。
自分は小説というものに、起承転結のあるストーリー、血湧き肉躍る分かりやすいドラマを求めているのだろうかね。

そしてそんな私の感想は、村上氏のデビュー作が新人賞を獲った時に「こんなものは小説じゃない」「こんなのだったら俺でも書ける」と、当時の評論家連中や周囲の友人の間で物議を醸したそれと一緒なのであった。
実際、文学賞の応募には毎年「村上春樹モドキ」がこれでもかと集まるらしい。

若い頃の村上氏がモデルであろうと思われる、なんかフワっとした主人公。そんで、どこかやる気の無い、そのフワっとした主人公の「ぼく」が、球の切れた電球でも交換するように何の苦労もせずに女の子を取っ替え引っ換えしている。
二十歳かそこらとは到底思えない、悟ったようにスカしていて浮世離れした恋人間の会話。特に何が起こるわけでもない瑣末的日常の断片をクローズアップしたようなストーリー・・。

読んでいて頭の中にその通りの映像は浮かぶものの、映画化したら恐ろしく退屈な作品になるだろうな・・などと思ってしまうのであった(「ノルウェイの森」は映画化されたらしいが、どうだったんだろう)。

その昔は「W 村上」などとよく比較されていた村上龍とは真逆の作風である。そう云えばこの前、村上龍の長編『半島を出よ』も読んだのだけれど、そちらは徹底的に面白くしてやろうというエンタメ的サービス精神がひしひしと感じられたし、相変わらずポップで分かりやすい小説的エネルギーに溢れていて大変に面白かった。

(春樹よ、少しは龍を見習え・・)などと、ビートルズファンがストーンズファンを煽る(あるいはその逆)ような事を毎度思ってしまうが、俺は何様のつもりなんだろうか。
ノーベル文学賞の大江健三郎と開高健の違いのような感じだろうか(前者も理解し難い小説家で、小難しい事ばかり言って人を煙に巻く、ただのインテリ悪文家としか思えない)。

確かに村上春樹の文章の読みやすさ、一言半句すら考えに考え尽くされているフレーズの強度などは一流である。国境を超えて世界中にフォロワーがいるし、そのストーリー性も多くの人々の共感を得る普遍的な「良さ」を備えているのだろう。

上で dis っている事と矛盾するが、自分もデビュー作の『風の歌を聴け』は良いと思った。
ウン十年ぶりに再読してみると、断片的なフレーズ以外は、話のスジも最後のオチも覚えていなかったのだけれど、あれは良かった。
それがどんな風に「良い」のかを言語化するのがまた難しいのであるが、その辺がまた「謎」なところなのかもしれない。

ただ、その全集に収められていた次作の、これも当時読んで何となく良かった記憶の残る『1973 年のピンボール』の方は、数ページを手繰ったところで(もう、いいか)と、本をそっ閉じしてしまったのだけれど。

なんだろう、近年の宮崎駿監督作品みたいに持ち上げられ過ぎなんじゃないだろうか。「思わせぶり」が説教を内包しているような。


以上、「ハルキストに刺されるんじゃないか」という程に散々と腐してしまったが、冒頭の『職業としての小説家』は大変興味深く読めた。

・近所の神宮球場へ野球を観に行って、ヤクルトスワローズのとある選手が2ベースヒットを打った時、突然小説を書こうと思った
・まだ世間的に小説家としては海のものとも山のものともつかないタイミングで「自分は小説家としてある程度の成功を収めるだろう」と大した根拠も無く確信する
・安い万年筆と原稿用紙を買ってきて、台所でビールを飲みながら書いた最初の2本
・なぜメディアに出ないのか、どうして文学賞の選考委員にならないのか?
・書いた作品は必ず最初に奥さんに読ませて批評してもらう
・小説家を続けるためにはフィジカルと規則正しい生活が要

アンチが読んでもかなり面白い村上流仕事術であった。
ある意味初めて「ハルキ凄えわ」と、鮮やかに手の平を返した次第である。

書いた人:カラーひよこ
Twitter:@colorhiyokoma

サウナ行ったり写真撮ったりしてます 🐤

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