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太陽と虹が重なる頃に…(4)

「ヤバいことって一体なんなんだろう?」
奏は不安そうに悠也の服を握った。
「大丈夫だって!」
悠也はそう言い笑った。
しかし、奏の顔は曇っていた。
「そうだ! 今からどこか遊びに行こう‼」
そう言い奏の手を引いた。奏は言われるままに引っ張られていた。
悠也は知らなかった。彼女の不安定な顔のその意味を…。


それから二人はカフェや公園、など奏が生存していた時に二人で訪れた場所に行き、二人での時間を楽しんでいた。
それはそれはとても幸せな時間だった。夢だと勘違いするくらい幸せな時間だった。
しかし、そんな時間も長くは続かなかった。遊園地へ行き、観覧車に乗るなり奏が胸を押さえ辛そうにし始めた。
「奏、大丈夫か?」
悠也が奏の背中をさすった。
今いるのは観覧車の中。助けを呼ぶ事など出来なかった。
奏は何も言わずに苦しそうに胸を押さえていた。
「奏、しっかりしろ!」
悠也は懸命に奏の背中をさすった。
しかし、その彼女の苦しみは刻一刻と幸せの時間は終わりを告げようとしていた。
「奏…… か、身体が…… 透けてる……」
さするのに必死になっていた悠也はふと我に返り、彼女の体を見ては驚きのあまり手が止まった。
すると、奏が胸を押さえながら話し出した。
「よ、蘇りの木の実の効目が…… 切れてきてる…… うわぁぁぁっっ!!!!!!!!!!」
奏は苦しみのあまり叫びだした。
悠也は奏を優しく抱きしめた。
すると奏の身体はもとに少しずつ戻っていき、胸の痛みも消えて行った。
こんな事が起きていても時間は何も知らないフリをして回っていく。
少しずつ観覧車も降下していく。
そして、観覧車から降りる頃には何もなかったかの様に奏は元気になっていた。
観覧車から降り、近くにあったベンチに腰掛けようとした時だった。
「みーつけた」
どこかで聞き覚えのある声がした。
2人は振り返ると黒い帽子を被った男が立っていた。
「あれだけ警告したのにどうして彼女をこの世界に置いとくんだ‼ もう私が魔法で天空界へ送る‼ ちょっと来なさい‼」
男は奏を睨みつけた。すると奏は怯えて何も動じなかった。
それを見た男はもう一度「来い‼」と奏めがけて叫んだ。
そうすると今まで何も言わなかった悠也が叫んだ。
「お断りします‼ アンタが会いたい人に会わせられるといった元凶だろ!それがなんだよ。俺らの勝手じゃねーか!」
彼の言葉を聞いた男のオーラが変わった。魔力か何かなのだろうか。悠也は身の危険を感じ奏での耳元で「逃げるぞ」と言うと奏の手を握り走り出した。
男は大きな声で怒鳴りながら追いかけてきた。何を言っているのかは分からない。しかし、ものすごく怒鳴っていた。
二人は懸命に走った。分からなくなるくらい走った。しかし、男に追われ恐ろしいはずなのに二人でいられるこの時間が何故か幸せに感じ、握られた手の温かさに安心感を感じた。もちろん、男に追われる恐怖や不安はあった。二人はとても不思議な感覚に襲われていた。
走っているうちに男の声がどんどん遠ざかり聞こえなくなった。
それをに気づくと二人は道端にしゃがみ込んだ。
しかし、道端にしゃがみ込んだ瞬間だった。
「私は魔法使いだ。 君達がどこに逃げようとどこに隠れようとすぐに分かるんですよ」
そう言い男は不気味に笑い目の前に現れた。


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