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25話「子供の騒音と不誠実な親」

騒音は 一見些細で 実は深刻 上か下かの どちらか退去

 今回も、前回に引き続き、騒音をめぐる裁判で原告の請求が認められた貴重な事例です。

 裁判所は、以下の事実を判断要素として本件音は一般社会生活上Aの受忍限度を超えていると判断しました。

①Bが長男らと本件マンションに暮らし始めた頃から退去するまで(約1年9か月)ほぼ毎日本件音が生じている。本件音の程度は、50dB~65dB程度とかなり大きく聞こえるレベルのものが多く、午後7時以降、時には深夜に及ぶこともしばしばあり、長時間連続して及ぶこともあった。

②上記①のような本件音の程度からすると、Bは、本件音が特に夜間や深夜に及ばないよう長男を躾けるなど住まい方を工夫し、誠意のある対応を行うのが当然であり、AがBにそのような対応を期待するのも切実であった。しかし、Bの対応は、床にマットを敷いた以外は明らかでなく、その効果も不明である。Aに対しては、乱暴な口調で突っぱねたり、Aの申入れを取り合おうとしなかったりと極めて不誠実な対応であった。

③Aは精神的に悩み、Aの妻には、咽喉頭異常感、食思不信、不眠等の症状が生じた。

 Aは、訴訟等に備えて騒音計を購入して平成16年9月21日から平成17年7月31日まで本件音を測定しました。約1年近くにわたり測定した、高い騒音値という証拠もさることながら、今回裁判所は、上記判断要素の中でも「特にBの住まい方や対応の不誠実さを考慮すると、本件音は、一般社会生活上Aが受任すべき限度を超えるものであったというべき」と述べて、②を重視して違法性を認定しました。この点が本判決の特徴です。

 Aは、まず、管理人に相談し、管理組合にも協力を求め、自らBとの直接の話し合いの機会もつくり、しまいには、警察にも相談し、それでも埒があかなかったので、調停を申し立てました。調停は不成立に終わり、裁判での争いとなりました。そのうち、Bは、平成17年11月にはマンションを退去してしまいます。おそらく、Bはマンション内の有名人になっていたでしょうから、居心地も悪くなっていたことでしょう。しかし、裁判の判決が出たのは、Bが退去してから約2年経った、平成19年10月です。Bが入居して騒音トラブルの被害にあってからは約3年半です。裁判という長期戦に係るAの心労(しかも、Bというクセのある人物を相手にする)は想像に難くありません。

 私たちはこの判例から何を学べるでしょう。Aは、考えられるだけの方策は全てとった上で、最終手段として裁判を起こしたことが読み取れます。そして、裁判で勝つためには、騒音値の測定という客観的な証拠を長期間にわたり詳細に集めること、また、Bの不誠実な対応ぶりを証拠として残すことでしょう。そのためには、Bとのやり取りをボイスレコーダーに残すことも有効でしょう(※)。

 ちなみに、Bは弁論準備手続期日に連絡することなく出頭しないことがあり、本人尋問が予定されていたにもかかわらず、陳述書や本人尋問の申立書を提出せず、本人尋問を予定していた口頭弁論期日にも出頭しませんでした。裁判官からすれば、最悪の心証です。つまり、BはAに対して不誠実だっただけでなく、裁判に対しても不誠実でした。

 最後に、いくつか補足したいと思います。
まず、Bの長男が発生させていた音は、50dB~65dB程度でした。50dBは、およそ書店の店内や、間近で聞くエアコンの室外機の音に相当します。65dbは、価格が1万円前後の普通の掃除機の強モードです。以上からも、かなり大きく聞こえるレベルのものだったことがわかります。

また、本件マンションの床構造は、重量床衝撃音遮断性能はLH-60程度であり、日本建築学会の建築物の遮音性能基準によれば、集合住宅の3級で、「遮音性能上やや劣る水準」でした。

騒音トラブルは加害者にも被害者にもなりえます。未然に防ぎたい方は、事前に建物の遮音性能の値を確認した上で、新しい住まいを選ぶことが重要と考えます。

※)ちょうどこれを執筆していた時に、薗浦元衆議院議員が、政治資金規正法違反(虚偽記入など)の罪で略式起訴されたニュースが流れてきました。会計責任者の処罰を想定した同法違反で、国会議員本人の罪が問われるのは珍しいことです。

薗浦元議員と会計責任者だった元公設第1秘書の共謀認定の決め手になったのが「録音」でした。特捜部は録音から薗浦氏が秘書に証拠隠滅を指示したとみています。つまり、秘書が政治家の得意スキル「秘書がやりました」と「記憶にございません」を封じたわけです。ボイスレコーダーは自分の身を守るための必需品ですね。

東京地裁平成19年10月3日判決
[参考文献]
渡邊典子『わかりやすいマンション判例の解説[第3版]』378頁

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