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本好きの読書感想【泳ぐのに 安全でも、適切でも ありません/江國香織 】

あたしはまた泣き始める。
あたしのはじめての恋とはじめての人生と、
失われた真実のために。

『十日間の死』より

江國さんは、いつだってどこか浮世離れしているような人、少女のような大人の女性。
そんな印象。
だから彼女が感情を分かりやすく強く表現する事はあまり無いんだろうと勝手に想像していて、彼女の小説自体にも同じような印象を抱いてる。

だけど、時々ハッとするほどの激情が見える時がある。
例えば、小説の中で何度か出てくる言葉。『〜すべきだった』という言葉なんかは、そう。

この本だったら『父は、母を残して死ぬべきではなかった』とか、あと別の本にある詩の中で『あなたは私の子どもでも作るべきで、子どものあたしに、手を出すべきじゃなかった』とかね。(ごめん、うろ覚え。)

江國さんのカクスベキ論は、結構キツめで、言われた側はたぶんどうしようもなくなってしまうと思う。
だって、彼女がそう言う時は大抵もう『手遅れ』な時だから。
ほんと死んじゃうくらいの勢いで、後悔させてしまうのだ。

だけど実はそっちの方が本質なんじゃないか、とも思う。
少女のまま、大人の女性になるなんて!
この世の中で、そんな風に生きていけるなんて!
よっぽど強い意志と自分の規則を確立していないと無理だもの。

私は自分の中で守りたいと思ったルールは絶対に曲げない子どもでいたいし、そうあれる事を誇りに思う女なのだと自負してみたところで、また一つ。
江國さんを好きな理由をここに見つけた。


ーーーーーーー

『思いがけず頑固な人だね』と彼は良く言う。
近頃はもう分かりきったつもりからなのか、頻繁ではなくなったけど。
だけどそんな風に油断なんてしていると、貴方が思いもかけない方法で困らせてやるんだから、だなんて思ってしまう。
言葉なんて、ただの飾りでしかないんだから、だなんて思ってしまう。
本当のことを知りたければ、きちんと見ていないとダメよ、とも思う。

いつだって、不意に驚き、言って欲しいの。
『思いがけず頑固だね』と。
貴方にそう言われるたびに、私は私が誇らしくなる。

私たちは『泳ぐのに、安全でも適切でもない』世界に生きている
不安定で不埒な女と男でしょう?

いつか迎える死までの一瞬、この時を、どうか健やかに過ごしましょう。
欲張りを言うのなら、
それは貴方と一緒がいい。

恋ってそうゆうものでしょう?


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