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深夜2時 しゃがみ込む女とボク

タクシーに揺られながら、ホロ酔いでホテルに戻ったのが深夜2時。

玄関をあけ、エレベーターに向かうとそこにはスーツケースの横にしゃがみ込む女性が。


「えっ?こんな時間に??」とは思ったけど、ホロ酔いのオジサンが声をかけて万が一ナンパなんかと勘違いされたらダルくてしょうがない。


そう思ったボクは、女性の横を素通りしてエレベーターのボタンを押した。

でも、なんかとてつもなく気になった。

見た感じは20代中盤くらいで、目がとても可愛らしい女性だったと思う。

そんな年齢の女性が冷たいエントランスに深夜2時にしゃがみ込んでいる。

絶対、何か事情があるはずだ!

たとえば「ホテルにやっと着いたけど部屋が空いていなかった」とか、「宿泊先を間違えてしまい、途方にくれている」とか、何かしらの事情があるんじゃないかと。


ボクは意を決して、声をかけた。

「大丈夫ですか?」

女性は「大丈夫です。ありがとうございます。」と礼儀正しく返答してくれた。

ここで、ボクはすぐに引き下がり、エレベーターのボタンを押して自分の部屋に帰った。部屋に入って、ふと思い出した。Twitterでよく見る「女性の大丈夫は大丈夫じゃない」という金言を。

ボクは荷物をおろし、1階に戻った。

まだ女性はしゃがみこんでいる。明らかに大丈夫じゃない(ように見えた)


あらためて、ボクは女性に聞いた。

「もし、困っているなら部屋とりましょうか?というか、チェックインしてないんですか?」

すると、女性は少し切ない声でこう言った。

「チェックインしました。けど…」

ボクは「ピン!」ときた。

普段は「女性心理がわかっていない」と叩かれまくっているボク。だけど、昨夜だけは程よくお酒が回っていたせいもあって、共感能力があがっていたのかもしれない。


「あっ、彼氏さんと喧嘩中ですか?」


女性は驚いた顔して、「ハイ」と言い、続けてこう言った。

「彼氏、もう寝ていて電話に出てくれないんです」

ボクは、ここで安心して部屋に戻ることを決めた。

金銭的な事情とか、精神的に追い詰められているとかではなかったから。
ただの痴話喧嘩だったのが、ボクに妙な安心感を覚えさせた。

最後に「そっか、大変だね。おやすみなさい」と言ったボクに、彼女は「本当にありがとうございます」とだけ呟いた。


部屋に戻ってシャワーを浴びながら、「20代って、いま思えば死ぬほどくだらないことで彼女と喧嘩したよなぁ」と過去を懐かしむ40代の自分がいた。

明日の飛行機の時間を確認して眠りにつく瞬間、なぜか「早く仲直りできるといいなぁ」と思えた。

1年に一度だけボクが優しさ見せた日の話でした。

もしこのエッセイを読んでくれている人の中に、20代とか30代の人がいたら、パートナーには優しくね。


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