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【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #32】サマー・プディング(2/3)

ベリーと「奴隷」

しかし、である。毎年7月の全英オープンテニス、ウィンブルドンが来るたびに「名物」として取り上げられる「ストロベリー&クリーム」、これはどうだ。1877年の第1回大会から供されてきたという、イチゴにこってりしたダブルクリームをかけただけの一品だが、ケント州の「ヒュー・ロウ農場」という指定農場で朝摘みしたイチゴを運び込み、コロナ・ウィルスによる観戦制限が敷かれるまでは大会期間中に200万粒近くが消費されていたという。イギリス(イングランド)でイチゴの栽培が始まったのはかのヘンリー8世時代だという。貴族の館にある温室で作られ、いわば富と権力の象徴として客人に振る舞われた。まるで、かつてのキュウリである。キュウリのサンドウィッチと一緒である(本連載#27#28)。

たしかにウィンブルドンの大会は、王室メンバーがロイヤル・ボックスで観戦しているときには、男性選手は首を曲げてお辞儀をする「ネックバック」、女性選手は「コーツィー(屈膝礼)」をしなければならないとか、ウェアはスポンサーのロゴを最小限に限定した白い物着用など、貴族的なしきたりとわざとらしい振る舞いに溢れており、そこで最も人気のある「ストロベリー&クリーム」もまた「富と権力の象徴」という意味合いから逃れられないようだ。

ヘザー・アーント・アンダーソン『ベリーの歴史』富原まき江訳、原書房、2020年

「富と権力」・・・。見上げれば絢爛豪華なものが、見下ろせば底なしの貧苦と労働によって支えられているということ。ウィンブルドンを始め、イギリスの初夏を彩るイチゴ、ラズベリー、ブルーベリーなど、サマー・プディングの材料となる「夏の果実」は、多くの外国人労働者によって収穫されているのが実情だ。ボルドーのワイン醸造用のぶどうの摘み取りが、北アフリカのマグレブ諸国からの安価な労働力なしでは不可能なように、「イギリスの夏の味覚」の収穫は、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアやアルバニアといった東欧諸国、モロッコやチュニジアといった北アフリカのマグレブ諸国、ケニアやナイジェリアなどのアフリカ諸国などからの移民労働力に依存している。労働許可証のあるなしに関わらずだ。

もちろん、すべてのベリー農場が劣悪な労働条件下で外国人労働者をこき使っているというわけではない。しかし、イギリスの黒人コミュニティを読者ベースにするオンライン新聞『ヴォイス(The Voice)』の2021年の記事によると、スコットランドやノリッチ近郊のベリー農場では「イチゴ奴隷(Strawberry slavery)」が存在する。低賃金、超過労働時間、約束された賃金からのわけのわからない説明されない多くの天引き。手元に残る僅かな賃金も住居費の名のもとに差し引かれる実態が報告されている。ベリー類に限った話ではない。昨年5月の『ガーディアン』紙では、アスパラガス農場で働くネパール人労働者の実態が報告されている。

他にもプラム、リンゴ、キャベツなど葉野菜やじゃがいもなどの根菜類まで、イギリスの農作物生産現場は外国人労働者なしでは作業が成立しないのが実情だ。だから保守党政府は、2019年にそれぞれの農産物の収穫期に合わせた季節労働ヴィザを積極的に発給できる暫定措置(pilot scheme)を導入した。

(続く)


サマー・プディングのレシピ  

(直径15cmのプディング型1個分)

材料

食パン           8枚
ベリー           500g
ミントの葉         10枚ほど
蜂蜜            90g
砂糖            30g
レモン果汁         1/2個分
水             大さじ2

作り方

①数種類のベリーを用意する。ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ブラックカラントなど手に入るものをあわせて500gに。

②鍋に砂糖、蜂蜜、レモン果汁、水を入れ、砂糖と蜂蜜が溶けたらミントの葉とベリーをくわえ、弱火でベリーがやわらかくなり果汁がでてくるまで煮る。ジャムのようにベリーの形が崩れてしまわないように気をつけて。

③煮た鍋の粗熱がとれたらミントを取りだし、果肉とシロップを分けてボールに入れる。

④食パンは日が経った乾燥したものを用意して、サンドウィッチ用にスライスする。パンの耳は切り落とし、型の底用に小さい円形が1枚、蓋用に大きい円形が1枚、側面用に台形を12枚カットする。

⑤カットしたパンの片面をシロップにかるく浸してから、プディングを取り出しやすいようにラップを敷いておいた型に敷き詰めていく。まず底を置き、つぎに台形のパンの底辺の短い方を下にして、少しづつずらしながら重ねていき型の側面を一周する。パンは隙間なく敷き詰め型のふちの高さまでくるように。

⑥果肉を型いっぱいに詰めてその上からシロップを注ぐ。この時シロップは少し残しておく。

⑦パンの蓋をかぶせ、ラップをした上から適当なお皿などで重石をしてシロップをパンにしみ込ませ、そのまま冷蔵庫で一晩冷やす。シロップがこぼれるので受け皿にのせておくとよい。

⑧型にお皿をかぶせてひっくり返しプディングを取りだす。残しておいたシロップをプディングにかけて、フレシュなベリーやミントの葉を飾りつけ生クリームを添えて、どうぞ!

次回の配信は8月24日を予定しています。

The Commoner's Kitchen(コモナーズ・キッチン)





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